44話 エピローグ
五月。華の誕生日。
華は十八歳になり成人を迎えるが、祝ってくれるのは俺一人。
家族や友人と成人を祝わえず、家で俺とケーキを囲むだけ。
「誕生日おめでとう!」
せめて俺だけでも盛大に祝ってあげないと。
俺はクラッカーの紐を引っ張る。パンッと乾いた音が響き、色とりどりの紙テープが部屋中に散っていく。
「ユウくんありがとう」
華が太陽のような笑顔を浮かべて、ケーキに添えられたロウソクの火を吹き消す。
「ケーキ切り分けるね」
「あ、華は座ってて」
キッチンに包丁を取りに行こうと腰を浮かせようとした華を止める。
「ユウくんが切り分けてくれるの?」
「うん。けどその前に、誕生日って言ったらプレゼントだろ」
「用意してくれたんだ、嬉しい!」
華は両手を上げて、目を輝かせて喜んでいる。
そんな子どものようにはしゃぐ華の前で、俺は用意してあった紙を広げる。
「卒業証書、授与!」
「え……?」
困惑する華をよそに、俺はこれでもかと声を張り上げた。
ここは家の中で体育館でもない。卒業生から聞こえてくるすすり泣く声もない。
「えっと、ユウくん? 今は五月だよ?」
「そうだけど、三月は色々と忙しいだろうからさ」
さらに言うと、まったく卒業シーズンでもない。
時季外れもいいところだけど、お構いなしに、まるでここが体育館と勘違いするほどの大声を上げた。
「卒業証書! 三年……えっと、華は何組だっけ?」
「一組だよ」
締まらない俺に、華がクスッと笑った。
せっかくカッコよく決めたかったのに、パッとしないな。
「三年一組姫野華……以下同文」
「ユウくん、私以外にいないんだからちゃんと読んでよ」
「ごめん。卒業証書なんて読んだこともないし書いたこともないから、どう言えばいいかわからなくて」
なのでお手製の卒業証書には、名前と大きく書かれた「卒業おめでとう!」しか書かれていない。
「おめでとう」
両手で手書きの卒業証書を華に手渡す。
そんな余興みたいな卒業式にも華は付き合ってくれ、恭しく頭を下げて両手で紙を受け取る。
「ユウくん、ありがとう」
華は大事そうに卒業証書を胸に抱え、目尻に涙を溜めながら喜んでくれた。
「今まで一番嬉しい誕生日プレゼントだよ」
「それは誕生日プレゼントじゃないよ」
「プレゼントじゃない……?」
卒業式は行事であってプレゼントではない。
首を傾げる華に、俺は送りたかったプレゼントを手のひらに乗せる。
手のひらに乗った小さな箱。
それを差し出して開けると、そこには二人の未来が、静かに、しかし確かな輝きを放って座っていた。
「結婚しよう」
中に入っていたのは、結婚指輪。
「ごめんな、そんな高い指輪じゃないけど」
おままごとな卒業式に、おままごとな結婚式。
ウェデングドレスも着せてあげられないし、祝ってくれる友人もいない。
全てを犠牲にさせてしまった華には申し訳ないけど、それでもこれが俺ができる最大のお祝い。
「両親にも友達にも見せてあげられないし祝ってもらえないけど、俺だけでも結婚を祝わせてくれ」
「……うん、嬉しい」
「俺、頑張って華を幸せにするから」
「好きな人の赤ちゃんがいて、好きになっちゃいけない人と結ばれて、こうやって指輪も貰えたんだよ」
華の手を取り、小さな輪が細い指に静かに滑り込み、キラリと光った。
その小さな輪から放れた光は、俺たちが永遠に繋がったことを証明してくれる光のように感じた。
「私は、もう幸せだよ」
法的には俺は華と結婚することはできない。
そんな形式的なことは関係ない。
俺たちは確かに愛し合ってるし支え合っていける。
俺は華の夫であり、お兄ちゃんだ。




