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第6話 「勇者の人格には、魔王を倒す理由がありませんでした」

翌日。


私は新しい依頼書を見つめていた。


「……ねぇ」


担当者は視線だけをこちらへ向ける。


「閲覧を継続してください」


「返事が毎回微妙に進化してるのなんなの」


「改善履歴は保存しております」


「アップデート入ってる!」


「業務改善です」


「AIの更新履歴みたいに言わないで」


私は依頼書を開いた。


【依頼対象】


【勇者】


「勇者?」


「はい」


「ついに来た!」


思わず立ち上がる。


「勇者よ!?」


「勇者です」


「剣!」


「所持しております」


「魔王!」


「討伐対象です」


「冒険!」


「実施中です」


「異世界始まったぁ!」


担当者は一枚紙を追加した。


「こちらが仕様書になります」


「急に現実へ戻さないで」


私は紙を見る。


【役割】


【勇者】


【魔王討伐】


「……普通ね」


「標準仕様です」


「標準勇者って言い方ある?」


「普及率が高いため」


「家電じゃないんだから」


ページをめくる。


【記憶】

【正常】


【価値観】

【正常】


【感情反応】

【正常】


【意思決定】

【正常】


「全部正常じゃない」


「はい」


「じゃあ依頼は?」


担当者は次のページを開いた。


そこだけ赤字だった。


【願望】


【未設定】


「…………」


私は紙を見る。


担当者を見る。


もう一度紙を見る。


「え?」


「未設定です」


「願望だけ?」


「はい」


「そんなことある?」


「あります」


「勇者だよ?」


「勇者です」


「魔王倒すんだよ?」


「役割です」


私は頭を抱えた。


「つまり?」


担当者は淡々と言う。


「魔王を倒す理由がありません」


「えぇ……」


思わず勇者を見る。


青年は静かに剣の手入れをしていた。


顔つきは真剣。


身体も鍛えられている。


いかにも勇者。


私は近付く。


「勇者さん」


「はい」


「魔王を倒したい?」


勇者は迷わず答えた。


「倒します」


「いや、そうじゃなくて」


私は言い直す。


「どうして倒したいの?」


勇者は止まった。


しばらく黙る。


そして。


「……どうしてでしょう」


私は瞬きをした。


「え?」


「分かりません」


担当者が補足する。


「願望が未設定ですので」


「補足が軽い!」


私は勇者を見る。


「魔王に家族を殺されたとか」


「ありません」


「故郷を滅ぼされた?」


「ありません」


「世界を救いたい?」


「役割です」


「使命感は?」


「役割です」


「正義感は?」


「価値観です」


私は担当者を見る。


「ねぇ」


担当者は書類を閉じた。


「定義をご説明します」


「もうその前置きで嫌な予感しかしない」


「役割とは、やることです」


「はい」


「願望とは、やりたいことです」


部屋が静かになる。


「役割だけでも人は動きます」


「うん」


「しかし」


担当者は勇者を見る。


「長くは続きません」


私は勇者を見た。


勇者も剣を見ていた。


「勇者さん」


「はい」


「もし魔王がいなくなったら?」


勇者は少し考えた。


「分かりません」


「魔王を倒したあと、何がしたい?」


「考えたことがありません」


胸の奥が少しだけ痛んだ。


そうか。


この人は。


魔王を倒すために生まれたんじゃない。


魔王を倒すことしか、与えられていないんだ。


私は担当者を見る。


「ねぇ」


担当者はこちらを見る。


「設計変更を実施しますか」


私は首を振った。


「違う」


担当者は黙る。


私は勇者を見る。


「まず、この人が何をしたいのか、

それを知らないと何も設計できない…」


担当者は静かに頷いた。


「人格設計士として適切な判断です」


私は少しだけ笑う。


初めて褒められた気がした。


……いや。


あの人のことだから。


褒めたつもりはないのかもしれない。


それでも。


少しだけ嬉しかった。




人格は、設計できる。


でも。


誰かに与えられた役割は。


その人が生きる理由には、ならないのかもしれなかった。

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