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処刑された『闇魔法使い』の姉を救うため、死に戻った『光魔法使い』の妹は運命に抗う ~役立たずと捨てられた義妹ですが、今度は絶対に守り抜きます~  作者: 東明時裕夜
第三章 帝国の右腕と地下図書室の秘密

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幕間18 ミリアナとレイフェ

 その日の夕刻。

 アミアたちを正門で見送ったその足で、ミリアナはふらつく足取りで王城内のある場所へと向かっていた。


 王城のさらに奥――ハーヴェー大臣が、彼女の姉の独自調査のために便宜を図って極秘に割り当てている、使われなくなった旧地下資料室。

 書類の山に埋もれるようにして、一人の女性が座っていた。


 鮮やかな青い髪。腰まで伸びたそれを高い位置で束ねたポニーテール。

 眼鏡はかけていない。きっちりとした白と青の軍服を着る妹とは対照的に、動きやすい黒のズボンと使い込まれた革のブーツという無骨な装い。

 整った顔立ちだが、その瞳には常に獲物を探すような鋭い光が宿っている。

 一言で言えば、近寄りがたい。


 在野ざいやの魔法使いにして、元・王国魔法兵団副団長。

 レイフェ・シェンシー。三十代後半。

 彼女は椅子に深く座り、足を組み、指先で机を苛立たしげに叩いている。


 ガチャリ。

 扉が開き、青い髪の女性が顔を出した。眼鏡をかけ、書類を抱えた、几帳面な雰囲気。

 ミリアナ・シェンシー。レイフェの妹だ。

 だが、その顔色は紙のように白く、肩で荒い息を吐き、立っているのがやっとの有様だった。


「……あれ? ミリアナか。何の用?」


 レイフェは顔を上げ、怪訝そうに妹を見た。

 彼女がここを訪れること自体は珍しくないが、今日の様子は明らかに異常だ。


「お仕事中失礼します、姉さん。……実は、極秘のご相談があります」


 ミリアナの声は震えていた。いつもの冷静沈着な秘書の仮面が、剥がれ落ちそうになっている。


「ハーヴェー様からの……個人的なご依頼です」

「……おい」


 レイフェは椅子から立ち上がり、妹に歩み寄った。

 そして、乱暴にミリアナの額に手を当てる。


「ひどく熱いじゃないか。それにこの魔力の枯渇具合……」


 レイフェの目が鋭く細められる。


「お前……まさか、今日『アレ』を使ったのか?」 


 レイフェの声に、焦りと怒りが混じる。


 『アレ』とは、ミリアナが持つ幻級魔法『鑑定』のことだ。

「……はい」


 ミリアナは静かに頷いた。


「今朝、地下図書室である二人の令嬢と会いまして……その正体を見極めるために、とっさに鑑定を行いました」

「馬鹿野郎!!」


 レイフェの怒声が部屋に響いた。


「お前の魔力のうつわでそれを使えば、精神が削られて数日は動けなくなるって分かってるだろうが!」

「つい数時間前に倒れた奴が、なんで歩き回ってるんだ! いいからそこに座れ!」


 口調は荒いが、その手は倒れそうになる妹をしっかりと支え、無理やり部屋の奥にあるソファへと座らせた。


 レイフェにとって、真面目で不器用な妹ミリアナは、唯一無二の家族だ。かつて、ミリアナが鑑定の使いすぎで生死を彷徨さまよったことを、姉はずっと忘れていない。


 レイフェは自分のマグカップに温かいお茶を注ぎ、ドンと妹の前に置いた。


「……すみません、姉さん。ですが、寝ている場合ではないのです」


 ミリアナはソファに身を沈めながらも、必死に顔を上げた。

 その瞳には、身体の辛さを上回る、強烈な使命感が宿っていた。


「見つけたのです……姉さんがずっと探していた、リィエル家の闇を暴く『鍵』を」

「……あ?」

「リィエル公爵令嬢ネフェリア様と、義理の妹君であるアミア様……あのお二人は、本物です」

「『百年に一人の光魔法使い』と……『闇魔法使い』の姉妹なのです」


 ピタリ。

 お茶の湯気が揺れる中、レイフェの動きが止まった。

 部屋の空気が、凍りついたように静止する。


「……は? 光と闇だと?」


 レイフェは信じられないというように眉間みけんに皺を寄せた。


「つい十数年前に、一人の光魔法使いが現れたばかりだ。まだ百年も経っていないし、次の光魔法使いが現れるはずがないだろう。それが、百年の周期で現れるという伝説の存在が、同じ公爵家に『姉妹』として都合よく揃っているだと? そんな御伽噺おとぎばなしみたいな話があるわけないだろう」

「冗談ではありません! 私、この目で見たのです! だからこうして、倒れてなどいられずに飛んできたのです!」


 ミリアナが、震える両手でマグカップを握りしめながら声を荒らげた。

 命を削って『視た』真実。その重みが、レイフェにも伝わる。


「……だがあの臆病なミリアナが、倒れた当日に這いずってでも報告に来たってことは……」

「そのガキ共の才能、正真正銘の本物ってことか」

「はい。私が命懸けで見出した原石です。……磨く価値はあると思いませんか?」


 ミリアナが真っ直ぐに見つめ返すと、レイフェはソファの背もたれに手をつき、鋭い目を細めた。


「……待てよ。お前がその令嬢たちの前で『鑑定』を使ったって事は、お前のその幻級魔法の力がバレたってことか?」

「はい」

「馬鹿な……! 相手は公爵家の人間だぞ。もし誰かに言いふらされでもしたら――」

「安心してください、姉さん。彼女達は決して他言しません」


 ミリアナは、姉の焦りを遮るようにきっぱりと言い切った。


「彼女達自身も、私やハーヴェー様と『命懸けの秘密』を共有する共犯者となったからです」

「共犯者……?」

「はい。ハーヴェー様はアミア様に対し、『光魔法の先にある治癒魔法の力を、決して王族には見せない』と固く約束させました」

「……!」

「もし知られれば、国宝という名目で幽閉され、国益のための道具として一生飼い殺しにされると……。まだ十一歳のアミア様も、十四歳のネフェリア様も、その残酷な現実から目を逸らさず、自らの力を隠し通すと強く誓われたのです。……だから、私の秘密も絶対に守ってくださいます」


 その言葉を聞き、レイフェは驚きに目を見開いた。


「……ハッ。貴族のガキなんて、普通は自分の希少な力を王家に見せびらかして媚びを売りたがるもんだ。……自分が国に利用されるだけの道具になるって闇をその歳で理解して、あえて力を隠す覚悟を決めたっていうのか」 

「……あっ」


 ミリアナは、ふと何かを思い出したように小さく声を上げた。


「どうした?」

「いえ……お二人は隠し通すとおっしゃられましたが、二年後にアミア様が魔法学園に入学される際、必ず『魔力選定の儀』があります。あの魔道具の前では誤魔化しがききません。……それにネフェリア様も、あの魔道具が規格外の闇魔法をどう判定するのか……。いずれ学園で光がバレる、あるいは闇の異常が発覚して問題になる危険性があるのではと、今更ながら思い至りまして……」


 ミリアナは自身の迂闊うかつさに少し青ざめたが、すぐにホッとしたように表情を和らげた。


「ですが……あの場にはハーヴェー様がいらっしゃいました。きっとハーヴェー様のことですから、その危険性にも既にお気づきで、学園でのお二人を守り抜くための対策を考えてくださっているはずです」


 レイフェは呆れたように息を吐き、ニヤリと口角を上げた。


「お前なぁ、秘書のくせに抜けてるぞ。……まあいい。あの堅物のハーヴェーなら、その辺の政治的な根回しや学園での庇護くらい、完璧に計算してやってのけるだろうさ。私たちが気にするのは、彼女たちを裏の悪意から『死なせない』ための実戦の力を叩き込むことだけだ」

「はい。その通りですね」


 ミリアナは安堵して頷いた。だが、彼女の報告はそれだけでは終わらなかった。

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