第42話
「万聖節の炎、異邦の刺客」
十一月、東京競馬場。ジャパンカップ。
世界中から選び抜かれた鉄塊が集うこの場所に、ある一頭の機体が運び込まれた瞬間、検量室の空気が一変した。
フランス代表、機体名ジャック・オ・ランタン。
カボチャのような不気味なオレンジの装甲。だが一見ユーモラスな外観とは裏腹に、その内部からは、日本勢が一度も嗅いだことのない煤けた硝煙の匂いが漂っていた。
「……凱旋門賞の死闘を勝ち抜いた機体ね」
麗はレイスターのモニター越しに凝視した。フランスの重い粘土質の芝を、文字通り焼き尽くして進むと言われるその機体。駆動系が奏でるのは高周波の和音ではなく、重く低い地鳴りだ。
「ヒヒ……。日本のからくりは、まるで綺麗なおもちゃだね。……僕の炎が、全部溶かしてあげようか?」
ハッチから顔を出したジョッキー、ジャン・ピエールが不敵な笑みを浮かべる。
「あはは! フランス産のカボチャが、アタシの火花に耐えられるか試してあげるよッ!!」
亜紀子のゴールデンルナティックが、猛然と威嚇した。
義清はノーブル・レジーナのシステムをフランス勢に合わせて再構築しながら、静かに言った。
「……あの機体、ただのパワー型じゃない。周囲の酸素を急激に消費して、他馬の出力を下げる。……姉さん、池谷さん、熱管理が先決です」
ゲートオープン。
先頭を奪ったのは、ジャック・オ・ランタン。オレンジの装甲から、陽炎が噴き出す。
「——燃えろ、燃えろ……。すべてを灰にするんだ!」
ピエールの叫びと共に、熱波が後続を包んだ。
麗のレイスターが、センサーの異常過熱を告げる警告音に包まれる。亜紀子のルナティックが、エンジンの不完全燃焼で黒煙を吐く。義清のレジーナが、精密演算を乱され、歩法を崩した。
第四コーナー。府中の長い直線の入り口。
「……負けない。あたしたちは、この泥の中から生まれたんだからッ!!」
麗はレイスターの冷却系を全振りし、炎の壁へ突っ込んだ。
オレンジの熱の向こうに、ゴール板が見えた。




