37話 尾行(唯夏視点)
先輩から相談されて次の日。あたしはいつもとは違い華ちゃんの教室内には入らず、扉からこっそり覗きようすを窺った。
華ちゃんは時折クラスメイトと一言二言言葉を交わすだけで、別段おかしいところはない。
休み時間にも関わらず華ちゃんは前の授業の復習に余念がないのか、それとも次の授業の予習をしているのか、ずっと机にかじりついている。
いつも通りの華ちゃんだな……。
先輩から相談されたとき耳を疑った。
だってあの華ちゃんが先輩に別れを言うなんてありえない。
あたしに涙ながらに訴える華ちゃんは、ほんとうに先輩のことを愛してるように思えたから。
あれが演技だとは到底考えられない。
他に好きな人ができたとか?
ううん、それもありえない。華ちゃんが先輩以外の人を好きになるなんて。
考えを巡らせるのを中断させるように、次の授業が始まるチャイムが響いた。
とりあえず今日は一日華ちゃんの後を尾けよう。
華ちゃんの特進コースよりも授業は早く終わるし、念には念を入れて下校するときも尾行してみよう。
それからも休み時間のたびに華ちゃんの教室を覗くも、代わり映えしないようすにむしろ違和感が増していった。
先輩と別れた直後なのに、こんなに普通にしていることってあるかな?
自然なことがむしろ不自然に思え、拭えない疑問を抱きつつも特進コースよりも先に授業が終わったため、先に家に帰宅する。
あたしは私服に着替え、帽子と伊達メガネ、マスクを装着して学校に戻った。
これならきっと華ちゃんにはあたしだってバレないはず。
校門から少し離れたところで特進コースの授業が終わるのを待っていると、チャイムが校舎から響く。
ぞろぞろと校門から吐き出される生徒に混じり、華ちゃんが出てきた。
迷いもなく真っすぐ帰る華ちゃんの後を尾ける。この身なりにやってることは、性別が違えば完全に変質者のような気もする。
華ちゃんはどこにも立ち寄ることもなく直帰した。
もしかしたら先輩以外の人を好きになった可能性も考えたけど、それも違うのかな。
それともたまたま今日は誰とも会わない日なのかもしれない。
うーん、考えれば考えるほどますますあり得ない気がする。あの華ちゃんが、先輩以外を好きになるなんて。
他にやむを得ない事情があるとすれば、家族に付き合ってることがバレた、とか?
とりあえず今日はなにもなさそうだし、帰るとするか。
あたしが踵を返そうとしたところで、華ちゃんの家の玄関が開いた。
慌てて姿を隠し様子を窺うと、私服に着替えた華ちゃんが出てきた。
今からどこかに出かけるのかな?
帰ることをやめ、引き続き尾行を再開する。
どこに行くのかと思っていると、華ちゃんは駅に向かいそのまま改札に入ってしまった。
こういうときSuicaは便利だ。
これが昔なら、切符しかない時代はターゲットがどこで降りるかわからないから、無駄に高い金額の切符を買ってたんじゃないかな。
華ちゃんが乗った車両の隣に乗り、二つの車両を繋ぐドアから様子を窺う。
他の乗客とは違い、華ちゃんはスマホを触ることもせず、じっと車窓から外の景色を眺めている。
もしかしたら、ほんとうに別に好きな人ができた……?
わざわざ電車に乗って遠出するなんて、デートの線もありえるかも。
そのまま一時間ほど緩慢な振動に揺られていると、唐突に華ちゃんが電車に降りた。
こんな遠いところまで、一体なんの予定?
目的地もなく、こんな遠いところまで出かけたりしない。
華ちゃんが改札から抜けるのを確認し、あたしも続けて改札から出てその後姿を追った。
歩くこと十五分ほど、華ちゃんが入った建物を見てあたしは愕然としてしまう。
それは全く予想だにしなかったこと。
……好きな人ができたとか、デートとか、そんなことが優しく思えるほどの最悪なシナリオだった。




