43話 違ったんだな
新しい土地での生活にも慣れ始めたころ、華とご飯を買いに出かけた帰り道。
夕暮れのあかね色に染まった空の下で、一際弾んだ声が耳に響いた。
声の方に視線を向けると、制服を着た女子高生と思われる三人組が、談笑しながら下校しているのが見えた。
どこに行っても、あの年代の子たちは賑やかだな。
微笑ましく思いつつ歩き出すと、隣に華がいない。
「……あれ?」
振り返ると、華はその場で悄然と立ち尽くし、女子高生三人組を眺めていた。
我に返ったのか、はっと周りを見渡したあと、俺が先に歩き出していたことに気づき、華がパタパタと駆け寄ってきた。
「ユウくんごめんね。行こっか!」
華は強引に俺の手を取り帰路を辿るも、さっきの光景が胸にこびりついて離れない。
なにもかもを諦めて、華は俺と一緒にいることを選んでくれた。
本来であれば、あの子たちと同じように過ごしていたはず。
涙で卒業式を迎え大学に進学し、好きな人と付き合いウェデングドレスを着て周りに祝福されながら結婚。
家族や友人から、不安を抱かれつつもお祝いされながら出産をしていたはず。
それらすべてのことを犠牲にさせてしまった。
これから迎える出産も、祝ってあげられるのは俺だけ。
なにか一つだけでもいい。華のためにしてあげらないか。
無い頭を絞ってみても、なにも良いアイデアが思いつかない。
そこで俺は、ある人を頼ってみることにした。
『それであたしに連絡してきた、と』
次の日、仕事の休憩中。
俺は唯夏ちゃんに通話をかけ、今までの事を話して相談に乗ってもらっていた。
スマホから聞こえてくる懐かしい声に、こみ上げてくるものがあり目頭が熱くなる。
感傷に浸っている俺とは違い、唯夏ちゃんの声はどこまでも冷たかった。
『せんぱーい。あたしはドラえもんじゃないんですよ? 困ったらあたしを頼るのやめてくださいよー』
「唯夏ちゃん以外に相談できる人いないから……」
『ああ、もう。そんな泣きそうな声しないでください!』
俺だって何度も何度も頼るのは申し訳ないとは思ってるけど、それでも事情を知っている唯夏ちゃん以外に相談できないから。
『薄情な先輩ですけど、仕方がないので一肌脱いであげます』
「そんな薄情だなんて……」
『違うって言うんですか? あたしに一言もなくバイトをやめて、華ちゃんは退学してるし、家に行ってもいつのまにか引っ越した癖に?』
言われると、唯夏ちゃんになにも告げることなく決めてしまったな……。
『あたしがどれだけ心配したと思ってるんですか。文句の一つや二つ我慢してください』
「おっしゃる通りです」
唯夏ちゃんの不満は甘んじて受け入れよう。
こんな不義理なことをした俺に、それでも唯夏ちゃんは手助けしてくれるんだから。
『それでなんでしたっけ? 華ちゃんになにかやってあげたいんですよね?』
「うん。なにもかも犠牲にさせてしまった華のために、なにかできることはないかなって」
『うーん、それでしたらこういうのはどうですか?』
唯夏ちゃんからの提案は、今の俺でも叶えられそうであり、魅力的だった。
「うん、ありがとう。やってみるよ」
『力になれてよかったです。それはそうと、今度お祝いしたいので先輩の家に行かせてくださいよ』
「え、家に遊びに来るの?」
『なんですかその反応。そりゃ新婚みたいな二人のところに来られるのはお邪魔でしょうけど』
「そういう意味じゃないけど。唯夏ちゃんは俺たちの関係に反対してるかと思ってたから」
『もちろん反対ですよ』
きっぱりと言われてしまった。
「反対してるのに、お祝いしてくれるの?」
『それはそれ、これはこれです。二人の関係を応援する気なんてこれっぽっちもないですけど、友達が出産するのはおめでたいことじゃないですか』
唯夏ちゃんは当然のようにそう言ってくれた。
それがとても嬉しくて、自然と肩が震えていく。
『だから、お祝いに行かせてください』
「……うん、ありがとう」
『あー、もう! 泣きそうな声しないでくださいってば!』
ほんとうに、ありがとう……。
逃げるようにこの土地に引っ越してきて、世界中が敵に思えた。
俺たちの関係は許されないことだし、それも当然と思ってたけど、それでもやっぱりどこか辛くて苦しかった。
でも違ったんだな。
華のことを祝ってくれる人がいたんだ。
俺たちの子どものことを、ちゃんと祝ってくれる人もいたんだ。




