第29話 攻略の糸口
「続いて、レベルについて質問させてください」
「キリハル殿の世界では、レベルが存在しないのですか?」
「完全に空想上の話ですね。このレベルって、人間に限ったものではないんです?」
「はい。魔物を除く、あらゆる生物にレベルは存在します」
「レベルアップは、魔物を倒した時だけなんですか? 女神の説明ですと、倒した魔物を形成していた魔素が、倒した人の存在そのものを強化する材料になるとかほざいていましたが」
おっと。女神の話をすると、つい口調が荒くなってしまう。
悪口にカウントされないよう気をつけないと。
「その認識で相違ありません。魔物を倒した時のみ、経験値が入ります」
「そこがよくわからないんですよね。例えばですけど、剣の稽古を頑張ったり、筋肉をいくらつけたりしても、強くはなれないってことなんですか?」
そんなはずはないだろう。仮に同じレベル1でも筋トレしまくったガチムチなレベル1と、虚弱体質でガリガリなレベル1が同じ強さなわけがない。
「結論から申しますと、強くなれます」
「ですよね。詳細をお願いします」
「では、レベルをある程度伸縮性のある器。強さを液体だと考えてください」
アブリルさんが、レベルと強さを明確に別物とした。
伸縮性のある器……水風船でも想像すればいいか?
「この液体は、キリハル殿の仰る剣の稽古や筋力強化などで増やすことができます。ですが、レベルという器が小さいと、この液体を受け止めきれないのです」
「同じレベルだとしても、器の大きさっていうのは、人によるんですか?」
「そうですね。種族や性別、身体の成長によっても変わってきます。キリハル殿の歳と体格でレベルが1~10あたりですと、器の大きさが、液体量に見合っていないと思われます」
「それは、器の方が小さいって意味ですよね?」
「そのとおりです。あ、キリハル殿の、人としての器が小さいという意味ではありません!」
「いや、わかってますから」
「……伸縮性のある器は、適切な液体の量を超えたとしても、多少は受け止めてくれますが、低レベルのうちは、かなりの量がこぼれてしまっています」
なるほど。
そのため、器を大きくする。すなわちレベルを上げれば、それまでこぼれていた分の液体を受け止められるようになるから結果として強くなる。ステータスも上昇するってことか。
「レベルが低いうちに行う過度な稽古や筋力強化は、強引に液体を器に押し込んでいる状態なわけですね。身体に悪そうだ」
「いかにもです。小さな器で無理をすれば、身体を壊す原因になります」
ここで、会話を聞いていた睦琴が小さく挙手をした。
「逆に、身体を鍛えないままレベル10を超えたあたりになってくると、今度は液体量が器の大きさに対して少なすぎ、ステータスが一向に上昇しなくなったりするのかな?」
「そのとおりです! 凄いですね。私の拙い説明で、ここまで完璧にご理解いただけるとは。キリハル殿だけでなく、ムツコト殿もまた、神の代行者に相応しい聡明さをお持ちだ」
「いやいや、お似合いの二人などと、言いすぎだ」
誰かそんなこと言った?
ともあれ、レベルと強さの関係性は、だいたいわかった。
「あとは、そうですね。魔物を倒して得る経験値なんですけど、パーティーを組んでいたら、自動的に均等分配してくれたりするんですか? そうでないと、攻撃に携わらないサポート役なんかはレベルを上げられないですよね?」
「そうなんです。上げられないんです」
「え、本当に上げられないんですか?」
「はい。騎士団では一定の給金が保障されているため、支援に専念してくれる者もそれなりにおりますが、完全歩合制の冒険者にはほとんどいません。値は張りますが、回復が欲しければポーションなどで代用できますから」
「あららー」
支援役のレベルを仲間が協力して上げることもできるだろうけど、その手間と苦労が実益に見合わなければ、どうしたってパーティーに不和が生まれるだろうな。
話の切れ目を見つけ、サクサク感がなくなりつつあるかき揚げを咀嚼。
口内の油分を流すつもりで少量の水を飲む。飲みすぎると、米が水を吸って膨らみ、胃袋を圧迫してしまう。既にパンパンではあるが。
「スキルはどうなんです? これは魔法とは別ですよね?」
「スキルも魔法の素質と似たようなものでして、産まれた時点で有無が決まります。天からの授かりものと考えられていますね。得ようとして得られるものではありません。勇者ほどではないですが、10年に一人産まれるかどうかです。巫女姫様の予言もスキルによるものです」
「そうですか……」
他のゲームや小説よろしく、後天的に習得できればと思っていたけど、当てが外れたか。
「ですが、例外もあります」
「例外? どんなです?」
「魔物の中から、ごくまれにネームドと呼ばれる特別強力な個体が出現するのですが、魔具をドロップすることがあります。武器や防具、宝石や消耗品など形は様々でして、その中には、装備時に限り、特定のスキルを使用可能になるというものがあるのです」
「おお~~~~」
「ただ、得られるスキルのほとんどが取るに足らないものだそうで、そんなガラクタに大金を出すくらいなら、普通にステータスを上げる効果が付与されている装備を購入した方がいいというのが一般的な見方です。それでも希少品には違いないので、一部の好事家には需要があるようですが」
取るに足らないか。
ところがどっこい、発想次第で評価が一変するなんてことはザラにある。実証済みだ。
それに、俺がここで求めているのは、そんな意外性を秘めたものじゃない。
本当に使えないゴミと思われているものでいい。
あるかな。あるといいな。
でなきゃ、せっかく仕込んだ甲斐がない。
「魔具を手に入れるには、どうすればいいんですか?」
「方法としては、三つでしょうか」
「自分でネームドを倒して手に入れる。他の所有者と交渉する」
睦琴が間髪入れずに二つ答えた。アブリルさんが、感心したように頷く。
やるな、睦琴。だが、最後の一つは俺がもらう。
「三つ目は、他の所有者から奪う、ですね?」
「いえ、違います」
違った。自信満々で言ったのに、恥ずかしい。
「桐春、ここはファンタジーではあるが、現実だ。漫画と混同してはいけない」
「キリハル殿、他者から奪うという考えは、人道的に見て改められた方が……」
追い打ちやめて。言ってみただけだから。
「答え、お願いします」
「三つ目の方法ですが、それは競売です」
「なるほど、概ね正解と言えなくもありませんでしたね」
「桐春」
「わかってる。皆まで言うな」
まだ一週間も経っていないのに、もう向こうの世界の漫画が恋しくなってきた。
「商業区に、他国の使者を招く迎賓館がありまして、そこで年に一度、大きな競売が開かれるのです。私のような一介の騎士には縁のない世界ですが、出品物は会場で冊子にまとめられ、誰でも閲覧できるようになっているので、興味があれば一度足を運んでみてください」
「その競売、次はいつ開催されるんですか?」
「確か、次の首脳会談に合わせて開かれるはずですので……。三十日後ですね」
思った以上にすぐそこだった。
まあ、目的の魔具が出品されるかもわからないし、優先度はマイホームの方が上だ。
期待せずに、後で出品物を確認するだけしに行こう。
「他にも何かご質問はありますか?」
そりゃ、腐るほどある。
魔法について、もっと詳しく教えてほしいし、干渉するつもりはないが、この国の王政とか情勢とか。あとグルメ情報も。何ができて何ができないのか、向こうの世界との違いを知っておいて損はない。訊きたいことが多すぎて、逆に何を訊いたものやら。
だけど、門兵のアブリルさんに質問はないかと問われ、真っ先に浮かんだことが一つ。
「俺たちがクーリッシュにやってきた後、何か変わったことはありませんでしたか?」
「変わったこと、ですか?」
「他にも代行者が来たとか」
明確に敵とみなし、聖士郎にやられたあいつらも、この王都市に来ているんだろうか。
「いえ、キリハル殿たちの後に、それらしき人物は一人も訪れておりません」
「……そうですか」
剣崎、火神、浜地。
あの森からクーリッシュに入るなら、絶対に西門を通るはずだ。
来ていないってことは、野垂れ死んだか。
知ったこっちゃないが。
「変わったことと言えば、死にそうな顔をした商人が西門を出ていったくらいでしょうか」
「死にそうな顔をした商人? それってもしかして、糸目の?」
「糸目……。言われてみれば、確かに糸目でした。ご存じなのですか?」
「この宿に向かう途中で見かけただけです。なんか、奇声をあげて目立ってましたから」
「奇声ですか。何があったのやら。商売に失敗でもしたのでしょうか」
「かもしれませんねー」
俺はすっとぼけた。当の相手が俺で、さっき渡した金貨がスキルで巻き上げた金だなんて、アブリルさんも良い気はしないだろう。この人からの好感度は下げたくない。
「一応声をかけましたところ、隣国のザクリッチへ行くと言っていました」
「遠いんですか?」
「馬車を歩かせて十日といったところでしょうか」
それがどのくらいの距離かはいまいち想像できないけど、近場ではなさそうだ。
あの詐欺商人、国を出ていたのなら、変に警戒しなくてもよかったな。
「キリハル殿」
「はい?」
「何か憂いておられるように見えますが、他にも仲間が到着される予定なのですか?」
「そういうわけではないです。気にしないでください」
「私でお力になれることがあれば、なんでもおっしゃってくださいね」
「……ありがとうございます。じゃあ、遠慮なく一つだけ」
コルネット商会との接触を図っていることを、俺はアブリルさんに話した。
500金貨の返還、ぶっちゃけそこは重要じゃない。交渉のきっかけになればと思っていただけなので、相手がそれを突っぱねるのなら、手札から除外するだけのこと。
なので、そのあたりの胡散臭い話は全部伏せておいた。
「俺は見てのとおりガキで、商人ですらない一個人です。信用なんてあるはずがない。だからアブリルさんの、騎士という立場を貸してほしいんです。取り次ぎまでで結構ですので」
この世界の騎士は、向こうの世界で言う警察みたいなものだ。
騎士が面会を求めれば、少なくとも、取りつく島もないなんてことにはならないはず。
そこに加え、勇者を自称することが可能な聖士郎も連れていけば、門前払いはないだろう。
信用を得るための決定打に欠けると言わざるを得ない状況は変わらないけど。
「そんなことでよければ、お安い御用です」
「ありがたいです。せめて、お昼を奢らせていただけませんか。お礼と言えるほどのことじゃないですけど、好きなものを注文してください」
「お気持ちだけで。実は、キリハル殿の食べっぷりを見ているだけで、お腹いっぱいに……。凄いですね。その量を完食できてしまうなんて」
器についた米をかき集め、最後の一口を放り込む。
はちきれんばかりに腹が膨れていることは膨れているけど。
「…………ゴチソウサマ」
本当に完食できてしまった。
無心で口を動かしているうちに、いつの間にやらだ。
「睦琴、これで文句はないだろ?」
「嫌がらせのつもりで注文したのに、まさか本当に食べきってしまうとは」
嫌がらせだったと白状しやがった。
でも、俺ってば、こんなに食える奴だったのか。
案外、大食いY〇uTuberとして、いい線いけるかもしれないな。
……なんて。
そんなわけがない。
自分がどのくらい食べられるかなんて、誰よりも俺が一番よく知っている。
だからこそ、これはあり得ない。
「…………」
「桐春、黙り込んでどうした? 胃もたれでも起こしたのか?」
「ちょっと試したい」
「試す?」
「今からソッコーでレベルを上げてくる」
「今から? まさか、街の外に出るつもりか?」
「牙の生えた兎一匹でいい。それでレベルは上がるはずだ」
睦琴のスキルは、俺がレベル4でいられる分の経験値だけをきっかり消去した。
ということは、どれだけ少なくても、新たに経験値を得た時点でまたレベルは上がる。
「あと、フランナさんから、ハサミを借りておいてくれ」
「構わないが、まさかハサミを武器にするつもりか?」
「違う。戻ってきたら散髪する」
「!?!?!?!?」
意味不明って顔だな。
でも、ついに見つけたかもしれない。コルネット商会を攻略する糸口を。
申し訳ありません。
ここから週一ぺースでの更新とさせていただければと思います。
次の更新は、9/7(月)の18時となります。




