↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/44

第38話:実家のリビングの緊迫、12歳の財務プレゼンテーション

第4章:戦後50年のミリオンセラーと合法的税流最適化


第38話:実家のリビングの緊迫、12歳の財務プレゼンテーション(1996年春・12歳・新中2)


引き戸を開けると、石油ストーブの独特な臭いと、父親の健一が好むブラックコーヒーの深い香りが鼻腔をくすぐった

テレビの音は完全に消され、食卓の前で身を固くしている健一と恵子は、入ってきた雄大の姿をただじっと見つめていた

雄大は静かな足取りで木製のテーブルへと歩み寄り、不破から届いたばかりの有限会社高天原企画の通帳を、二人の目の前へと滑らせた

プラスチックのカバーが擦れる乾いた音が、静まり返ったリビングに響く

「お父さん、お母さん。これが僕たちの法人の口座だよ。四億二千万円の入金が、今さっき確認できた」

健一は無言のまま、険しい顔でその通帳を手に取った

ゆっくりとページが開かれ、最下段に印字された桁外れの数字の羅列に健一の目が留まる

「な、何ねこれ……。四、二、ゼロ……」

隣からのぞき込んだ恵子が、引きつった声を漏らして両手で口を覆った

健一の細い指先が、文字通り小刻みに震えている

「雄大、お前、これは本当にすべて小説の印税なのか。講談館という大手の出版社から、これだけのお金が本当に振り込まれたというのかね」

「そうだよ、お父さん。でも、これを個人の収入にしてしまうと、当時の源泉徴収で半分近くが税金として消えてしまう。だから高天原企画という法人を作って、一円のロスもなく全額を着金させたんだ。高坂税理士の組んだ書類の通りにね」

健一は通帳をゆっくりと机に戻し、深く重いため息を吐きながら、雄大の目を真っ直ぐに見つめ返した

「中学生のお前が、東京の専門家を動かしてこんな仕組みを組むなんて……。私たちはただのサラリーマンだぞ。こんな額の金を、一体どう扱えばいいか分からない。恐ろしさすら感じるよ」

「心配いらないよ。お父さんとお母さんには、この高天原企画の取締役に就任してもらう。これから高坂税理士の設計に従って、役員報酬を分配して合法的な財務処理を進めていくから。家の住宅ローンもこれで一瞬で消せる」

「取締役、私たちがかね……。本当にそんなことが法律的に許されるの」

恵子が不安そうに健一の顔を見つめ、健一の袖を小さく引っ張った

健一はしばらくの間、静かに目を閉じ、何かを覚悟するように深く頷いた

「雄大がそこまで考えて、私たちのためにすべてのインフラを整えてくれたんだ。親である私たちが、怖気づいて息子の足を引っ張るわけにはいかないな」

「ありがとう。これから鈴木家を、あの不自由な貧困から完全に解放する。これはそのための、最初の確実な一歩だよ」

雄大は食卓の上のコーヒーを一口啜り、喉の奥へと滑り落ちる苦味を静かに味わった

リビングに流れる緊迫した空気は、鈴木家が新たな領域へと駆動し始めた何よりの証拠だった

(国内作家法人の総資産:4億2,000万円)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。