表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競馬2〜『変異する血統(ブラッド・リンク)』〜  作者: 水前寺鯉太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/55

第47話

「鋼の寿命、薄れゆく鼓動」


 香港から帰国した村上ガレージの朝は、いつになく静かだった。

 有馬記念を制した義清の歓喜も、亜紀子の喧騒も、今の麗の耳には遠く響いている。彼女の意識はただ、メンテナンス・ドックに鎮座する漆黒の巨躯レイスターに向けられていた。

「……おかしいわね」

 麗は眉をひそめ、充電コネクタを接続したモニターを凝視する。いつもなら数分で臨界点まで跳ね上がるエネルギー・バーが、今日は底の方で停滞している。それどころか、ただアイドリングさせているだけで、バッテリーの残量が目に見えて削られていく。

「麗。……もう、無理に追うな」

 背後から、健造の低く嗄れた声がした。

 彼はオイルに汚れた軍手を脱ぎ、レイスターの脚部アクチュエーターにそっと触れた。

「出力が上がらねえのは、バッテリーの劣化だけじゃねえ。……フレーム、回路、プログラム……その全てが、摩耗しきってる。……レイスターは、香港のあの硬い芝を砕いた瞬間に、一生分の輝きを使い果たしたんだ」

 麗は息を呑んだ。

 装甲の奥から伝わってくるのは、かつての力強い鼓動ではなく、断続的に震える細い痙攣だった。

「……あと、どのくらい持つの? 親父」

「……全開走行は、あと一度。……いや、持って数分だろうな。次にリミッターを外せば、こいつはゴール板を越える前に、ただの鉄屑に戻る」

 ピットの入り口で、義清と亜紀子が立ち尽くしていた。

 二人は言葉を失っていた。

「……ねえ、レイスター。あんた、まだ走りたいの?」

 麗が問いかけると、レイスターのメインモニターが一度だけ、弱々しく、だが確かな意思を持って点滅した。

 麗はしばらく、そのモニターを見ていた。

 それから、ゆっくりと手を装甲に押し当てた。

 レイスターが、低く、かすれた電子音を鳴らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ