表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競馬2〜『変異する血統(ブラッド・リンク)』〜  作者: 水前寺鯉太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/55

第52話

「静寂の深淵、後方に潜む牙」


 千二百メートル地点。メイダンの長いバックストレッチ。

 ドバイの夜気を切り裂き、各馬の排気熱が陽炎となって砂の上に揺れている。

 だが、その光景をモニターで見ていた義清が、椅子から立ち上がった。

「……姉さん!? 何をしてるんだ、そんな位置で!」

 画面の中、漆黒のレイスターが先行集団からズルズルと後退していく。全十二頭の最後方、舞い上がる砂塵の最も濃い場所にその身を隠していた。

「……計算ミスじゃないわ」

 亜紀子がスパナを握りしめたまま低く呟く。

「ピエールの炎は周囲の酸素を食い尽くす。前にいればいるほど、コアは熱を逃がせなくなる。……麗は、砂の壁を盾にして心臓を冷やしてるんだ」

 レイスターのコックピット内は、外部の熱を遮断した極限の静寂に包まれていた。

 麗はバイザーに投影されるコアの温度グラフを凝視している。

(……まだよ。まだ動かないで、レイスター。……あんたの鼓動を、一回分でも多く最後に残しておくの)

 前方では、ピエールのジャック・オ・ランタンがアメリカの強豪と激しい先頭争いを繰り広げている。オレンジの炎が砂を焼き、周囲の空気は焦げ付いていた。

 ピエールは、バックミラーのセンサーに映らないレイスターの存在に、不気味な苛立ちを覚えていた。

「……逃げたのか、麗? それとも、もう心臓が止まったか?」

 ピエールがスロットルを一段階押し込む。排熱が、後続を焼き払うように膨れ上がる。

 だが、最後方のレイスターは、深い砂の中に沈み込みながら、じっとその時を待っていた。

 ひび割れたコアに走る傷が、青白い光を湛え、爆発的なエネルギーを内側に凝縮させている。

 残り八百メートル。第三コーナー。

 先行集団の足色が、ドバイの深い砂に削られ、わずかに鈍った。

 麗の指先が、心中プラグの最終トリガーに触れた。

「——お待たせ、レイスター。……あたしたちの時間を、始めましょうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ