第38話:実家のリビングの緊迫、12歳の財務プレゼンテーション
第4章:戦後50年のミリオンセラーと合法的税流最適化
第38話:実家のリビングの緊迫、12歳の財務プレゼンテーション(1996年春・12歳・新中2)
引き戸を開けると、石油ストーブの独特な臭いと、父親の健一が好むブラックコーヒーの深い香りが鼻腔をくすぐった
テレビの音は完全に消され、食卓の前で身を固くしている健一と恵子は、入ってきた雄大の姿をただじっと見つめていた
雄大は静かな足取りで木製のテーブルへと歩み寄り、不破から届いたばかりの有限会社高天原企画の通帳を、二人の目の前へと滑らせた
プラスチックのカバーが擦れる乾いた音が、静まり返ったリビングに響く
「お父さん、お母さん。これが僕たちの法人の口座だよ。四億二千万円の入金が、今さっき確認できた」
健一は無言のまま、険しい顔でその通帳を手に取った
ゆっくりとページが開かれ、最下段に印字された桁外れの数字の羅列に健一の目が留まる
「な、何ねこれ……。四、二、ゼロ……」
隣からのぞき込んだ恵子が、引きつった声を漏らして両手で口を覆った
健一の細い指先が、文字通り小刻みに震えている
「雄大、お前、これは本当にすべて小説の印税なのか。講談館という大手の出版社から、これだけのお金が本当に振り込まれたというのかね」
「そうだよ、お父さん。でも、これを個人の収入にしてしまうと、当時の源泉徴収で半分近くが税金として消えてしまう。だから高天原企画という法人を作って、一円のロスもなく全額を着金させたんだ。高坂税理士の組んだ書類の通りにね」
健一は通帳をゆっくりと机に戻し、深く重いため息を吐きながら、雄大の目を真っ直ぐに見つめ返した
「中学生のお前が、東京の専門家を動かしてこんな仕組みを組むなんて……。私たちはただのサラリーマンだぞ。こんな額の金を、一体どう扱えばいいか分からない。恐ろしさすら感じるよ」
「心配いらないよ。お父さんとお母さんには、この高天原企画の取締役に就任してもらう。これから高坂税理士の設計に従って、役員報酬を分配して合法的な財務処理を進めていくから。家の住宅ローンもこれで一瞬で消せる」
「取締役、私たちがかね……。本当にそんなことが法律的に許されるの」
恵子が不安そうに健一の顔を見つめ、健一の袖を小さく引っ張った
健一はしばらくの間、静かに目を閉じ、何かを覚悟するように深く頷いた
「雄大がそこまで考えて、私たちのためにすべてのインフラを整えてくれたんだ。親である私たちが、怖気づいて息子の足を引っ張るわけにはいかないな」
「ありがとう。これから鈴木家を、あの不自由な貧困から完全に解放する。これはそのための、最初の確実な一歩だよ」
雄大は食卓の上のコーヒーを一口啜り、喉の奥へと滑り落ちる苦味を静かに味わった
リビングに流れる緊迫した空気は、鈴木家が新たな領域へと駆動し始めた何よりの証拠だった
(国内作家法人の総資産:4億2,000万円)




