第43話
「焦土のレコード、遥かなる凱歌」
東京競馬場、二千四百メートルの極限。
電光掲示板のタイマーが見たこともない数字で停止した瞬間、スタジアムは歓声ではなく、深い沈黙に支配された。
1着ジャック・オ・ランタン(日本レコード)、2着ノーブル・レジーナ(二馬身)、3着レイスター(クビ差)、4着ゴールデンルナティック(半馬身)、5着バハムート(アタマ差)。
「……嘘でしょ。あの時計、壊れてるんじゃないの……?」
麗は白煙を上げるレイスターの操縦席で、呆然と掲示板を見上げた。
最後は自身の神経を焼き切る覚悟で追った。だが、オレンジの炎を纏ったフランスの怪物は、一度もその背中を見せることなく、府中の直線を焦土に変えて走り抜けた。
「……届かなかった。僕の演算も、レジーナのノイズも、あの熱量の前では無力だった……」
二着の義清が、激しく振動するレジーナのハッチから這い出した。三冠馬のプライドを懸け、死力を尽くして追いすがった二千四百メートル。二馬身という差が、重くのしかかっていた。
四着の亜紀子はルナティックの装甲が熱で歪み、ハッチすら開かない。
「……クソ。……クソ、クソ、クソォッ!!」
歪んだ装甲を内側から蹴り飛ばす音だけが、虚しく響いた。
ジャン・ピエールは、ジャック・オ・ランタンから悠然と降り立つと、村上きょうだいを静かに見た。
「君たちのからくりは精巧だ。……だが、まだ足りないものがある」
それだけ言って、踵を返した。
健造が静かに歩み寄る。三頭の無惨な姿。財前すら五着に沈めた現実。
「……悔しいか。……なら、その熱を忘れるな。今日、お前たちが負けたのは技術じゃねえ。……世界の広さだ」
麗は何も言わなかった。
掲示板の「1」を、しばらく見ていた。
それからレイスターの首筋に額を押し当てた。
レイスターが、低く電子音を鳴らした。




