第34話:文学大賞、満場一致の受賞決定
第4章:【飛翔編】戦後50年のミリオンセラーと合法的税流最適化
第34話:文学大賞、満場一致の受賞決定(1995年8月・戦後50年・12歳・中1)
古い扇風機が、金属製のガードをガタガタと鳴らしながら、ぬるい空気をかき回している。
実家の狭い茶の間の畳の上には、東京の高峰館から送られてきた一枚の書面が広げられていた。
鈴木健一は、仕事用のスラックス姿のまま正座し、その文面を食い入るように見つめている。
「雄大、ここに書いてあることは間違いにゃいとやな」
健一の宮崎弁が、緊張でいつもより硬く響いた。
「うん。満場一致で大賞に決まった」
雄大は、父の前に置かれた冷たいブラックコーヒーのマグカップを見つめながら、短く応じた。
『特別文学大賞、満場一致にて受賞決定』
太い明朝体で印字された文字の横には、選考委員たちの連名と、それぞれの最高評価のコメントが並んでいる。
「本当に、お前が一人でこれを書いたっちゃろ?」
台所から、濡れた手をエプロンで拭きながら恵子が近づいてきた。
「じいちゃんが話してくれたことを、そのまま原稿用紙に落としただけだよ」
「おじいちゃんの話ねえ……。でも、満場一致なんて、東京の偉い先生たちが全員お前の小説を一番て言ったということやろ。お母さん、なんだか背中がゾクゾクしてきたわ」
恵子はそう言いながら、健一の隣に腰を下ろし、何度も通知書の文字をなぞっている。
「信じられん……あの高峰館が、うちの12歳の息子にこんな賞を出すなんてな」
「そうよ、あなた。これ、本当に出版されるっちゃよね?」
「ああ。東京の編集長は、何て言ってきた」
健一は、一度深く息を吸い込み、コーヒーを一口すすって雄大を見た。
「宮崎のホテルに、契約書を持って直接来るって。戦後50年のこの8月中に、何が何でも出版したいらしい」
「宮崎までわざわざ来るというわけか。だが、相手は東京の大企業だ。俺のようなただのサラリーマンが、まともに対等な話ができるやろうか」
健一の目に、微かな不安の色がよぎる。
「大丈夫だよ、父さん。彼らが欲しがっている原稿は、ここにある。主導権を握っているのは俺たちだ」
「主導権、ねえ……。そうは言っても、あっちはいろんな本を作ってきたプロやろ」
「プロだからこそ、この原稿の価値が分かっているんだよ。変に妥協する必要は一切ない」
雄大は、茶の間の薄暗い隅に視線を向けた。
そこには、小学校高学年の日常の裏で、ナンバーズ4の資金の一部を父親に預けてプールしてもらい、構築した最初の秘密基地がある。
「お前がそこまで言うなら、俺も腹を据える。逃げるわけにはいかん」
「うん。俺が横に同席して、すべてを判断する。父さんは、鈴木家の堂々とした代表として、ただそこに座っていてくれればいい」
「分かった。お母さんも応援するからね。しっかりね、あなた」
健一はマグカップを畳に置くと、拳を固く握りしめた。
庭の柿の木からは、真夏の容赦ない蝉時雨が、開け放した縁側を通じて絶え間なく部屋へと流れ込んできていた。




