表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/44

41話 お兄ちゃんなんだから

 華が両親に妊娠していることを報告しに行ってから四日ほど経った。


 近況をしているたくて華に確認のメッセージを何度か送ってみた。


『大丈夫、お兄ちゃんは待ってて』


 華からは返ってくる言葉はこれだけ。


 夜の帳が下りた街は、昼間の喧噪に比べてひっそりと静まり返っていた。


 日付がそろそろ変わる時間帯にもかかわらず、駅からは多くの乗客が改札を抜けていく。


 俺はその光景を、駅前広場で呆然と眺めていた。


 朝から晩まで、こうやってただただ眺めること三日。

 スマホを触るわけでもなく、ずっと駅を観察し続けた。


 駅から出てくる人たちの中には、そのまま家に帰宅すると思われる人やコンビニなどに立ち寄る人もいる。


 ここで過ごして一年以上も経つのか……。


 最初にこの街に引っ越してきたときは、漠然とした不安が胸の中にこびりついていたのを覚えている。


 地元を離れて、華以外の知り合いがいない土地でこれから頑張らないといけないという不安。


 今までは困ったことがあれば親父に助けを求めることもできたが、それももうできないという恐怖。


 街全体が俺を拒んでいるような、そんな疎外感があった。


 ここに住んでいる人たちはそんなことは思っていないのに、まるで俺を嫌っているように感じた。


 華がいなければ孤独感に押しつぶされていただろう。


 華がいたから、俺はこの街で過ごすことができた。


 そんな孤独感を、恐怖や不安を華に味わわせてはいけない。


 一人の女性がキャリーケースを引きながらトボトボと歩いているのが見えた。


 その女性は、駅から吐き出されていく乗客の流れに逆らうように駅に向かう。


 来たか……。


 俺は女性に近づいて、声をかける。


「華、やっぱり来たか」


「お兄ちゃん!?」


 唐突に現れた俺に、華は大きく目を見開いて驚く。


「華が考えていることはわかってたよ」


 華が俯いて口を噤んだ。


 わかってたよ。妊娠したことを母さんに言って、華がどう行動するかは。


「黙っていなくなろうと思ってたんだね」


 図星だったのだろう。俺の言葉に、華の肩がビクッと震えた。


 やっぱり。だから俺はずっとここで待ってたんだから。


 俯いていた顔を上げた華の表情は、取り繕った笑顔をしていた。


「あはは、お兄ちゃんに隠し事は無理だね」


「母さんに反対されたんだろ?」


「……うん」


 完璧主義の母さんのことだ。高校生の娘が妊娠なんてことを許すわけがない。


「あはは……。お母さんにね、産みたいって言ったら駄目だって反対されちゃった」


「母さんは相変わらずなんだな」


「どうしても産むなら……い、家から出て行けって言われちゃって……」


 それで華は、俺に黙っていなくなろうとしたのか。


 まだ学生なのに、勘当なんて……。


「十八歳になるまでは、そ、それまでは家にいてもいいけど……ら、来月の、誕生日が来たら、で、出て行けって……だから、その前に……出ていこうと思って……」


 張り付いた笑顔で語る華だが、その瞳からは涙がこぼれていた。


「が、学校にも連絡されて……、う、産むなら退学してもらうって……」


 今まで一人でずっと頑張ってたんだな。


 完璧だって思われて、誰にも助けを求めることなんてできず、いつしか悩みや不安を抱えても笑顔でなんでもないって言うようになったんだ。


「おかしい、よね。好きな人の、子どもを産みたいってだけなのに……、み、みんながそれを拒絶するなんて……」


 今までのことを振り返ると、限界を迎えて、抑えきれなくなってようやく華は涙を流していた。


 華は慈しむようにお腹にそっと手を当てた。


「どうして、この子は……こ、こんなにも嫌われないといけないのかな……」


 もう大丈夫だから。素直に助けを求めていいんだから。


 俺がずっとそばにいて、華の手を取るから。


「産んであげたいって、そんな駄目なことなのかな……。周りが、み、みんな敵に見えるよ……」


「……華」


 華に近づいて、か細く震えるその手を取った。


「お兄ちゃんに任せろ」


「…………お兄ちゃん」


 その言葉で、華の笑顔が崩れる。


 顔をくしゃくしゃに歪め、子どものように泣きじゃくった。


「たすけてぇ、お兄ちゃぁぁん……」


 そんなの当たり前だろ。俺もその子の父親で、華のお兄ちゃんなんだから。


 妹が泣いていたら、助けるのが兄の役目だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ