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処刑された『闇魔法使い』の姉を救うため、死に戻った『光魔法使い』の妹は運命に抗う ~役立たずと捨てられた義妹ですが、今度は絶対に守り抜きます~  作者: 東明時裕夜
第四章 再会の親友とネフェリアの父親

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第49話 壊す力より、守り抜く鎖を。

 目の前では、恋バナでからかわれてすっかり顔を赤くしていたアメリアさんが、両手でぱたぱたと頬を仰ぎ、照れ隠しのように小さく咳払いをした。

 彼女が気を取り直して何か別の話題を探そうとするより早く、私は意を決して少し身を乗り出した。


「そういえば……昨日、ハーヴェー様がすごい魔法を使っていらっしゃるのを拝見したんです」

「目に見えない光の鎖のようなもので、対象を瞬時に縛り上げて……『無魔法のバインド』だと仰っていました」


(……あの地下訓練所の存在や、ゴーレムと戦ったことは、メリア夫人にも伏せられている絶対の秘密だ。だから、場所や状況は誤魔化して言葉を選んだ)


「まあ。父の無魔法を見たのね」


 アメリアさんは疑う様子もなく、嬉しそうに目を細めた。


「父の無魔法は、国でも有数の精度だと聞いているわ。血筋や属性に関係なく、ごく一部の選ばれし者にしか目覚めない、とても珍しくて難しい魔法だと……」

「アメリアさんは、お父様のその魔法を受け継いでいらっしゃらないのですか?」


 私が尋ねると、アメリアさんは紅茶のカップをそっと置き、少し言い淀んだ。


「……実は、父からは『バインドの素養がある』と言われているの。でも……私はバインドの練習は一切していなくて」

「えっ、そうなんですか?」

「ええ。私は相手を拘束する魔法よりも、自分の放つ魔法の威力や魔力量そのものを強制的に底上げするタイプの無魔法……『増幅ブースト』の方をどうしても発現させたくて、そっちを引き出す練習ばかりしているの。でも……全然うまくいかなくて」


 増幅ブースト

 初めて聞く無魔法の名前だった。先日、精霊の森でアクティー団長が見せた自身の肉体を強化する『剛力パワー』とは、全く違う性質の力。


 それを聞いた瞬間、私の頭の中で、すべてのピースがカチリと音を立てて噛み合った。


(……そうか! ハーヴェー様がアメリアさんを危険から遠ざけるために『無魔法は一人一つまで』という国家機密レベルのルールを隠していたせいで……!) 

(彼女は『努力さえすれば、自分に適性のない増幅の魔法も得られるはずだ』と思い込んで、実らない無謀な特訓にずっと執着し続けていたんだわ!)


 昨日、地下図書室でメリア様に出会った時、私は密かに戦慄していた。アメリアさんの抱える『妹を救えなかった無力感と罪悪感』が、あの暗殺者シャドウの精神支配の標的条件に完璧に当てはまってしまっているのではないかと。

 そして今、はっきりと確信した。彼女が本来の適性バインドを無視してまで求める『圧倒的な火力』。

 ……それこそが、あの悪魔が好む『強さへの異常な執着』の正体だったのだ。


 私の脳裏に、一周目の最期の記憶が痛みを伴って呼び起こされた。


 あの日、アメリアさんは私を庇って、無詠唱で凄まじい氷の弾丸を放った。


 きっとあの一周目の彼女は、十四歳の今の「未完成な氷を無魔法の増幅で無理やり底上げする」という戦い方から、血の滲むような努力を重ねて、十八歳であの強力な氷の攻撃魔法を一人で極めたんだわ。


(……でも、ダメだった。昨日地下図書室でリフレットさんが言っていた通り、『基本属性の魔法じゃあいつは倒せない』んだわ。どんなに威力を極めても、純粋な攻撃魔法じゃ、物理攻撃や魔法を無効化するシャドウには通じない……!)

(あいつの闇を打ち破れるのは、唯一の天敵である私の『光』だけ。だから、アメリアさんが攻撃魔法(火力)でシャドウを倒そうとする必要なんて、最初からないんだわ!)

(一周目のあの時、アメリアさんの放った『氷の弾丸』はあいつの影にすり抜けられてしまった。……でも、あれは攻撃のための氷だったから。もし彼女が最初から防御だけに特化した、分厚くて絶対に壊れない『氷の盾』を極めてくれたなら……私が光魔法で撃ち抜くまでの、ほんの数秒の時間稼ぎくらいにはなるかもしれない!)

(あっ、今思い出したけど、あいつに無魔法の『バインド』は効くのかしら? リフレットさんは『光魔法でしか倒せない』と言っていたけれど、無魔法が効くかどうかまでは言っていなかったわ)

(倒せなくても、足止めして捕まえるくらいなら……いや、ダメダメ! そんな不確かな希望的観測で、あいつの脅威を甘く考えちゃ絶対にいけない!)

(それに一番の問題は、今の彼女が敵を排除する『火力』にばかり執着していることよ。それでは、あの悪魔の標的条件を完全に満たしたままになってしまうわ!)


 昨日、リフレットさんが教えてくれた精神支配の絶対の防壁。


『愛が強すぎる人間には絶対に使わない』。


 目の前のアメリアさんの心の根底にあるのは、間違いなく病気で亡くなった妹さんへの深い『愛』だ。カーフェーン家の温かな愛情に包まれた彼女には、あの理不尽な魔法すら弾き返す強力な愛の素質が十分にある。


(……でも、今のままじゃ危ない。今の彼女の愛は、ただ自分を責める刃になり、無謀な力への執着へとすり替わってしまっている)


 圧倒的な力を求める執着が、純粋な愛を追い越してしまった時、その致命的な心の隙間をシャドウに突かれる。


 だから、私が導かなきゃ。

 彼女の抱える深い愛を、自分を傷つけるための「執着」から、誰かを守り抜くための本当の「強さ」へと変えるために。


 私はまっすぐに、アメリアさんの水色の瞳を見つめた。


「アメリアさん。……私、本で読んだことがあるんです。無魔法って、一人につき一つしか発現しないって」

「えっ……? 無魔法は、一つだけ……?」


 アメリアさんは、初めて聞く事実に目を丸くした。私は静かに頷く。

 その瞬間、隣に座るお姉様の肩がわずかに揺れた。無理もない。それは昨日、地下図書室でハーヴェー様から直接聞いたばかりの『国家の最高機密』なのだから。


 しかし、聡明なお姉様は、私がわざと「本で読んだ」と情報源を誤魔化して機密を持ち出した意図――アメリアさんを無謀な特訓から救うためだということ――を即座に理解してくれた。


 お姉様は驚きをスッと隠し、私を援護するように優しく微笑んだ。


「ええ。私もその古い文献、アミアと一緒に読んだわ。だから、間違いないはずよ」

「ネフェリアも……?」


 お姉様の完璧な助け舟に心の中で感謝しながら、私は静かに頷いて言葉を続けた。


「そうなんですね……。そんな絶対的なルールが古い文献に記されていたなんて……。でも」


 アメリアさんは納得したように頷きながらも、ふと不思議そうに小首を傾げた。


「それなら、私に無魔法のことを教えてくれたお父様は、そのルールを知っていたのかしら? 父は国の重鎮ですし、魔法にも詳しいはずなのに、どうして私に教えてくれなかったのかしら……」


(ひぃっ!? 鋭い……!)


 私は内心で冷や汗をかいた。

 知っているどころか、私たちは昨日、まさにそのお父様本人から「これは国家機密だ」と直接聞かされたばかりなのだ。


 もしここで「ハーヴェー様なら知っているはず」なんて不用意に肯定すれば、どこでその情報を得たのか、なぜハーヴェー様が私たちにだけ教えたのかと、芋づる式に地下訓練場の秘密まで辿り着いてしまう。


 私は引き攣りそうになる頬を必死に抑え、子供らしい「当て推量」を装って口を開いた。


「え、ええっと……。その本、とっても古くてボロボロでしたし、きっと今はもう忘れ去られてしまったような珍しい学説だったのかもしれません! ハーヴェー様ほどお忙しい方だと、そんな細かな歴史の記述までは、もしかしたらご存知ないのかも……?」

「……そうね、アミアの言う通りだわ。お父様も万能ではないものね」


 さらに隣で、お姉様が優雅に紅茶を啜りながら、完璧に落ち着いた声音で言葉を重ねる。


「それに、ハーヴェー様が敢えて仰らなかったのだとしたら……。アメリア、あなたに限界を決めさせたくなかったからではないかしら? 親心として、娘の可能性を信じてあげたかったのかもしれないわ」

「……ネフェリア。そうね、お父様ならそう考えるかもしれないわ」


 お姉様の完璧な援護射撃に、アメリアさんの疑念は綺麗に解けていったようだった。


 まさかハーヴェー様が、娘を危険な「魔法の裏側」から遠ざけるために、あえて残酷なルールを伏せていたなんて……。


 そんな父親の不器用すぎる愛情の深さを知っているのは、皮肉にも今ここで「本で読んだ」と嘘を重ねている私たちだけだ。


 アメリアさんは、父親をかばい、必死に自分を安心させようとしてくれた私を見て、ふわりと花が咲くように微笑んだ。


「……ふふっ。アミアさんは、本当に一生懸命なのね」

「えっ……?」

「私のために、そんなに必死にお話ししてくれて。ありがとう、アミアさん」

(……っ、よかった。誤魔化せたみたい……!)


 私は内心でホッと胸を撫で下ろし、彼女の真っ直ぐな感謝の言葉に少し照れながらも、先ほどの本題へと軌道を戻すべく静かに頷いた。


「はい。……だから、もしその文献のルールが本当なら……増幅の練習がうまくいかないのは、アメリアさんの本当の無魔法が、お父様と同じ『バインド』だからじゃないかしら?」

「私の、本当の無魔法が……バインド……?」


 アメリアさんは、思いがけない指摘に絶句した。私は、彼女を真っ直ぐに見つめて尋ねた。


「アメリアさんは……どうして、そんなに圧倒的な力が欲しいのですか?」

「……それは……妹を救えなかった私には、力が足りなかったからよ。圧倒的な力で脅威を排除できれば、もう二度とあんな思いをせずに済む……誰にも負けないくらい、強くなりたくて」


 アメリアさんは、声を震わせながら本音を吐露した。


 その悲痛な響きに、お姉様が優しく微笑み、テーブルの上に置かれたアメリアさんの片手を両手でそっと包み込んだ。


「……今日出会ったばかりの私がこんなことを言うのは、おこがましいかもしれないけれど。でもね、アメリア。あなたはもう、十分に強いわ。亡くなった妹さんのために、そこまで必死になれるのだから」

「ネフェリア……」

「強さというのは、一人で全てを抱え込むことじゃないと思うの。……今日から友人になった、私たちもいるわ。だから、一人で強くなろうと焦らなくていいのよ」


 お姉様の温かい言葉に、アメリアさんの瞳がわずかに揺れる。

 私は、お姉様が包み込んでいるのとは反対の手に、自分の小さな両手をきゅっと重ねた。


「私も、お姉様と同じ気持ちです。それに……アメリアさんには、相手を壊す『増幅ブースト』の力よりも、『バインド』の方がずっと合っているんじゃないかしらって、思うんです」


 父から適性があると言われながらも、「脅威を排除できないから」と自ら切り捨てていた力を真っ直ぐに肯定され、アメリアさんは戸惑うように目をまばたかせた。


「敵を倒せない、バインドが……私に合っている……?」

「はい」


 私は真剣な眼差しを向けた。彼女の心の傷に、優しく包帯を巻くように。


「力で敵を壊すことだけが、強さじゃないと思います。敵の動きを縛り、立ち止まらせる鎖……。相手を傷つけず、ただ『これ以上は進ませない』と押し留める力」

「……」

「……氷魔法だって同じです。誰かを攻撃するための鋭い形を求めるよりも……さっきアメリアさんが教えてくれた、レオニス殿下の『氷の防壁アイスウォール』のように。もし、大切な人の前に立ちはだかって、絶対に攻撃を通さない分厚い壁になれたら……それこそが、一番尊くて強い魔法だと、私は思うんです」


 (どんな権力や恐怖にも屈せず、大切な友人を守るために「一歩も引かずに壁になる勇気」。それこそが、私の知っているアメリア・カーフェーンの真髄なのだから)


「誰かを守るために、一歩も引かずに立ちはだかる。……アメリアさんは、そういう『強い盾』や『優しい鎖』になれる、本当に強い人だと思います」


 私の言葉に、アメリアさんの瞳が大きく揺れた。


「私が……守るための、壁……優しい、鎖……」


 彼女の脳裏にも、救えなかった妹さんの姿がよぎっているはずだ。

 もしあの時、病気という敵を力で倒せなくても、妹を包み込み、守り抜くための「盾」になれていたとしたら――彼女の後悔は、少しは軽くなっただろうか。


「今まで、考えたこともなかったわ。……攻撃して排除しなければ守れないと思い込んで、自分に向いていない力を無理に求めていたのね……」


 アメリアさんの目から、ふっとき物が落ちたように、険しい色が消えていく。


「……ふふっ。アミアさんは、本当にお優しいのね」


 アメリアさんが、ふわりと笑った。

 その笑顔は、過去の執着や後悔に囚われたものではなく、穏やかで希望に満ちたものだった。


「そうかもしれないわね。……守るための、バインドと盾。私、明日から父に頼んで、拘束魔法の練習を始めてみるわ」


(……絶対になってください。アメリアさん)

(一周目では、あなたが私を守るために盾となり……その命を落としてしまったから)

(だから今度は、絶対に死なせない。私があなたを守り抜く。……そして、あなた自身にも「死なずに生き残る術」と「心を奪われない愛」を、必ず身につけさせてみせるから)

「はい! ぜひ、練習してみてください!」


 私が身を乗り出して答えると、アメリアさんはくすくすと笑い、それから少し居住まいを正して私とお姉様を見た。

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