第40話
「秋の盾、姉弟の相剋」
東京競馬場、芝二千メートル。天皇賞(秋)。
府中の長い直線、スピードとスタミナの融合が問われる舞台。
パドックには、異様なまでの沈黙が流れていた。
村上ガレージから送り出された二頭。漆黒の重装甲レイスターと、真珠色のノーブル・レジーナ。
ピットでは、亜紀子がジャパンカップに向けてゴールデンルナティックの過給機を調整しながらモニターを睨んでいた。
「……麗、義清。アタシがいないからって、手加減なんてすんじゃないよ。どっちが勝っても、次のJCでまとめてぶっ潰してやるんだからね」
ゲート前。麗は、隣の枠に並ぶ義清の気配を感じていた。
函館の泥を啜り、三冠の重圧に耐え抜いたその立ち姿には、以前のエリートの面影がない。
「……義清。いい顔になったわね。……でも、この盾は譲らないわよ」
「……ええ、姉さん。今日、僕があなたを越えて、村上家の頂点を定義し直します」
ゲートオープン。
先頭を奪ったのは、スピード自慢の有力馬たち。だが二ハロンを過ぎた地点で、早くも義清が動いた。
レジーナが逃げ馬の直後、最も激しい気流の渦へ飛び込む。
「——レジーナ、支配を開始しなさい」
先行集団がレジーナの放つ不気味な駆動音に怯え、外へ膨らんでいく。
その後ろ、麗はレイスターの磁気流体アクチュエーターを最低限の出力で回していた。
(……来るわね、義清。あんたのやり方は分かってる。……でも、王道ってのは支配だけじゃ獲れないのよ)
大欅を越え、第四コーナー。
府中の直線に入った瞬間、義清が先に仕掛けた。ノーブル・レジーナが、パールホワイトの閃光となって抜け出す。
「——逃がさないわッ!!」
レイスターが、背後から泥を跳ね上げ、唸りを上げて急追する。
残り四百メートル。
二頭は完全に他馬を置き去りにし、姉弟だけが残った。
義清は、背後から来るレイスターの風圧を背中で感じていた。だが動じない。その圧をレジーナの装甲で受け止め、推進力へ変える。
「……姉さん、あなたの力は、もう僕の糧でしかない!」
「……生意気言わないでよ、義清ッ!!」
二頭が火花を散らしながら並び、叩き合う。
府中の長い直線の果て。秋の陽光に照らされたゴール板を、二つの村上が同時に突き抜けた。




