第34話
第34話「仁川の激突、血脈の三重奏」
阪神競馬場、芝二千二百メートル。宝塚記念。
ファンの投票によって選ばれたスターホースたちがゲートに集う中、観客の視線は一つのガレージから送り出された三頭に釘付けになっていた。
「……暑苦しいわね。あんたたちの熱気だけで、路面が溶けそうよ」
麗はレイスターのコックピットで、不敵な笑みを浮かべた。ジャパンカップと天皇賞を制した漆黒の王者が、連戦の傷を勲章のように纏い、静かに闘志を燃やしている。
「あはは! 最高だよ! 姉弟喧嘩にアタシを混ぜてくれるなんて、粋な計らいじゃない!」
亜紀子のゴールデンルナティックが、隣の枠で黄金の火花を爆発させる。
「……姉さん、池谷さん。無駄な熱は、機体の寿命を縮めるだけです」
最外枠。真珠色のノーブル・レジーナが、貴婦人のような静寂を保っていた。義清の瞳には、感情の揺らぎがない。
ゲートオープン。
ハナを叩いたのは、亜紀子だった。
「道を開けな! アタシがこのレースの主役だよッ!!」
狂気の逃げ。その後ろに、レイスターがぴったりとマークする。さらにその外、レジーナが空気抵抗を無視したように悠々と先行集団へ加わった。
第三コーナー。
麗が内側からじわじわと亜紀子を追い詰める。
「……そこまでよ、亜紀子! 遊びは終わり!」
「いいや、これからが本番だよ、麗ッ!!」
二頭が火花を散らしながら第四コーナーを回る。
その時、さらに外側から、音もなく接近する影があった。
「——失礼。そこは僕の席です」
義清のレジーナ。麗と亜紀子が作り出した乱気流の真ん中へ、ためらいなく飛び込んでくる。揺さぶられながら、その振動を推進力に変えていた。
直線。
ルナティックが粘り、レイスターが食らいつき、レジーナが飲み込もうとする。
「が、ああああああッ!!」
「壊れろ! もっと壊れろぉぉッ!!」
「……跪きなさい。皆、まとめて」
残り百メートル。
三頭の排熱で、ゴール付近の陽炎が歪んでいた。
誰の鼻先が先に届くのか、それだけが問題だった。




