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からくり競馬2〜『変異する血統(ブラッド・リンク)』〜  作者: 水前寺鯉太郎


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45/55

第45話

沙田(シャティン)の閃光、届かぬ咆哮」


 残り二百メートル。香港・沙田競馬場の直線は、熱狂的な広東語の怒号に包まれていた。

「——砕け、砕け、砕けぇッ!!」

 麗は叫び、血走った眼で前を走る極彩色の背中を睨みつけた。

 磁気流体アクチュエーターを限界まで硬化させたレイスターの脚部は、もはや走るというより、鋼鉄の槌でコンクリートを叩き割るような推進力を生んでいた。一完歩ごとに火花が飛び、装甲の隙間から過熱したオイルの煙が吹き出す。

 だが、その一馬身前。

 オリエンタル・ドラゴンは、龍のごとき滑らかさで加速していた。麗が大地を叩き割るエネルギーの一部が破壊に削られているのに対し、龍はすべての出力を前進へ変換している。

「……これが、世界の適応なの……!?」

 内側から食らいつく英国のバトルブリテンの重厚な影がよぎる。三頭が死力を尽くし、乾いた音を立ててゴール板へと飛び込んだ。

 静寂。

 掲示板に灯ったのは、地元ファンが待ち望んだ龍の番号だった。

 1着オリエンタル・ドラゴン、2着レイスター(半馬身)、3着バトルブリテン(クビ差)。

「……はぁ、はぁ、……っ」

 麗は、動かなくなったレイスターのコックピットで、ハンドルを握ったまま項垂れた。

「麗、顔を上げろ。……設定値は完璧だった。負けたのはマシンの性能じゃねえ」

 ピットからの健造の声は、どこか誇らしげだった。

「最後の五十メートルで、ドラゴンの滑走ラインを自分の泥で上書きしようとしただろ。……あんな無茶、普通のジョッキーにはできねえよ」

 麗がレイスターから降りると、オリエンタル・ドラゴンのジョッキーが歩み寄ってきた。泥だらけになったレイスターの脚部を見て、親指を立てた。

「……クレイジーな走りだ、日本のクイーン。あと十メートルあれば、我々の龍は砕かれていたよ」

 麗は何も言わなかった。

 夜の沙田に輝くネオンを、しばらく見ていた。

 それからレイスターの首筋に額を押し当てた。

 レイスターが、低く電子音を鳴らした。

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