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処刑された『闇魔法使い』の姉を救うため、死に戻った『光魔法使い』の妹は運命に抗う ~役立たずと捨てられた義妹ですが、今度は絶対に守り抜きます~  作者: 東明時裕夜
第三章 帝国の右腕と地下図書室の秘密

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第30話 暴かれた秘匿と、特異点たる少女の覚悟

王城の地下深く、隠された図書室。

 私たちの前に突如として姿を現した、得体の知れない女性。

 ミリアナさんの極めて鋭敏な『鑑定』すら完全にすり抜け、すぐ傍で息を潜めていた異常な隠密能力。その底知れない実力者に退路を塞がれ、ハーヴェー様は咄嗟とっさに私とお姉様を背後に庇う。


 「貴様……一体、何者だ!?」


 ハーヴェー様が鋭く叫ぶと、女性は気だるげに壁に寄りかかったまま、手のひらをヒラヒラと振って見せた。


「そう警戒しないで。私は何もしないから。それに……今ここで私を捕まえようとすれば、うちの皇帝が黙っていないわよ」

「皇帝……だと?」


 張り詰めた空気が流れる中、女性は面白そうに目を細め、言葉を続けた。


「初めましてだね。ハーヴェー・カーフェーン。私はリフレット・キュルム。アセレリア帝国皇帝の右腕さ」

「……何故、私の名前を?」


 ハーヴェー様が警戒心を露わにして尋ねると、リフレットと名乗った女性は肩をすくめた。


「ずっと聞いていたよ。ここでの会話をね」

「どこから入ってきた!? 城内には衛兵がいたはずだ!」

「私の幻級魔法よ。……光を曲げて、姿も気配も完全に消せるのさ」

「それは、なんだ……!?」

「私の幻級魔法? 後で教えてあげるよ」


 リフレットさんはそう言って、私の方へスッと視線を移した。その緑色の瞳が、面白そうに細められる。


「しかし、そこの光の少女が『治癒魔法』の力を秘めているとはね。……私も帝国の文献で少しだけ読んだ事はあるけど、光魔法使いだけが使える伝説の魔法だとは知らなかったよ」

「っ……!」

「治癒魔法としては知っていたけど、確か傷を癒やし、毒を消す魔法だったわね。……でも、人が蘇るなんて記述、どこにもなかったけど」

(……っ! 帝国の文献にすら、死者蘇生の記述はない……!)


 私はハッと息を呑んだ。

 一周目のあの階段で、帝国の暗殺者シャドウは私を嘲笑いながら確かにこう言っていた。


『極めれば、死者蘇生すらできると言われている』と。 


(……あいつ、帝国の人間なのに……文献にすら載っていないデタラメを私に吹き込んでいたの!?)


 私の中で、点と点が繋がり、黒い炎のような怒りが込み上げてくる。 


(アメリアさんを生き返らせることができるかもしれないって、私に一瞬だけ希望を持たせて……その直後に『だからこそ、君はここで死ぬんだよ』って絶望の底に突き落とすために……! 最初から、あんな悪趣味な嘘をついていたんだわ!)


 人の命と希望を、どこまでも弄ぶ最悪の悪魔。

あの男の底知れない悪意を改めて突きつけられ、私は体の脇でギリリと拳を握りしめた。


「……お前、どこまで聞いていた!」


 ハーヴェー様が声を荒らげると、リフレットさんは呆れたように手をひらひらと振った。


「だから、ずっとって言ってるでしょ」


 彼女は再び気だるげに目を細めた。


「それにしても……まさか、この時代に光と、二つの闇が同時に存在するなんてね」

「……何故、私たちが光と闇だと……!?」


 お姉様が弾かれたように息を呑むと、リフレットさんはふっと笑った。


「この前の精霊の森での魔獣事件……あれを止めに来た時に、君たちを偶然見かけたからね。少しだけ、見させてもらったよ」

「精霊の森だと……!?」


 ハーヴェー様が険しい顔で反応し、私も全身の血の気が引くのを感じた。


(あの森で……!? 私たちが死に物狂いで魔獣と戦い、お姉様が闇魔法を使ったあの時、この人はずっと傍で見ていたっていうの!?)


 レッドウルフ戦では光魔法を数発撃っただけで体中の血が引くような疲労に倒れかけ、マッドウルフ二体に追い詰められ、魔力も体力も完全に空っぽで指一本動かせない状態だった。周囲を確認する余裕どころか、知覚そのものが限界を超えていた。


(……だから、あの森で気配が分からなかったのは当然かもしれない。でも、本当に恐ろしいのは……)

(ついさっき、この地下図書室でのことよ! 異質な魔力に自動で反応して倒れてしまうほど鋭敏な感知能力を持つミリアナさんでさえ、この部屋に潜んでいた彼女に全く気づけなかったなんて……! ミリアナさんが私たちの鑑定で限界を超えて意識を失った後も、リフレットさんはずっとすぐそばで息を潜めて全て聞いていたんだわ。……この人の隠密魔法は、次元が違いすぎる……!)


 私たちが戦慄せんりつしていると、リフレットさんは私を射抜くような鋭い視線を向けた。


「それにしても、光も驚きだよ。さっき君たちがアミィエルが突然去った話をしていたけれど、数十年前にすでにそんな力を持った人間がいたなんてね」

「……え?」

「私、隠密の特権でうちの初代皇帝が遺した『極秘の記録』を少しだけ覗き見したことがあるんだけどさ……さっき初めて名前を聞いたけど、思い返してみればあの記録には『アミィエル・レフィーナ』なんて存在、一行たりとも記されていなかったわよ」

「……何だと!?」


 ハーヴェー様が絶句し、思わず一歩、前へと踏み出した。


「そんなはずはない! 彼女は十数年前、間違いなく帝国との最前線で戦傷者を癒やし続けていた! 敵国であるおまえたちが、その存在を、その脅威を知らないはずがないだろう!」

「ええ、現場の兵士たちの間で『聖女』の噂くらいは流れていたでしょうね。でも、帝国の公的な記録にも、最高機密である光の系譜にも、彼女の名前は欠片も残っていない。……まるであなたたちの国が、国を挙げて彼女の存在そのものを『無かったこと』に書き換えたみたいにね」

「……っ、そんな……!」


 お姉様が悲鳴に近い声を漏らし、私の肩を震える手で強く抱き寄せた。


「お母様の存在を……歴史から消したというのですか!? この国のために過酷な戦場で身を粉にして尽くしたお母様を……あんなに優しかった人を、王国は『記録にすら残さない道具』として扱い、使い潰したというのですか!?」


 お姉様の赤い瞳には、激しい憤怒と絶望が入り混じっていた。

 私は震える指先を握りしめ、隣に立つハーヴェー様を真っ直ぐに見上げた。


「……ねえ、ハーヴェー様。お母様の記録が消されていること……知っていたのですか?」


 その問いに、ハーヴェー様は苦渋に満ちた顔で、力なく首を横に振った。


「……いや、知らない。先ほど、アミィエルがある日突然王城を去ったと話しただろう? 実はあの直後、私はすぐにオニファス国王陛下に謁見を求め、彼女が去った理由を尋ねたのだ。だが、王様は……何も仰らなかった。それどころか、彼女の話題自体を意図的に避けておられるようだった」

(話題を避けていた……?)


 私は一瞬、息を呑んだ。


(どうして……? もしかして、記録を消したことには、何かやむを得ない別の理由があったとでも言うの? あの冷酷なレオニス王子とは違って、父親であるオニファス国王は、お母様を思いやって……?)

(――いや、絶対にあり得ない!)


 私は心の中で、その甘い推測を全力で叩き潰した。

 脳裏に蘇るのは、冷たい地下牢の記憶。お姉様を無慈悲に断頭台へ送り、私をゴミのように見下したあの氷のような視線。


(あの男の血を引く王族に、人を思いやる心なんてあるはずがないわ! 光魔法使いの存在を独占するためか、お母様を使い潰した非道を隠蔽するためか……いずれにせよ、自分たちの保身のために決まっている!)


 ハーヴェー様は唇を噛み締め、悔しさに拳を震わせた。


「王家が帝国すらあざむくほど徹底的な情報統制を敷き、彼女の存在を歴史から抹消していたとは……!」

「そんな……。じゃあ、お母様が命を懸けて人を救った証も、あんなに優しく私たちに微笑んでくれたことも……この世界からは、最初から『無かったこと』にされているの……っ!?」


 理不尽すぎる歴史の抹消に、お姉様は耐えきれずに嗚咽おえつを漏らし、私の肩に顔を埋めた。


(……やっぱり。一周目の魔力選定の儀で私が光を発現した時、『なり損ない』と言われても誰も宮廷魔道師の母と結びつけなかったのは、情報統制がそれほどまでに完璧だったからなんだわ……!)


 私は、震えるお姉様の背中にそっと腕を回し、その冷たい手を両手でしっかりと包み込んだ。


「……大丈夫です、お姉様」

「アミア……?」

「歴史や帝国の記録から消されたとしても……お母様が命を懸けて人を救ったことも、私たちを愛してくれた事実は、絶対に消えません。だって……お母様の命を継いだ私が、ここにいるんですから」


 私の言葉に、お姉様はハッと息を呑み、涙ぐんだ瞳で私を強く抱きしめ返してくれた。私はその背中を優しく撫でながら、心の中で氷のように冷たい決意を固める。


(そう……。お母様を歴史から消し去り、その命を『無かったこと』にして使い潰したこの国の王族……。あの冷血なレオニス王子たちの血を引く者たちを、私は絶対に信用しない!)

(歴史からも帝国の記録からも抹消されたとしても、あなたの娘がここに生きていることが、この盤上をひっくり返す最大の『特異点イレギュラー』になるんだわ!)


何分、これほどの思考を巡らせたところで、現実の時間ではほんの数秒に過ぎない。

 私は、隣で私の手を引いてくれるお姉様の温もりを確かめるように、その手をぎゅっと握り返した。

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