第36話:作家法人の電撃設立とISDNのスピード開通
第4章:戦後50年のミリオンセラーと合法的税流最適化
第36話:作家法人の設立とISDNのスピード開通(1995年9月・12歳・中1)
二学期が始まったばかりの宮崎の空気は、まだ容赦のない残暑に包まれていた
自室の畳の上、雄大は東京の不破から速達で届いたばかりの厚い書類を手に取った
公証役場と法務局での手続きを経て、正式に発行された設立登記簿謄本
そこには、有限会社高天原企画という文字がはっきりと印字されていた
「雄大、東京の不破先生から電話が入っちょるよ。法人の件やと」
廊下から母親の恵子が、不思議そうな声をかけて黒い受話器を差し出してきた
雄大はそれを受け取り、そのまま耳に当てた
「鈴木雄大です、不破先生」
『鈴木さん、登記がすべて完了しました。有限会社高天原企画、代表取締役にはご指定通りお父様の健一氏を据えています。高坂とも連携し、高峰社長との印税契約をこの法人の口座へ一元管理する手続きも済ませました』
「素晴らしい手際ですね、不破先生。これで個人への源泉を完全に遮断できます。役員報酬の分配についても、高坂先生の指示通りに進めてください」
『承知しました。それにしても、高天原、ですか。選んだにしては、随分とスケールの大きな名前ですね』
「ただの記号ですよ。不破先生、次の市場へ向けて、まずは足元のインフラを確実に固める必要があります」
『なるほど。高坂も君のその冷静さには舌を巻いていましたよ。彼はすでに次の税務書類の構築に入っています。何かあればすぐに私か高坂へ連絡をください』
「ええ、また動いてもらいます。では」
受話器を置き、雄大が自室に戻ると、すぐに玄関のチャイムが鳴り響いた
廊下を慌ただしく歩く足音に続いて、恵子が部屋のドアを叩いた
「雄大、NTTの工事の人が来んさったよ。あんた、いつの間にこんなの頼んじょったね」
作業着を着た作業員が、工具袋を肩に下げて室内を見回した
「鈴木雄大くんの部屋はここかな。ISDN回線の開通工事に来ました。中学生の部屋にデジタル回線を引き込むなんて、うちの局でも初めてのケースだよ」
雄大は何も言わず、ただ作業員の手元を見つめていた
「世界と繋ぐためのインフラですよ。私の仕事にはこれが必要なんです」
「はあ……。まあ、これで東京のアクセスポイントとも一瞬で繋がりますからね。今までのアナログ回線とは比べ物にならない速度になりますよ。パソコンで何か大きなデータでもやり取りするのかい」
「通信の速度が、今後のすべての駆動速度を決定しますから」
「難しいことはよく分からんが、お兄ちゃんは大物になりそうだね。よし、すぐに繋いでみせるよ」
作業員は手際よく室内のモジュラージャックを交換し、真新しいグレーのTAに配線を繋いでいく
申し込みから数週間待ちが当たり前とされる時代において、神のスマホから抽出した最短の申請手続きは、NTTの事務処理をわずか数日で通過させていた
「よし、回線テスト終了だ。ランプの同期を確認してくれ」
作業員を送り出した後、雄大はパソコンの電源を入れ、デジタル通信の同期を開始した
ピィー、ヒョルヒョルヒョル……
電子の海へと繋がる特有のダイヤル音が、静かな室内に響き渡った
大人の誰もがまだインターネットの真価に気づいていない一九九五年の黎明期
有限会社高天原企画という最初の拠点を手に入れた雄大は、画面に映し出される東京のデータを静かにスクロールし始めた




