第51話
「砂漠の弔鐘、極限のゲートイン」
日本の村上ガレージには、不気味なほどの静寂が満ちていた。
大型モニターに映し出されているのは、漆黒の夜空の下、人工の光に照らされて輝くメイダン競馬場だ。
「……姉さん。……レイスター」
義清は組んだ指が白くなるほど強く握りしめていた。隣では、亜紀子がルナティックの整備用スパナを握ったまま、画面を睨みつけている。
「……負けたら承知しないよ、麗。最高にカッコいい幕引きを見せなさいよッ!!」
地球の裏側。
メイダン競馬場、ドバイ・ワールドカップ。
麗は、コックピットの中で「その音」を聞いていた。
——ピシッ。
外部の喧騒を遮断した静寂の中で、コアのひびが、ドバイの熱気に耐えかねてさらに一筋深まった音。
「……我慢してね、レイスター。もうすぐ、自由にしてあげるから」
麗は、健造から渡された心中プラグを深く押し込んだ。
モニターのエネルギー値が危険域を指して真っ赤に染まる。機体全体が、かつてないほどの高熱と振動に震え始めた。
ゲートが爆ぜる。
世界最高峰のダート馬十二頭が、一斉にドバイの深い砂を蹴り上げた。
一歩目。レイスターの脚部アクチュエーターが、メイダンの重い砂に沈み込む。日本の砂よりも細かく、底なし沼のように機体を絡め取る。
麗はリミッターを無視してスロットルを叩きつけた。
「——行きなさいッ!! 泥の中を這いずり回った、あたしたちの本気を見せてやるのよ!!」
漆黒の影が、砂塵の壁を突き破って前方へと躍り出る。
そのすぐ横、オレンジの炎を撒き散らしながら、ジャック・オ・ランタンが並びかけた。
「……ハハッ! いいね、麗! その壊れかけの心臓から漏れ出すエネルギー、全部僕が焼き尽くしてあげるよ!!」
ピエールの叫びと共に、周囲の酸素が一気に薄くなった。
第一コーナー。
アメリカのパワー自慢たちが外から圧力をかけ、内側からは地元の王族機が火花を散らす。その中心で、レイスターのコアは死へのカウントダウンを刻みながら、青白い光を放ち始めていた。
麗の視界が、コアからの異常な熱伝導で歪む。
だが、口元には笑みが浮かんでいた。
(……ああ、これよ。……これこそが、あたしたちが求めていた地獄だわ




