第35話
第35話「外から来た死神、覇王の蹂躙」
阪神の直線、残り二百メートル。
麗、亜紀子、義清。村上ガレージの三頭が、互いの火花で視界を赤く染め、一歩も引かぬ身内の殺し合いを演じていた。
その熱狂を、冷徹な駆動音が一瞬で凍りつかせた。
「……身内で盛り上がるのは勝手だが、ここは王を決める場所だということを忘れたか」
大外。黄金の重装甲をさらに厚くした財前巌のバハムート。そしてその影にぴったりと張り付く、海老原樹のダークランサー。
二頭は第四コーナーを大きく回り、遠心力をすべて推進力に変える大まくりを敢行していた。内側の乱気流を避け、最も過酷な外側のラインを一気に突き抜ける。
「なっ……財前!? 海老原さんまで!?」
麗のセンサーが「異常な接近」を捉えた時には、すでに遅かった。
「村上麗、そして義清くん。君たちの感情は、僕の演算を狂わせるスパイスにすらならない」
財前が指先を弾く。バハムートの駆動系が黄金の粒子を排出しながら、他を圧倒する歩幅で三頭を並ぶ間もなく抜き去った。
「……隙を見せたね、若き王様たち」
海老原のダークランサーが、財前の風除けから飛び出した。一切の熱を持たぬ、氷のような加速。三頭が必死に足を掻いている横を、二頭だけが別次元で滑り抜けていく。
「嘘……アタシたちの加速が、止まって見える……!?」
亜紀子が叫んだ。三頭は互いを意識するあまり、スピードを食い合っていた。そこへ、外から最も効率的な加速を維持してきた二頭が飲み込む。
残り百メートル。先頭は財前。半馬身差で海老原。
内側の三頭を、一馬身、二馬身と突き放していく。
「……認めない。こんなところで……ッ!!」
麗は血の混じった唾を吐き、レイスターのオーバーリミッターを力任せに引きちぎった。
警告音が鳴り響く。レイスターの駆動系が、悲鳴を上げながら最後の出力を絞り出す。
だが、ゴール板は、刻一刻と迫っていた。




