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からくり競馬2〜『変異する血統(ブラッド・リンク)』〜  作者: 水前寺鯉太郎


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32/55

第32話

第32話「女王の演習リハーサル、府中の閃光」


 東京競馬場、芝千六百メートル。三歳マイル王決定戦、NESマイルカップ。

 マイルのスペシャリストを自負する機体が揃う中、パドックの空気は一人の少年の一言で氷結した。

「……オークスへ向けて、心肺機能を少し刺激しておきたくてね。このレースは、ちょうどいい準備運動になります」

 村上義清は、記者たちを並べることもせず、淡々とノーブル・レジーナの最終チェックを行う。

「三冠を目指すお坊ちゃんが、マイルG1を肩慣らしだと!?」

「舐めるな! ここは一分三十二秒台の殺し合いの場所だぞ!」

 だが、義清はバイザー越しに冷たい視線を投げた。

「……殺し合い? いいえ、これは教育ですよ。あなたたちに、レジーナがどの距離においても支配者であることを教えに来た」

 ゲートオープン。

 スプリンターモデルの機体たちが、過給機を全開にして先行争いを繰り広げる。

 義清は追った。

「……遅いですね。レジーナ、マイルの作法を見せてあげなさい」

 キィィィィィン……。

 ノーブル・レジーナが、先行集団の真横、最も空気抵抗の激しい外側に並びかけた。スタミナを温存するどころか、マイル専門馬たちをスピードでねじ伏せにかかる。

 第四コーナー。府中の長い直線に入った瞬間、刺客たちが一斉にスパートをかける。

「今だ! 村上家のガキを振り切れッ!!」

「——道を空けなさい。主役は僕です」

 義清が指先ひとつで出力を跳ね上げる。ノーブル・レジーナが一段上のギアへ移行し、一完歩ごとにマイルのスペシャリストたちが背後へ消えていく。

 直線半ば。義清はもはや追うことをやめた。レジーナの首を優しく叩き、呼吸をオークスの距離へと同期させる調整に入った。

 ゴール板。

 1着ノーブル・レジーナ、2着に二馬身差。

 タイムは一分三十一秒台。

 義清はハッチを開けるなり、手元のメモに淡々と記録を書き込んだ。

「……心拍数、誤差範囲。足首のボルトにわずかな熱。……いい練習になりました。次はオークスで会いましょう」

 府中のスタンドが、静まり返った。

 レジーナが、低く電子音を鳴らした。

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