【第36話 二股宣言】
いやはや。
思いがけず、お宝を発見してしまいました。
MPを消費することなくっていうと、あれだ。
聖士郎と同じく、超高火力の攻撃を無尽蔵に放てるってことだ。うーん、チート。
ただまあ、落札できるかは別問題。
だって、お高いんでしょう?
「競売開始額は――……」
あらやだ。金貨1000枚からとか書いてる。
久慈林先生以外に使いこなせるわけもないってのに、それでも買う奴がいるんだろうか。
いるんだろうな。
レアってだけで、コレクションする輩が。
いや、わかるよ。俺だって、遊ぶわけでもないのに、無駄にトレーディングカードとか集めちゃうクチだし。ブームが過ぎて熱が冷め、無駄遣いを後悔するまでがセットなんだよな。
「アタシと恋姫用の魔具は無さげ?」
「んー、武器と防具の項目には無いな」
次のページからは消耗品か。
スキルの有無にだけ注意して、ぺら、ぺら、とページをめくっていく。
話が最初に戻るけど、問題は資金だ。
パピコの精錬実績を+5以上にできないなら、+4以下の装備を量産するしかない。
久慈林先生に+5以上の装備を作ってもらい、それを売るというのも一つの手ではあるが、そうなったら、まず間違いなく制作者探しが始まってしまう。それは、平穏静かに暮らしたいという俺たちの趣旨に反するため、避けなければいけない。
いっそ、+3くらいのものを量産して、騎士団あたりに売り込んでみるか。
あとでハーゲンさんと睦琴を交えて相談してみよう。
などと考えつつ、さらにページをめくる。
「お、また大災魔物のドロップ品か?」
【災香ペルフローメ】
大災魔物の一柱――《色欲》のリヒドの眷族からドロップした魔法の香水。
魔物一匹の本能を増幅し、それに伴う行動を一つだけ促すことができる。
※対象の魔物と主従関係を築けるわけではないので、調子に乗らないように。
「ん? 大災魔物とは違うのか」
「眷族って書いているわね」
「眷族とかいんの? ウケる」
ウケはしないだろ。
魔物の本能を増幅って、良い方向に転がる展開が想像できないな。
これもコレクション的な目的で競売にかけられるんだろうし、実害はないと思うが。
「うーむ。消耗品の項目にも無さそうだな」
「あとは、貴金属ね」
「ウケる」
もはや、何がウケるなのか、わかりゃしない。
なんとなくだけど、スキル付きを探すなら、貴金属の類が一番期待できる気がする。
ま、無かったら無かったで、今回は久慈林先生専用武器に焦点を合わせればいい。
「この首飾りとか、すごく高そうね」
「うぇ、盛りすぎっしょ。趣味悪ぅー」
【タルピエーダの情熱】
500年前に滅亡した大国ブルーシールの王妃に代々受け継がれてきた首飾り。
※総重量3キログラム。
川尻と鬼ヶ島が目に留めたのは、デザイン性と実用性を完全無視。見栄に極振りしたとしか思えない、派手派手しいネックレスだった。
深海を思わせる紺碧色のでかい石をメインにし、チェーンの部分にもじゃらじゃらと暖簾のように、統一性のない宝石がふんだんに垂れ下がっている。
これを身につけていたという王妃様は、間違いなく肩凝りに悩まされていたことだろう。
「スキル付き……じゃないみたいだな。うん、パスパス」
「いやー。これはスキル付きでもパスじゃん」
「競売開始額が……わぁ、金貨5000枚って書いてあるわ」
筋トレアイテムでしかないくせに、ぼりよる。
つーわけで、こんな高価なガラクタに興味はない。次次。
「あ、この黄色い石がついた指輪、ちょっとカワイイわね」
「うんうん、いいかもー。でも恋姫のカワイさと並べると、見劣りしちゃうにゃー」
「こっちの水色の指輪と対になっているのかしら。色違いだわ」
「いいじゃんいいじゃん。恋姫とおそろでつけたいにゃー」
「左右の手に一つずつでもいいけど、わたしの指だと、ぶかぶかになりそうだわ」
「紐を通してネックレスにしてもいいと思うにゃー。恋姫とペアリングだにゃー」
「親指ならちょうどいいかしら」
「にゃー」
川尻、お前の相方がにゃーにゃー訴えかけているから、そろそろ構ってあげて。
えーと、どれどれ。
トパーズのような黄色の宝石がはめこまれているのが【九尾の指輪】
サファイアっぽい水色の宝石がはめこまれているのが【天馬の指輪】
九尾は中国神話で、天馬はギリシア神話だっけか。なんでもありだな。
どうせ、これもただの装飾ひ──
…………。
…………。
「きりはるくん、どうしたの?」
「不動が真面目な顔してると、アレだよね。んーと、アレ……んー、あー、キモいよね」
「言葉を選ぼうとするなら最後まで頑張れ」
「そよぎちゃん、きりはるくんの真顔がいくら不気味でも、キモいなんて言っちゃダメよ」
「めんご。努力はしたけど、キモい以外の言葉がまぢ出てこなかった」
「じゃあ仕方ないわね」
「お前もフォローしてくれるなら最後まで責任もって」
脱線した。
川尻が気に入ったらしい【九尾の指輪】に注目する。
銀色のリングに小さな宝石が一つ。非常にシンプルなデザインだ。
ゴテゴテした下品な首飾りを見た後だからか、そのシンプルさが余計にカワイく見える。
「川尻は、この指輪が欲しいのか?」
「え? や、そういうつもりで言ったんじゃないのよ」
「贈るよ」
「ふぇ?」
膝の上で広げていたカタログを閉じ、ソファーの上に置いた。もう見る必要はない。
「俺も、川尻に似合うと思う。だから、絶対に手に入れるよ」
「え、ええええっ!?」
ズモモモ、と川尻の首から顔が、温度計の中の赤い液体のように染め上がっていく。
「ちおおおおょっと不動、あんた何言ってんの!? 何血迷ったこと言っちゃってんの!?」
「血迷ったこと?」
ああ、なるほど。
指輪の競売開始額は金貨100枚と書いていた。
他の出品物が破格すぎて麻痺してしまいそうだけど、これだって普通に高い。
最終的に、いったい金貨何枚が必要になるのやら。絶対に手に入れるなんて軽々しく言っていいのかと、鬼ヶ島が声を荒らげたくなる気持ちもわかる。
でも、自分の言葉を撤回するつもりはない。
「俺は本気だぞ。だから川尻も、そのつもりでいてくれ」
「ひえええっ!」
「まだなんの説明もしていなし、困惑するよな。指輪を贈る時に、ちゃんと言葉にするよ」
「ま、待って、きりはるくん。……むつことちゃんは…………いいの?」
「睦琴? あいつは関係ないだろ」
「じゃあ、せーしろーくんは?」
「なんで聖士郎が出てくるんだ?」
もしや、あいつらにも、何か競売で競り落としてあげなくていいのかと言っているのか?
たく、川尻は優しいな。フォローは致命的に下手だけど。
ただ、今回は我慢してもらうしかない。あれもこれも購入する余裕なんてないんだから。
それくらい、あいつらもわかってくれるさ。そんなことで文句を言う奴らじゃない。
「睦琴たちには、後で俺からちゃんと説明する。まあ、勘のいい睦琴は、もう俺の考えなんて全部気づいているかもしれないけどな。俺から言うのを待ってくれているんだろ」
「……気にしなくて……いいのかな」
「ああ、気にしなくていい」
川尻は、何かを言いかけては口を閉ざし、顔を上げてはまた俯いてしまう。
それを何度か繰り返した。
「わたしも、きりはるくんのことは、本当に、本当に頼りになると思ってて」
「おう?」
「だから、ね。だから……」
おそるおそる視線が持ち上がっていき、上目遣いで固定される。
「…………わたしも、がんばっていいの?」
「そりゃ、もちろん川尻にも頑張ってもらうさ。俺たち(全員)の将来のために」
「わたしたちの、将来……えへへ」
両手を頬に当て、嬉しそうに、幸せそうに笑みをこぼす。
入手を宣言しただけでそんなに喜ばれるなら、これはもう、是が非でもゲットしないとな。
「異議ありッ! アタシは絶対絶対絶ッッッ対に認めないかんね!」
「そんな焦んなくても、ちゃんと鬼ヶ島にも贈るって」
やれやれだ。鬼ヶ島は、ちょっと心が狭いとこあるよな。
睦琴や聖士郎に、少しは申し訳ないと思う気持ちを持ってもらいたいもんだ。
おや?
川尻と鬼ヶ島の表情が、写真画像みたいに固まっている。
「二人とも、どした?」
「…………一応訊くけど、アタシにも贈るって、何を?」
「【天馬の指輪】に決まってるだろ。任せとけ。死ぬ気で金策するから」
「いや、ナニ堂々と二股宣言してんの?」
「なんの話だ?」
「そっちこそ、なんの話してんの?」
「だから【九尾の指輪】と【天馬の指輪】が目的のスキル付き魔具だったって話だよ。まさか二つ同時に見つかるなんてな。ラッキーラッキー」
上がったテンションをダブルピースで表現してみせる。が、それと反比例するかのように、二人のまとう空気が南極大陸の氷みたいに冷えていくのは何事なのか。
「わたし、きりはるくんのこと嫌いかも」
吐血しそうになった。
川尻に嫌われるとか、それだけで犯罪者の烙印を押されたくらいに精神ダメージが大きい。
「不動はホント、ホント、ホンッット。まぢで一回死んだ方がいいと思う」
「そういうこと言うのやめろよ。今の、冗談に聞こえなかったぞ」
「はは、冗談とかウケる」
だからウケないって。
指輪を渡す時に仕込みの種明かしをするつもりだけど、引っ張りすぎなのがまずいのか。
でも、鬼ヶ島は自分で、楽しみは後に取っとく派だって言ってじゃないか。
わからん。女心は難しいよ。
とりあえず目的は果たせたので、俺は逃げるようにして出品カタログを職員さんに返却しにいった。背中をメッタ刺しにしてくる視線が痛すぎる。
どうやったら機嫌を直してもらえるのか。
怒らせた原因すらわからないのに、考えたところで答えが出るはずもないか。
聖士郎にはもう相談できないし、助けてアブリルマン。
半ば諦めながら、二人のいる正面入り口に戻ると。
……他にも誰かいる。
また川尻と鬼ヶ島のファンだろうか。
いや、違う。
その人物と目が合い、内心で「げ」と苦い声を漏らした。「うわ、不動がいる」
「え、どういうこと? まさか、鬼ヶ島さんたち、あいつと一緒に行動してるの?」
袂を分かった、かつてのクラスメイト。
神足聡一と遠山摩耶だ。




