↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/42

第22話 11歳、インターネット黎明期の覇王へ

第3章 【潜伏編】インターネット黎明期の覇王と歪んだ未来の修正


第22話 11歳、インターネット黎明期の覇王へ(一九九五年、一月、十一歳、小六)


話は少し戻って、一九九五年の一月、自室のデスクの上ではPC-9821が静かに駆動していた。

『輸送船(はこぶね)の艦長』の執筆を進める傍ら、俺はもう一つのインフラをこの部屋に引き込んでいた。

デスクの端に置いたグレーの外付けモデムのスイッチを入れる。

ピー、という高い発信音に続き、ピーヒョロロ、ザザー、という独特の変調音が静まり返った夜の室内に響き渡った。

アナログの公衆回線を経由し、通信速度14.4kbpsの細い管から電脳空間へとアクセスする。

当時はニフティサーブなどの大手フォーラムや草の根BBSが全盛であり、一般向けの商用インターネット接続は始まったばかりの未開の領域だった。

ディスプレイの黒い画面へ、緑色の文字が上から一行ずつ、不規則なラグを伴ってじわじわと落ちてくる。

俺は点滅するプロンプトに向き合い、キーボードからATコマンドを直接打ち込んでいった。

国内の複数の草の根ホストを経由させ、中継局のログを攪乱し、自らの痕跡をダミープロキシの奥へと完全に隠蔽する。

この宮崎の片田舎にある六畳一間の自室から、公衆回線のパケットは東京の国際ゲートウェイを越え、海外の大学や研究機関が設置した剥き出しのパブリックサーバーへと飛んでいく。

ファイアウォールという概念すら定着していない、セキュリティプロトコルの脆弱極まりない黎明期のネットワーク。

俺はUNIX系の海外電子掲示板や、テキストベースのニュースグループの生ログをダイレクトに手元の画面へと引き出していった。

ポケットの中にある「神のスマホ」が提示する未来のタイムライン。

正式なデータとして網羅された二〇二〇年代までのログ。

そして、現世のネットの底に沈んでいる未加工のデータ。

その二つを脳内で突き合わせ、リアルタイムでスクリーニングしていく。

数年後に世界規模で巻き起こるITバブルの初動、その前兆となるシリコンバレーのベンチャー企業の動向や、技術者たちの微かな発言。

現世の誰もその全貌を掴んでいない市場の歪みを、俺は暗闇の中でただ静かに監視し、分析し始めていた。

モデムの小さなLEDランプが、データの送受信に合わせて赤く不規則に点滅を繰り返している。

俺はキーボードに指先を添えたまま、画面に映る無機質な文字の列をじっと見つめ続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。