第37話:350万部のトリプルミリオン達成と、積み上がる現生
第4章:戦後50年のミリオンセラーと合法的税流最適化
第37話:350万部のトリプルミリオン達成と、積み上がる現生(1995年底〜1996年・12歳〜13歳)
冷え切った宮崎の冬の空気が、木造住宅の薄い窓ガラスを小さく叩いていた
自室の机に向かった雄大は、ISDN回線に繋がった電脳端末の画面を見つめていた
ディスプレイに表示されているのは、東京の不破厳から暗号化されて届いた、最終部数の確定通知データだった
戦後五十年の節目に世に放たれた『輸送船の艦長』は、日本中の言論空間を揺るがし、またたく間に三百五十万部という驚異的なトリプルミリオンを達成していた
「雄大、東京の不破先生から書留が届いちょるよ。法人の銀行口座の通帳も入っとるみたいやけど……」
廊下から母親の恵子が、信じられないものを見るような困惑の声を漏らしながら、茶封筒を持って入ってきた
雄大は静かにそれを受け取り、中から引き出した真新しい法人口座の通帳を開いた
そこには、高坂征十郎が設計した財務管理により、個人にかかる源泉徴収を一円のロスもなく回避した、本体価格千九百円に対する印税率十五パーセントの果実が刻まれていた
当時の消費税三パーセントを外書きで精密に上乗せされたその最終着金額は、四億二千万円という現生となって口座に鎮座していた
「な、何ねこの数字……。これ、本当にうちの法人の口座に入っとるお金ね」
恵子は通帳の数字を指でなぞりながら、呼吸を乱している
「予定通りに入金されただけだよ、お母さん。これは家の生活費じゃなくて、これから世界を相手にするための最初の軍資金だから」
「軍資金って、あんた、まだ中学生やとよ……」
「年齢は関係ないよ。不破先生と高坂先生の報酬も、ここからすぐに全額振り込んでおくから」
恵子は言葉を失ったまま深く息を吐き、動欲を隠せない足取りで居間へと戻っていった
一人残された自室で、雄大は冷めたブラックコーヒーを口に含み、喉の奥へと滑らせる
前世の孤独と、飢えるような貧困の記憶
それらすべてを過去の塵へと変えるための、これが最初の大規模財務インフラの完成だった
画面の向こうで積み上がった数字は、ただの記号に過ぎない
雄大は通帳をしっかりと右手に握りしめると、静かに席を立った
暖房の効きの悪い廊下を渡り、父親の健一と、先ほど戻った恵子が待つリビングの引き戸へと手をかける
これから鈴木家の、そして高天原企画の真の駆動を始めるための対話が始まる
雄大は引き戸を静かに横へと引いた
(国内作家法人の総資産:4億2,000万円)




