35話 こういうのもいいな(結城視点)
誕生日から二日後。華からメッセージが届いた。
一緒にご飯を食べたいから、家に遊びに行ってもいいかと聞かれ、俺はそれを了承した。
「お兄ちゃん、なに食べたい?」
家に来た華が料理を作ってくれると言ってくれたので、一緒に近くのスーパーに行くことに。
休日のスーパーには家族連れで賑わっていて、店内には所狭しと人がいる。
私服姿の華が率先して食材を選んでくれ、笑顔でなにを食べたいか聞いてきた。
「なんでもいいよ」
「うーん、そう言われるのが一番困るんだけど」
俺の答えに苦笑いする華が、何を作ろうかと視線を宙に這わせる。
華の作る料理はどれも美味しいので本当になんでもよかったのだが、どうやら困らせてしまったようだ。
「生姜焼きとかどう? お兄ちゃんの家にみりんとか醤油まだ残ってたっけ?」
「え、どうだろう。覚えてないや……」
自分で料理を作ることなんてしないから、調味料の類はなにがあるか覚えていない。
「確か、まだ残ってたような……」
ブツブツと呟きながら頭の中でレシピを思いだしているのか、華が次々と俺が持っているかごに食材を入れていく。
華の後姿を眺めながら、その光景に浸る。
こういうのもいいな。
ただ一緒に買い物をしているだけなのに、カップルとして過ごせる休日。
ずっとこうして華と過ごしていたい。
今までは世間がどうとか将来のこととか気にして、自分の気持ちを無視してきた。
改めて華に対する気持ちを自覚した今、もう周りの目を気にするのをやめた。
俺たちの関係は間違っているかもしれないけど、それでもこうやって一緒に過ごしていきたい。
スーパーで買い物を済ませ、家に帰って一緒にご飯を食べる。
それだけの何気ない日常が懐かしく感じ、それを大事にしていこうと思った。
「お兄ちゃん、美味しい?」
「華が作る料理はなんでも美味しいよ」
そう答えると、華はまたもや苦笑いを浮かべた。
ご飯を食べ終え、俺は飲み物を入れようとキッチンに向かった。
「華はコーヒー飲む?」
洗い物を済ませて座っている華に肩越しに聞いてみると、首を振って断られた。
「ううん、大丈夫。オレンジジュースとか、ないよね?」
「うーん、それは置いてないな」
「それなら大丈夫かな」
華は本当にコーヒーを飲まなくなったな。
前はあれだけ飲んでいたのに。
食後の余韻に浸り俺と華が思い思いに過ごしていると、唐突に華が立ち上がる。
そろそろ帰るのかな?
鞄などを肩にかけているその姿からそう思っていると、華は俺の方を向いて口を開いた。
「お兄ちゃん、別れよっか」
「……え?」
別れる?
それってどういう意味だ?
帰るなら言葉が違うような気がするけど。
「えっと、それってどういう意味?」
「そのままの意味だよ。私とお兄ちゃんは付き合うのをやめるって意味」
いきなり別れを告げられ、開いた口が塞がらない。
呆然とする俺を置いて、華が踵を返して家から出ていこうとする。
慌てて俺は帰ろうとする華の腕を掴み引き止めた。
「いやいや! え、は? その、冗談、だよね?」
「冗談じゃないよ、本気だよ」
「え、なんで!?」
どうして別れるって結論になるんだ?
せっかく仲直りして、俺もちゃんと華と付き合っていこうと覚悟を決めたばかりなのに!
「最初に別れようって言ってたのお兄ちゃんだよ?」
「そ、そうだけど! でも俺たち仲直りして、これからはずっと一緒に過ごしていこうと思ってたんだよ!?」
「お兄ちゃん、私たち兄妹だよ? そんなの無理に決まってるじゃん」
今更それを言うのか?
俺はそれでずっと悩んで、それでも華が好きだから兄妹だとしても付き合っていきたいって思ったところなのに。
「お兄ちゃん、手を離して」
「……いやだ」
「私たち兄妹なんだから、今の関係は間違ってるんだよ」
まるであべこべじゃないか。
どうして華がそれを言うんだよ。
華は俺の掴んだ手を無理矢理引き剥がし、背を向ける。
「もう私たち別れたんだから、これからは連絡してこないで」
それだけ言い残し、家から出て行ってしまった。
華の心変わりに俺は呆然とし、ただただ扉を眺め続けた。
どうしてこんなことになったのか……。
華も俺のことを好きだって思ってたのに、お互いに想いは同じって思ってたのに。




