第14話:ナンバーズ4開始(一九九四年秋)
第2章 【胎動編】軍資金の獲得と秘密基地の構築
第14話 最初の元手、ナンバーズ4を狙い撃て(一九九四年、秋、十歳、小六)
一九九四年の秋、宮崎の風は冷たさを帯び始めていた。
小学六年生になった俺の身体は、計画通りの筋トレによって、衣服の上からでも分かるほどに引き締まっていた。
手元にある「神のスマホ」の画面が、薄暗い自室の中で静かに光を放っている。
ここまでは一切の無駄なくタイムラインをなぞってきた。
だが、これ以上の計画を駆動させるには、どうしても実弾――まとまったキャッシュが必要になる。
俺の視線は、画面に表示された四桁の数字に固定されていた。
ナンバーズ4。
前世のデータベースから逆引きした、ある特定の抽選日の当選番号。
一分の狂いもなく、現世の確率論を凌駕する絶対のデータがそこにあった。
夕食後、リビングで新聞を広げていた父親の健一の前に、俺は一枚のマークシートと、自分の小遣いを貯めた千円札を置いた。
健一は無口な男だ。
実家で彼が嗜んでいたブラックコーヒーの苦い香りが、静かな空間に漂っている。
「父さん、明日、仕事帰りにこれをお店の窓口で買ってきてほしいんだ」
俺は十歳の子供の声を意識しながらも、感情の起伏を排したフラットな標準語で切り出した。
健一は新聞から目を離し、マークシートに並んだストレートの数字と、俺の顔を交互に見つめた。
普通の親であれば、子供の突拍子もない頼み事を一笑に付すか、説教を始めるところだろう。
だが、俺の視線には一切の揺らぎがなかった。
「……何故これだ」
健一が低く、無骨な声で問いかけてくる。
「ただの勘じゃないよ。数字の流れを全部計算したんだ。絶対に当たるから、父さんの名義で買ってほしい。当選金は、僕がこれから始めることの準備資金にする」
俺はそれ以上の言い訳をせず、健一の目を真っ直ぐに見据え続けた。
沈黙がリビングを支配した。
健一はしばらく俺の瞳の奥を探るように沈黙していたが、やがて何も言わずに大きな手で千円札とマークシートを包み込み、ツナギのポケットへと仕舞い込んだ。
余計な口出しをせず、息子の覚悟をその佇まいだけで受け止める。
それがこの男の流儀だった。
翌日の夜、帰宅した健一は、玄関先で俺に一枚の紙切れを黙って手渡した。
指定された四桁の数字が印字された、ナンバーズ4の投票券。
俺はそれを指先で受け取り、素早くポケットの奥へと滑り込ませた。
現世のシステムが、俺の持つ未来のデータ通りに駆動するかどうか。
確信は一〇〇パーセントだった。
自室に戻り、俺は冷え切った窓の外を見つめながら、次なるステップへの確実な手応えを噛み締めていた。




