第31話
第31話「盾の記憶、泥に咲く漆黒」
京都競馬場、大型ビジョン。
三頭の鼻先が一本の線に重なった写真判定の画像が、拡大されていく。
一画素、また一画素。
雨のノイズを取り除いたその先で、わずかに、本当にわずかに、漆黒の機体の鼻先が黄金の暴君を突き放していた。
掲示板の一番上に、力強く『1』が灯る。
1着レイスター、2着ゴールデンルナティック(ハナ差)、3着ダークランサー(クビ差)。
「……勝った。……勝ったんだ、あたしたち……!」
コックピットの中で、麗は泥だらけの顔を覆った。
検量室前。
戻ってきた三頭は、もはや元の色が判別できないほど泥にまみれていた。
亜紀子が、ルナティックのハッチから飛び降りるなり、麗の肩をバシッと叩く。
「ハナ差かよ! ……クソッ、最後の一歩、アタシの狂気が足りなかったってことね」
悔しげに唇を噛みながらも、その瞳には親友への敬意が宿っていた。
海老原樹が、静かな足取りで歩み寄る。
「……おめでとう、村上さん。最後の一歩で泥を掴んだ。……芝の長距離で、ダートの駆動を選んだ君の度胸の勝ちだよ」
海老原は自身のダークランサーを見上げ、小さく首を振った。
「……次は、もっと苦いコーヒーを淹れてくるよ」
麗は何も言わなかった。
雨が上がり始めた空を、しばらく見ていた。
それからレイスターの首筋に額を押し当てた。
レイスターが、低く電子音を鳴らした。




