第41話:軍資金2億1000万円の全権掌握
第4章:【飛翔編】戦後50年のミリオンセラーと合法的税流最適化
第41話:軍資金2億1000万円の全権掌握(1996年春・13歳・中2)
宮崎の短い春休みが終わり、新学期の喧騒が校舎のあちこちで跳ねていた
新しく配られた教科書をカバンに詰め、自室に戻った雄大は、ISDN回線に繋がったパソコンの前に座った
ディスプレイの青白い光が、暗い室内の壁を静かに照らし出している
画面に表示されているのは、東京の不破法律事務所と高坂税理士の事務所から届いた、最終的な資金移動の確定データだった
二億一千万円
両親への現金一億円の手渡しと永久利権のプレゼント、そして専門家二人への最高顧問報酬の支払いを経て、雄大が名実ともに全権を掌握した個人名義の資金が、そこには一円の狂いもなく鎮座していた
昼間の教室で、クラスメイトの橘詩織から手渡された、彼女の家系の秘密が隠された自由帳の暗号をふと思い出す
彼女をはじめとする身内には、これから自分が引き起こす世界規模の市場の嵐を、一切知らせる必要はない
ただの平凡な中学二年生としての日常という盾の裏側で、この二億一千万円の弾薬をどう動かすか
一九九六年の春、世界の金融市場は、翌年に控えた未曾有の暴風雨を前に、まだ欺瞞に満ちた静けさを保っていた
雄大は手元にある神のスマホの画面をタップし、二〇二六年の未来データベースから、東南アジアの通貨制度に関する膨大な資本の潮流データを抽出した
パソコンの画面に映し出されるアジア各国のマクロ経済データを、雄大はフラットな表情のままスクロールしていく
前世の飢えと孤独、そのすべてを過去の塵へと変え、自らの内に入れた身内を守り抜くための巨大な城
その基礎となる二億一千万円の全権は、いま完全に十三歳の少年の指先の中にあった
「ここからが、本当の戦いだ」
雄大は誰に聞かせるでもなくそう呟くと、冷めたブラックコーヒーを口に含み、喉の奥へと滑り落ちる温かい苦味を静かに味わった
詩織から託された暗号の配列と、画面の向こうで蠢く資本のデータが、少年の頭の中で静かに噛み合い始めていた
(鈴木雄大の個人資産:2億1,000万円)




