第37話 母の遺産と特訓の幕開け
「アミア、そっちに魔石はあった?」
静まり返った地下訓練所に響くお姉様の声に、私はハッと我に返った。
いけない、母の遺したノートの真実に、深く考え込んでしまっていた。
周囲を見渡すと、リフレットさんはまだ木箱に座って足をぶらぶらさせており、私に注目している者は誰もいない。
「いえ、魔石はまだ見つかりません!」
私はそう答えながら、素早く母のノートを肩にかけた革製の鞄の奥深くへと滑り込ませた。
(……ごめんなさい、お姉様。一周目で、お姉様が私を守るために『水魔法しか使えない』という嘘をつき通してくれたように。今度は私が、お姉様を守るためにこの嘘を抱え続けます)
このノートの存在を、お姉様に知られるわけにはいかない。もし「お母様のノートを見つけたの? 私にも見せて」と言われれば、破られたページの痕跡から、聡明なお姉様にも『代償』の存在を感づかれてしまうかもしれないからだ。
そして……この部屋を管理しているハーヴェー様にも、内緒で持ち出すことをどうか許してほしい。
これは後で自室でじっくり読み込んで、必ず習得しなければならない。
母は、私に最強の武器を遺してくれていたのだ。
「……ありがとう、お母様」
私は小さく呟いた。
この知識は、私たちの未来を守るための盾であり、剣になるはずだから。
その時。
「見つけたぞ! 予備の魔石だ!」
ハーヴェー様の明るい声が、訓練所に響き渡った。
「ふぁぁ……やっと見つかったのね。待ちくたびれたわ」
リフレットさんが大きな欠伸をして、木箱から飛び降りる。
ハーヴェー様の手には、自ら発光するような瑞々(みずみず)しい、青色の菱形の魔石が握られていた。
「この青い魔石は特殊でね。稀に水魔法のような現象を引き起こすことがあるが、訓練にはちょうどいいだろう」
ハーヴェー様は優しく微笑みながら、部屋の中央に鎮座するゴーレムたちの方へと歩み出た。
「……さあ、始めましょうか」
私は顔を上げた。
母の足跡が残るこの場所で、運命を変えるための特訓が、今、幕を開ける。




