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処刑された『闇魔法使い』の姉を救うため、死に戻った『光魔法使い』の妹は運命に抗う ~役立たずと捨てられた義妹ですが、今度は絶対に守り抜きます~  作者: 東明時裕夜
第三章 帝国の右腕と地下図書室の秘密

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第34話 裏同盟と十一歳の冷徹な盤上計算

(策略家と裏で取引している、シャリアではない本当の黒幕……!)


 リフレットさんの言葉によって、三日前の精霊の森で起きた魔獣の暴走スタンピードの裏に潜む、さらなる巨大な悪意の存在に私が戦慄した、その時だった。


「なるほど……。三日前、精霊の森で起きた異常な魔獣の暴走。あれは自然発生などではなく、相手に絶対的な敗北を強いる帝国の策略家と、強硬派の仕業だったか」


 ハーヴェー様が、全てが繋がったというように険しい顔つきで呟いた。


「ご名答」

「でも、解せないな。今の皇帝グレンドは戦争を酷く嫌っている。……ならば、なぜ皇帝でありながら、そんな危険な女や強硬派を野放しにしているんだ?」

「そうだよ。皇帝は戦争嫌いなのよね。……けど、今は、初代皇帝が作った『絶対の法律』のせいで、正当な理由なく彼ら大貴族を裁けないからさ。本当は、国際問題になるから『王族に接触する事は絶対に禁じる』って言われてたんだけどね。バレてしまったし、仕方ないよね」


 リフレットさんはあっけらかんと笑った。


(……初代皇帝の法律のせいで、帝国では裁けない……?)


 その言葉の裏に隠された、あまりにも冷酷で合理的な『真意』に気づき、私はハッと息を呑んだ。


(……逆を言えば。帝国の中では裁けなくても、他国であるこのレイフェルズ王国で明確な大罪を犯したという証拠を掴めば……『王国の法』の下で、皇帝に代わって彼女を裁き、処刑できるということ!?)

(一周目の最期、シャドウは言っていた。強硬派は『皇帝の目を盗んで』動いていると。……平和主義の皇帝は、自国の法という縛りを逆手に取り、リフレットさんを使って彼らを王国の罠へと誘い出し、合法的に排除しようとしているんだわ!)


(……さっき、私のような無関係な子供を『争いの道具にはしない』と気遣ってくれた、あの確かな優しさ。……でも、その一方で、自国の強硬派やバケモノたちを排除するために、この国(私たち)の法や状況すらも冷徹な罠として利用しようとしているのだとしたら……!)


(……強硬派をこの国で捕まえたからといって、すぐに両国の戦争が『終結』して完全な平和が訪れるのかどうか、私にはまだ分からない。大国同士の政治なんて、そんなに単純じゃないはずだから)

(でも、そんな壮大なことはどうでもいい。……私にとっては、お姉様たち家族の命を脅かす『目の前の黒幕』を排除できれば、それで十分なんだわ!)


 私が、若き皇帝の底知れない盤上計算に戦慄し、ごくりと息を呑んだ――その時だった。


「……でも、おかしいわ」 


 不意に、お姉様が鋭い声で口を挟んだ。

 その顔は、ただ怯える少女のものではなく、政治の中枢を担う公爵家の令嬢としての知性をたたえていた。


「帝国の皇帝がそれほど平和を望んでいるなら……なぜ戦争を完全に終わらせる『終結』ではなく、いつまた火種がくすぶるか分からない『休戦』という不安定な状態のままにしているのですか?」


 お姉様の鋭い指摘に、リフレットさんは気だるげに肩をすくめた。


「さっきも言ったでしょ? 国内に好戦的な強硬派や、あの策略家がいるからよ。……それに、『あいつらが国内でふんぞり返っている限り、俺は完全に終結する気はない』って、皇帝自身が言ってたしね」

「……なるほど。つまり、初代皇帝の法を盾にしている連中と、戦争の終結に不満を持っている強硬派が国内にいる限り、帝国はずっと『休戦』のままということか」 


 ハーヴェー様の重々しい確認に、リフレットさんはあっけらかんと頷いた。


「そうよ」

(……え?)


 その言葉を聞いて、私の頭の中に強烈な違和感が走った。


(平和主義なのに、強硬派がいる限り終結する気はない……?)

(普通なら、平和のために強硬派を抑え込んででも戦争を終わらせようとするはず。なのに、あえて『休戦』という不安定な状態を維持している……?)

(……もしかして。皇帝は、強硬派たちを罠にかける(他国で罪を犯させる)ために、あえて『まだ戦争が再開できるかもしれない』という期待を残しておく必要があったから……?)

(国内で反乱を起こされるより、休戦という『餌』をぶら下げて他国で暴れさせ、そこで合法的に自国の腐敗を切り捨てようとしている……!?)

(いや……それだけじゃない気がする。何か、もっと根本的な『理由』が……)


 私は何か極めて重要な真実――国家の存亡に関わるような巨大な盤上の意図に触れかけた気がした。けれど、今の情報だけではどうしても確信に至らず、その思考は深い霧の中へと沈んでいくしかなかった。


「光と闇には会ってみたいと思ってたからね。面白そうだし、もう少し一緒にいさせてもらうよ」


 ハーヴェー様が険しい顔で反論しようと口を開きかけた、その時。


「……分かりました。一緒に行きましょう」


 私がお姉様の背中から一歩前に出て、静かに、けれどはっきりと言い切った。

 その落ち着き払った声に、ハーヴェー様も、お姉様も、驚愕に目を見開いた。


「アミア!?」

「アミア様、何を言っているのですか! 彼女は敵国の……!」


 ハーヴェー様が私を止めようと手を伸ばす。

 けれど、私は振り向いて、大国のトップである彼を真っ直ぐに見据えた。


 怯える十一歳の子供の仮面は、もう被らない。……深い深淵を覗き込み、何としても未来を変えると決意した、氷のように冷たく揺るぎない意志を瞳に込めて。


「彼女は、先ほどからずっと私たちの会話を立ち聞きしていました。もし本当に国益だけを考える敵なら、私たちの持つ光と闇の力を知った時点で、とっくに帝国軍や策略家に通報して、私たちを排除するか捕らえようとしているはずです」

「……ッ」

「でも、彼女はそうしなかった。皇帝の命を守り、私たちを『争いの道具にはしない』と約束してくれた。……それに、彼女が探しているという『策略家と裏で取引している人間』が誰なのか、私たちも突き止めなければなりません」


 私は、震えるお姉様の手をそっと握りしめた。

 交わるはずのなかった『シャリアの悪意』と『策略家の陰謀』。それが森で交差してしまったように、公爵家を取り巻く闇は、まだ全貌が見えていないのだ。


「これ以上、家族を理不尽な陰謀で壊されないためには……彼女の情報が必要です。そして、お互いに『黒幕』を探しているのなら、今は利用し合うべきです」


 十一歳の子供らしからぬ、私の冷徹なまでの盤上計算。

 そのあまりに論理的で肝の据わった説得を聞かされ、ハーヴェー様は思わず息を呑み、呆然と私を見つめた。


 彼が私に向ける視線には、もはや庇護すべき幼い子供に対するものはなく……まるで得体の知れない相手を見るような、微かな戦慄せんりつが混じっていた。

 一国の大臣として、敵国と裏で手を組むなど本来絶対にあってはならないはずだ。……けれど、完璧主義のバケモノから王や城を守るためには、この子供(私)の言う通りにするしかない。その激しい葛藤と苦渋が、彼の強張った表情から痛いほどに読み取れた。


 そして――彼はハッとして、壁に寄りかかるリフレットさんを鋭く睨み据えた。


「……そういうことか」


 ハーヴェー様の声が、一国の大臣としての重く冷たい響きを帯びる。


「貴女がわざわざ敵国である我々に、狂気の策略家キャサリーヌが持つ『転移』の脅威を教えた本当の理由は……我々に対する『牽制けんせい』であり、『脅し』ですね」

「あら、何のことかしら?」


 リフレットさんがとぼけるように首を傾げると、ハーヴェー様はギリッと奥歯を噛み締めた。


「私が大臣として、魔獣事件の黒幕を炙り出すために王国軍や魔法兵団を大々的に動かせば……あの完璧主義のバケモノは、見せしめとして、王城の防備が手薄な場所へ容赦なく転移し、罪のない者たちを血の海に沈めるだろう。……王の安全だけが担保されても、城が壊滅すれば国は傾く」


「……!」 


 私とお姉様は息を呑んだ。


「貴女は、私が大々的な軍事行動を起こせないよう……あえてこの絶望的な戦力差と転移のリスクを突きつけた。結果として、私は王に報告することも軍を動かすこともできず、秘密裏に動ける少人数の精鋭――アミア様たちと手を組んで、貴女たちと極秘の『裏同盟』を結ぶしか選択肢がなくなる。……最初から、それが狙いか」


「ふふっ。さすがは大国の大臣様。話が早くて助かるわ」


 大国の重鎮を手玉に取るような盤上計算を言い当てられ、リフレットさんは満足げに微笑んだ。


「下手に軍を動かされて戦争になられても、平和主義のうちの皇帝が悲しむしね。……それに、軍を動かさない『少人数の極秘行動』なら、あの狂った完璧主義者の目も欺ける。利害は完全に一致してるでしょ?」


 逃げ道のない、完璧な政治的チェックメイト。

 ハーヴェー様は深くため息をつき、自らの額を押さえた。


「……恐れ入りました。敵の使者の底知れなさにも、そして……その盤上の意図を本能的に悟り、即座に『利用し合うべき』と提言したアミア様にも。本当に……アミィエルにそっくりだ。あいつも、一度こうと決めたら絶対に引かない、芯の強い女性でした」 


 ハーヴェー様は私への驚嘆と敬意を込め、静かに道を譲った。

 そのやり取りを見ていたお姉様が、ふと不思議そうな顔で私を見つめた。


「……なんだか、いつものアミアじゃないみたい」

「えっ?」

「大人たちを相手に、あんなに堂々と……。すごく頼もしかったから」


 お姉様は優しく微笑んでくれた。

 私は少し照れ隠しに微笑んで、繋いでいたお姉様の手を、きゅっと強く握りしめ直した。


「……いつもの私ですよ」

「ふふっ、そうなのね。びっくりしちゃった」


 お姉様は優しく微笑んでくれた。

 私たちは、予期せぬ帝国の使者を交えた五人で、この半日過ごした地下図書室から、さらに奥の地下訓練場へと続く暗い階段を降り始めた。

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