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39話 話し合い

 唯夏ちゃんが帰ったあと、俺はスマホで意味もなくネットで検索する。


『妹 妊娠』


 検索結果は漫画アニメなどのよくわからないタイトルが出てくるだけ。


 その結果に愕然すると同時に、どこか納得してしまった。


 そりゃそうだよな。兄妹で子どもを作るなんてありえない。


 唯夏ちゃんから、世間から気持ち悪いと言われ、それが普通のことなんだから。


 またもや重い溜息がこぼれる。


 華はどうする気なんだろう。

 産む気なのか、中絶する気なのか。


 そのどちらをとっても、華にとっては辛い選択肢になる。


 俺は華がどちらを選ぶか、なんとなくだが察しがついている。


 華は、産む気なんだろう。


 中絶だったら、ひっそりと手術を行い、何事もないように振る舞いながら俺と一緒に過ごしていたはず。


 産む気だからこそ、これから先のことを考えて俺に迷惑がかかると思い別れる選択をした。


 これが、普通の恋人だったなら……。


 そうであったならどれほどよかっただろうか。


 とりあえず華と話し合おう。


 もうストーカーだとか、そんなことで躊躇している場合じゃない。

 無理矢理にでも華と話し合いの場を作らないと。


 普通に問い質しても、華はきっと妊娠していることを認めないはず。


 なら、認めざるを得ない状況を作るしかない。


 俺は立ち上がり、ある場所に向かった。




 次の日。俺は華が通う学校の近くで待ち伏せをしていた。


 女子高生を待ち伏せする、字面だけ見れば完全に危ない人だがそんなこと気にしてる場合じゃない。


 夕焼けが街全体をセピア色に染め、道路に設置された街灯が一つ、また一つと明かるく照らしていく。


 それからしばらくして、学校のチャイムが校舎から鳴り響き、それを合図かのように続々と生徒が出てきた。


 校門から吐き出される生徒の人混みの中に、目当ての人物がいた。


 なにか考えているのか、俯きながら歩く華は俺がそばにいるのに気づていない。


 俺はそのまま気づかれないように、背後からそっと近づいていく。


 そしておもむろに華の腕を掴んだ。


「えっ!?」


 華は急に腕を掴まれたことに驚き、俯いていた顔を上げ、掴んだ人物が俺であるとわかると目を大きく見開いた。


「お、お兄ちゃん!?」


「華、話がある」


「き、急に言われても……ち、ちょっと!」


 華の返答には耳を貸さず、俺は腕を掴んだまま歩き出した。


「ちょっと待って、お兄ちゃん!」


 華は必死に抵抗するも、離す気が一切ない俺は容赦なく引きずるように歩き続ける。


 その不穏な様子に、周りにいた生徒がざわついた。


「お兄ちゃん、周りの人が見てるから!」


 そう言って俺の行動を止めようとするも、お構いなしに腕を引っ張り続けると、華は抵抗することを諦め大きな声で観念した。


「わかったわかったから! ついていくから!」


「……絶対逃げない?」


「うん、逃げないから。だからこの手を離して、お兄ちゃんが不審者に間違われちゃう」


 その声を聞いて、ようやく俺は腕から手を離した。


「華とどうしても話し合いたいんだ。家まで来てくれる?」


「……うん、わかった」


 渋々だが、華は話し合いに頷いてくれた。


 俺が先行して歩き出すと、背後ではトボトボとした足取りで華がついてきてくれた。


 強引だが、これで華と話し合うことができる。


 これからが本番だ。


 華を家に招き入れると、ローテーブルを挟んで相対する。


「それでなんのようなの? お兄ちゃんとは別れたんだから、もう話し合うことなんてないと思うけど」


 さきほどの俺の行動がよほど気に障ったのか、華は冷たい視線と剣のある物言いをしてきた。


「よりを戻そうって話なら、私はその気なんてないから無駄だよ」


 そんな話だったら、どれだけよかったか。


「華、俺に隠してることはない?」


「特にないけど」


 何食わぬ顔で華はそう答える。


 真相を知っていなければ、本当にそうなんじゃないかと信じてしまいそうな表情。


 やっぱり華は妊娠していることを隠し通す気なんだな。


 嘆息し、頭を抱えてしまった。


 いまだに俺は、華から真相を聞くことが怖い。


 違っててほしいと思う気持ちと、唯夏ちゃんから聞いた情報が頭の中を錯綜し、口が鉛のように重くなる。


 俺たちの誤解であればどれだけいいか。

 そんな希望的観測を願ってしまう。


 覚悟を決めて、重い口を開いた。


「華は、妊娠しているよね?」


「……え?」


 俺はいきなり核心を突いた。


 予想だにしなかった言葉に、華は目を剥き硬直する。


 華は時間が止まったかのようにじっと身じろぎせず、かと思えば急に腹を抱えて笑い始めた。


「お兄ちゃん、そんな勘違いしてたの? 妊娠なんかしてないよ」


「……そうか」


 その言葉を安直に真に受けるわけにはいかない。


 ローテーブルにそっとあるものを置いた。


 華はそれを見て、さっきまで笑っていたのが嘘のようにピタリと止んだ。


「これって……」


 俺が置いたのは、妊娠検査薬。


「これで検査して、陰性だったら華の言うことを信じるよ」


「だ、だから、妊娠してないって」


 華の顔から血の気が引いて、どんどんその表情は青ざめていく。


「まずは検査してからだよ。陰性を目の前で見るまでは信用しない」


「いや……、したくない」


「どうして?」


「いや、だから……」


 そう言って、華はうなだれてしまった。


 やっぱり、勘違いでもなんでもないんだな。


「妊娠、してるんだね?」


 改めて問い質すと、華はゆっくりと頷いた。


「どうして黙っていたの?」


「だって……」


「華は、産む気なんだね?」


 華はビクリと肩を震わせ視線を左右に這わせるも、やがて観念したように小さく答えた。


「……うん」


 絞りだすように答えたあと、顔を上げた華の表情はなぜか笑顔だった。


「あ、でも大丈夫だよ! お兄ちゃんには迷惑かけないから、私一人で育てるから!」


「そんなことさせるわけないだろ」


「あはは、大丈夫大丈夫!」


 なにがおかしくて華はそんな笑っているんだ?


 しかも華一人で育てるなんて、そんなこと認めるなんてできない。


「産むってことが、どういうことかわかってるの?」


「わかってるよ!」


 華があらん限りの金切り声で叫んだ。


 笑顔は鳴りを潜め、瞳に涙を溜めて自分の気持ちを吐露する。


「私だってそれぐらいわかってるよ! でも、私にはこの子を殺せないよぉ……」


 やがて涙がぽろぽろとこぼれ、鼻水を垂らしながらも、華は隠してた気持ちをやっと伝えてくれる。


「最初は中絶も考えた。だって、だってさぁ……丈夫な身体に産んであげれないかもしれないんだもん……」


「そこまでわかってるなら……」


「……この間ね、産婦人科に行ったの。病院でお腹の赤ちゃんを見たんだ。……そしたら、涙が止まらなかった。私の中に、好きな人の赤ちゃんがいるんだよ? そんな子を殺せないよぉ……」


 華は泣くのを押し殺すように両手で口元を覆い、瞳からは堰を切ったように涙が流れ続ける。


「……この子を、産んであげたい」


 絞りだしたその言葉を皮切りに、嗚咽しながら子供のように泣きじゃくり始めた。


 ……俺は、なんて馬鹿なんだろう。


 泣きじゃくる華に近づき、俺はそっと抱きしめる。


「ごめんな。俺が頼りないばかりに不安にさせて」


 華をもう泣かせないって決めたはずなのに、こんなになるまで不安にさせてたなんて。


「……お兄ちゃんはなにも悪くない。私が勝手に決めたんだから」


 不安や恐怖を誰にも言えず、一人で抱え込んで戦ってくれてたんだな。


「俺は、好きな子がこんな不安な気持ちを抱え込んでても気づかない鈍感なやつだけどさ」


 自分の不甲斐なさに苛立ちが募る。


「それでも、華のそばにいたい。辛いときも不安なときも、そばにいさせてくれないか」


 もう大丈夫だから、不安になんかさせない。華のそばからずっと離れないから。

 俺は、覚悟を決めた。


「俺はその子の父親なんだから」


「……お兄ちゃん、いいの?」


「うん、一緒に育てよう」


 世間からは非難されることをしている。

 俺を父親なんて認めない人もいるかもしれない。


 それでも、誰がなにを言おうとも、俺はこの子の父親なんだから。

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