【第35話 大災魔物】
「神とか、まぢぷぎゃる」
「まあ、俺たちが知ってる唯一の神が、アレだからな」
おっと、悪口じゃないよ。
「とりあえず、話半分に思っていてくれ。実際のとこは、検証しないとなんともだ」
その検証に至るまでのハードルが、どちゃくそ高いわけですが。
大前提として、目当ての魔具が存在し、この競売に出品されていること。
アブリルさんが言うには、俺の希望する魔具は、魔具の中では珍しくない方だそうだけど、魔具自体が希少なので、どっちにしろ「あったらいいな」の希望でしかない。
そして次に。
出品されていたとしても、それを競り落とせるだけの資金を捻出できるかどうか。
現時点では全然足りていない。思った以上に、高精錬装備の売買に時間がかかっている。
残り20日ほどで、いったい金貨何枚を用意できるのやら。
それと最後に。
運良く競売で魔具を競り落とし、検証できたとしても、せっかくの仕込みが意味をなさず、うまくいきませんでした、となる可能性だってある。そうなったら、完全に無駄な買い物だ。
購入前に使用感だけでも試させてもらえないかな。
競売品で、それは難しいか。
そのあたりは後で考えるとして、まずはリストをチェックだ。
いくつかスキル付きの品はあったけど、どれも俺の探し物には合致しない。
ぺら、ぺら、とさらに数ページめくっていく。
「ん、この武器、銃か?」
目当ての物ではないが、珍しいものに行き当たり、思わず手を止めた。
ハンドガンのように見えるけれど、銃身も銃口も撃鉄もトリガーもなく、350mlの空き缶にグリップだけ付けたような、こざっぱりした形をしている。
「この世界にも銃なんてあったのか」
剣だの槍だの、当然のように武器を携帯した冒険者が往来を歩く光景には慣れてきたけど、銃はまだ、お目にかかったことがないように思う。
説明書きも一緒に記載されているので、そちらに目を通していく。
【大災杖キュベウテス】
大災魔物の一柱――《強欲》のレマルギアからドロップした魔法の杖。
「あれ? 銃じゃなくて、魔法の杖って書いているわよ?」
「まぢじゃん。誤植じゃないの?」
あーなるほど。そういうパターンか。
「きりはるくん、驚かないの?」
「銃の形をした魔法の杖なんて、今時珍しくないしな」
もちろん、向こうの世界の話な。
昨今の魔法少女は多様性に富んでおり、それに伴って魔法の杖もバリエーションが豊富だ。
拳銃、ライフル、重火器なんて、まだ普通。変わり種だと、パンツが魔法のステッキなんてパターンもある。何を言っているのかわからないと思うが、実際あるのだから仕方ない。
それよりも、俺はその手前の単語の方が気になる。
「大災魔物ってなんだ? 読み方は、たいざいでいいのか? だいさい?」
「あ、大災魔物ならアタシが知ってる。冒険者ギルドで最近よく聞くし」
「本当か? 教えてくれ。日本語で頼む」
「その念押し、まだいる?」
段階飛ばしで知名度を上げていることは一旦置いておくとして、冒険者になってこの世界の情報収集をするという目的を、しっかりと果たしてくれているようだ。
「えーっと、女神が言ってたじゃん? この《ディスカリカ》って世界に、他の世界の不純物――魔素が全部集まるようにしているって。んで、その魔素が魔物になるって」
「言ってたな。実に迷惑な話だ」
おっと、これも悪口じゃないよ。
「ほとんどの魔物は、水とか土とか木とか空気とか、世界そのものっていうの? そういうのから発生した魔素で生まれるらしいんだけど、七つだけ例外があるんだってさ」
「例外?」
「そ。七つの大罪ってあるじゃん? 聞いたことあるっしょ? まさにそれ。生き物の、特に醜い欲望や感情から発生した七種類の魔素が、それぞれ一つに集まって、一匹ずつ強い魔物を生むって話。まぢヤバくね?」
「どれだけ強いのか、まったく想像できんけど、なんとなくスケールがでかいことは伝わる」
「その魔物がもたらす被害が、とにかく大きいってんで、大罪と大災をかけてるっぽい」
七つの大罪。
暴食・傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・強欲・色欲。
だっけか。
そういや、スキルの説明を受けていた時、女神がこんなことも言ってたな。
『スキルの性能を均等にしちゃうと、強い魔物には勝てないんですから!』
あいつの言ってた強い魔物ってのは、十中八九、大災魔物のことだろう。
「ドロップ品があるってことは、少なくとも《強欲》の大罪魔物は倒されてるわけだよな?」
「ごめ。そこまでは聞いてなかった。でもなんか、倒しても百年くらいで復活するらしいよ」
「長いんだか短いんだか、それもいまいち想像しにくいな」
生物が存在する限り、そこに欲望や感情ってのは、必ずつきまとう。
であれば、大災魔物が復活するのも必然か。
「そよぎちゃん、あのことも、きりはるくんに言っておいた方がいいんじゃない?」
「あのこと? あー」
川尻の指摘に、鬼ヶ島が思い出したように「たかしたかし」と頷いた。
誰だよ、たかし。
「んーと、アタシたちと直接は関係ないから言うの忘れてたんだけど、なんか近々、騎士団と冒険者を引き連れて、大規模な魔物討伐遠征をやるんだってさ。隣の国も合同で」
「それって、まさか大災魔物を」
「これから生まれるらしいよ」
「なんでわか――……ああ、巫女姫の予言ってやつか」
「それそれ」
予知スキル、便利だな。
俺たち代行者の出現時期をジャストで予知していたわけじゃないところを見る限り、精度に多少の難ありって感じはするけど、事前に備え、行動に移せるだけでもメリットは大きい。
「その行軍に参加するのは、Dランク以上の冒険者だよな?」
「そだね。駆け出しのアタシらは何も言われてないし、参加義務もないっしょ」
「だよな。安心した」
…………。
ふと、元クラスメイトたちのことが頭をよぎった。
いよいよか。
笛吹は、飛び級でBランク冒険者になったんだっけか。だとすれば、最前線だろうな。
どうでもいいけど。
他の何人が冒険者になり、何人が騎士団預かりになったのかは知らないが、国に保護された奴らは、もれなくこの遠征への参加を義務付けられるに違いない。
どうでもいいけど。
俺の苦労を知ろうともせず、唾を吐き、石を投げつけるような薄情な連中だ。
たとえ、この遠征で大怪我をしようが、くたばろうが、知ったこっちゃない。
本当にそう思っている。嘘偽りなく俺の本音だ。
…………。
それでも。
まあ。
全員が無事で帰ってこられるに越したことはない。
頭の片隅で、そう思うくらいはする。
「きりはるくん、どうかしたの? いつもより変な顔をしているわよ?」
「それは、いつも変な顔という意味ですか?」
「ごめんなさい。言い方が悪かったわ」
「いや、別にいいけど」
「いつもより気持ち悪い顔をしているわよ?」
川尻さん、言い直した方がキツいです。
「なんでもない。この武器の性能に驚いただけで」
「性能って、うわ、ヤバ。攻撃力が500もあるじゃん。これ、未精錬っしょ?」
なんと、未精錬で+4ミスリルダガー(※攻撃力480)よりも高い。
同じように+4まで精錬した場合、攻撃力は12000にもなる。
さすがは大災魔物のドロップ品と言ったところではあるが、早くも攻撃力のインフレか?
と思いきや。
続きの説明文に、エゲつないことが書いてあった。
MPを用いることなく大気中の魔素を凝縮し、魔力球として放つことができる。
ただし、発射の際は、常に二択を迫られる。
ハズレを選んでしまった場合、凝縮した魔力が暴発し、高火力がそのまま使用者を襲う。
※どうしても使いたい時は、周りに誰もいないことを確認し、遺書を残してからにしましょう。
うーわ……。
鬼ヶ島と川尻のための魔具を探しにきたのに、とんでもないものに出くわしてしまった。
当たれば高火力。ハズレは即、死に直結するデッド・オア・アライブ。
2分の1の確率で、あの世行きのロシアンルーレットだ。
こんなもの、誰が使おうと思う?
決まっている。
一人だけ、この武器の使い手が存在する。
「やっべ……。先生専用の武器見つけちまった」




