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処刑された『闇魔法使い』の姉を救うため、死に戻った『光魔法使い』の妹は運命に抗う ~役立たずと捨てられた義妹ですが、今度は絶対に守り抜きます~  作者: 東明時裕夜
第三章 帝国の右腕と地下図書室の秘密

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第31話 もう一人の闇と、狂気の策略家

 リフレットさんは、怒りや悲しみに震える彼らと、決意を固める私を気だるげに一瞥いちべつした。

 張り詰めた空気の中、ハーヴェー様が鋭い声で問い詰める。


「……それで、帝国の右腕たる者が、一体何をしにこんな所へ来た?」


 その問いに、リフレットさんはやれやれと肩をすくめて話を遮った。


「その話は後ね。今はさっきの『二つの闇』の話よ」

「……」

「アミィエルとアミア様の『光』はともかく。そっちのネフェリアの闇と、もう一人の闇とでは性質が全然違うのよね。だって、そいつの闇は『影』だし」

「……もう一人、だと?」


 ハーヴェー様が険しい顔で問い返す。リフレットさんは気だるげに頷いた。 


「そうだよ」  


 『影』という単語が出た瞬間、お姉様の表情がはっきりと強張った。その言葉の異常性を理解したハーヴェー様も絶句し、その場に凍りつく。


「バカな……。闇魔法使いまでもが、同じ時代に二人、存在しているというのか……!?」


 『百年に一人』という世界の理が、完全に崩壊している。この異常事態がどれほど絶望的か、大臣である彼には痛いほど分かってしまうのだ。


「私以外に……もう一人、闇魔法使いが……!?」


 お姉様もまた、血の気を引かせて後ずさった。


(……無理もないわ。二周目の今、お姉様はまだあの闇魔法使い(シャドウ)に会ったことがないのだから)

(あいつが一周目でお姉様を洗脳し、破滅へ追いやった張本人だということも知らない。自分が世界でただ一人の『呪われた存在』だと思い悩み、孤独に震えていたお姉様にとって、闇の伝承が崩れたと知って驚くのも当たり前だわ)


 そんなお姉様の激しい動揺を見て、私はそっと彼女の冷たい手を握りしめた。


「大丈夫です、お姉様……!」


 私が気丈に告げると、リフレットさんはあっけらかんと頷いた。


「いるよ。……けど、君と違い『暗殺』する危ないやつだから」

「暗殺……!?」

「そうよ。影に潜み、人の心をもてあそんで殺す、正真正銘のバケモノさ」


 ミリアナさんが、青ざめた顔で震える声を絞り出した。


「そ、そんな化け物自体が……現実に存在していると言うのですか……!?」

「どうしてそんな危ないやつを野放しにしているんだ!」


 ハーヴェー様が、信じられないというように声を荒らげた。


「誰もその暗殺者には勝てないからよ。基本属性じゃあね。グレンド皇帝も『あいつには絶対に勝てない』って言ってたっけな」

(……基本属性。それじゃあ、私が必死に威力を高めてカモフラージュや対抗手段にしようとしている、私の火魔法じゃあ……)


 あいつの吐き出す透明な冷刃に『吸い込まれる』前に、その魔力を上回って溶かし切ることは、到底不可能なのだろうか。


 圧倒的な絶望を突きつけられ、私はギリリと奥歯を噛み締めた。


 私たちが青ざめていると、リフレットさんはパチンと軽快に指を鳴らし、思い出したように付け加えた。


「まぁ、うちの国でも好き勝手やってる暗殺者なのよ」


 リフレットさんは気だるげに肩をすくめて続ける。


「……その暗殺者の名前は?」


 ハーヴェー様が険しい顔で尋ねると、リフレットさんは少し思い出すように視線を上げた。


「確かシャドウって言ってた。それしか聞いていないわ」

(シャドウ……。あいつの通り名は、『マリオネット・シャドウ』だったはずだわ)


 一周目の地下牢の階段で、アメリアさんの命を奪った直後にあざ笑いながら名乗った、あの道化のような悪魔の姿が脳裏に蘇る。


「シャドウ……。その暗殺者が使えるのは、闇魔法だけか?」


 ハーヴェー様が、情報を整理するように尋ねた。


「闇魔法は使えないわよ。皇帝は言ってたし」

「闇魔法使いなのに、使えないって……どういうことだ?」


 ハーヴェー様が、全く理解できないというように眉をひそめた。そして、何か思い当たったように鋭い視線を向ける。


「……では、奴の『もう一つの属性』は何だ? 闇魔法が使えないというのなら、まさかその別の属性を極めて暗殺を……?」


 ハーヴェー様の追及に、リフレットさんはやれやれと首を横に振った。


「さあ? 私はあいつの魔法を直接見たわけじゃないから知らないわ。それに、皇帝も『あいつの属性は知らない』って言ってたし」

「実の兄である皇帝ですら、もう一つの属性を知らないだと……?」


 ハーヴェー様が、全く理解できないというように眉をひそめた。


(……待って)


 私は、ハーヴェー様の言葉を聞いて、一周目の死の間際の記憶を辿った。

 あの日、あいつ自身が嘲笑いながら教えてくれた言葉。


(ハーヴェー様は、誰もが『二つの属性』を持つのが当たり前だと思っているから、もう一つの属性がある前提で話している。……でも、あの時あいつは、自分の『もう一つの属性』については一切言っていなかったわ)

(あいつが言っていたのは、『精神支配と、ある偏った力に特化しすぎたせいで、単純な破壊の闇魔法すら撃てない一属性の欠陥品だ』ということだけ)

(……もしかして、あいつには最初から『もう一つの属性』なんて存在しなかったってこと……?)


「けど、闇魔法と同等の力を持った幻級魔法を持っているの。名前は知らないって言ったけど、影を操るって聞いたわ」

「……ッ! まさか!」


 その言葉に、ミリアナさんが弾かれたように顔を上げた。


「幻級魔法には、必ず常軌を逸した『重い制約』が伴います。……本来の属性を完全に失うこと自体が、その影の魔法を得た『代償』だというのですか……!?」

「属性を失う制約なんて聞いたことがないわ……私も驚いたけど、皇帝が言うんだから間違いないわよ。それにね、『あいつの深い影や闇は、それを照らす光魔法使いじゃなきゃ倒せないだから、帝国には光が必要だ』って言っていたわ」

(……影……! 闇魔法が使えない……それが、その幻級魔法の『制約』?)


 強力すぎる幻級魔法を得た代償として、本来の属性であるはずの闇魔法を一切使えなくなってしまったのだとしたら、全ての辻褄が合う。


(……それに……)


 私は、リフレットさんの言葉の中に、決定的な『情報の抜け』があることに気がついた。


(……魔眼について聞いてないんだ)


 相手の過去の記憶を覗き、魔力を見抜く恐ろしい二つの魔眼。あいつの最大の武器の一つであるはずのその能力を、右腕であるリフレットさんが語らないなんて……?


 あいつがひた隠しにしているのか……それとも、皇帝がわざとリフレットさんに教えていないの?


(……そして、光魔法使いじゃなきゃ、倒せない……!)


 私はハッとした。あの日、シャドウ自身が言っていた。『光の加護を持つ君は、僕ら闇魔法使いにとって唯一の天敵だ』と。


(だからこそ、帝国の皇帝はあの悪魔の底知れない闇を打ち破れる、伝承にある『光魔法使い』をずっと探していたんだわ……!)


「……なっ! なんだと……!?」


 リフレットさんの言葉に、ハーヴェー様が血相を変えて声を荒らげた。


 彼は私を背後に隠すように一歩前に出ると、大国の大臣としての威厳をかなぐり捨て、激しい怒りを露わにしてリフレットさんを睨みつけた。


「……ふざけるな! 皇帝がずっと光魔法使いを探していたのは、その化け物を倒すためだと言うのか!? かつて私が守れなかったアミィエルの忘れ形見であるこのアミア様を、お前たち帝国の尻拭いのために、死地に引きずり込むつもりか!!」


 かつて愛した女性の娘を、再び戦場や死地へ送るかもしれない。その最悪の可能性に、ハーヴェー様は激しく歯を食いしばり、今にも魔法を展開しそうなほどの殺気を放った。


 しかし、リフレットさんはその殺気を受けてもどこ吹く風と、やれやれと短くため息をつき、なだめるように手のひらをひらひらと振った。


「……だから、最後まで話を聞きなさいよ。そんな恐ろしい顔しなくても、安心しなさい。そこの光魔法使いの君を、暗殺者にぶつけるつもりはないからって、グレンド皇帝も言ってたしね」


「……何……? 唯一の対抗手段である光を、使わない……?」


 ハーヴェー様が、虚を突かれたように目を見開く。一国の主として、勝利の切り札を自ら手放すという皇帝の非合理的な判断が、すぐには信じられないようだった。


「……ッ!」


 その言葉を聞いた瞬間。

 今度は、お姉様がサッと私の前に飛び出し、両手を広げて私を背中に庇った。


「お姉様……?」


 見上げたお姉様の華奢な背中は、得体の知れない恐怖に微かに震えていた。それでも――。


「……アミアには、指一本触れさせません!」


 お姉様は、敵国の使者であるリフレットさんを真っ直ぐに睨みつけ、毅然きぜんとした声で言い放った。


「帝国の皇帝が何を考えているかは知りませんが……妹の『光』を、恐ろしい暗殺者を倒すための兵器や道具にするつもりなら、私が絶対に許しません! ハーヴェー様と同じです。 どんな運命が迫ろうと、この子は私が守ります!」

(お姉様……)


 私は胸が熱くなるのを感じた。あの日暗い洞窟の中で誓い合った通りに。お姉様は、恐ろしい帝国の使者を前にしても、一歩も退かずに私の盾になってくれているのだ。


 リフレットさんは、そんなお姉様の必死の姿を見て、どこか嬉しそうに目を細めた。


「ふふっ、本当にいい姉妹ね。……けど、あなた達が狙われる事はないわ。だってあなた達の光と闇はまだまだだし」

「……え?」

「あの策略家キャサリーヌの連中には、あなた達が光と闇だって事は内緒にしといてあげるよ。あの女、そういうやつなのよ」

「キャサリーヌ、だと……?」


 その名前を聞いた瞬間、ハーヴェー様がかつてないほど険しい顔つきになった。


「あの女が絡んでいるのか。……かつて、元・魔法兵団副団長であるレイフェ殿と、国境を越えた盤上の知略戦で激しくやり合ったという、帝国の狂気の頭脳」

「へぇ、よく知ってるわね」

「ええ。魔法兵団の記録に残っています。彼女は異常なまでの完璧主義者であり、ただ勝つだけでは飽き足らず……相手の心と尊厳を徹底的にへし折り、『絶対的な敗北』を与えることのみを至上の目的とする、極めて危険な人物だ。……故に、己の作戦において使えない者や、魔法の質が悪い者は、一切の情もなく容赦なく『捨て駒』にするやつだと聞いています」

「そうそう」


 リフレットさんは、あっけらかんと頷いた。


「だから、仮に策略家があなた達の存在を知っても、今のあなた達じゃあ狙う事はないわ。絶対的な敗北と完璧を求める狂人ゆえに、完成されていない未熟な力には興味すら示さないからね」

「私たちの力が未熟だから……狙う価値すらないと……?」


 お姉様が、屈辱と恐怖の入り混じった声で呟いた。


 自分の命が、相手の基準に満たないというだけで見逃される。そのあまりにも冷酷な命の算段に、肩を震わせている。


「絶対的な……敗北。それに、魔法の質が悪い者は……狙いもしない……」


 私は、その言葉のおぞましい響きに息を呑んだ。


(……人間の価値を魔法の質だけで測り、いらなくなればゴミのように使い捨てる。まるで、私が未熟だと分かった瞬間に『無価値』と切り捨てたレオニス王子たち王族と同じ……ううん、それ以上に底知れない悪意だわ)

(でも……その狂った完璧主義のおかげで、今の私たちはあの女から『脅威』として認識されずに済む。私が未熟な「なり損ない」を演じ切り、お姉様が闇を隠し通していれば、あのバケモノの目から逃れられるんだわ)


「……本当ですか?」


 私が尋ねると、リフレットさんは気だるげに頷き、そして付け加えた。


「ええ。……あぁ、でも皇帝には報告したから」

「「皇帝に……!?」」


 私とお姉様、そしてハーヴェー様が同時に驚愕の声を上げた。

 敵国の最高権力者に知られたとなれば、ただ事ではない。


「私の魔法で作った分身ミラーを帝国に走らせたからね。……ついさっき、その分身が『活動限界』を迎えて消滅して、私の頭に記憶が戻ってきたんだけど。でも大丈夫、皇帝は『どうもする気はない』って言ってたから」

(……分身ミラー……? 本物そっくりに動く分身を作り出す魔法なんて……もしかして、彼女のその魔法も『幻級魔法』だというの……!?)

(それに、ついさっき記憶が戻ってきた……? まるで、遠く離れた帝国の出来事を今ここで見てきたかのように……!)


「どうもする気は……ない?」

「そう。グレンド皇帝は、あなたたちを争いの道具にする気はないわ。だから私も、グレンド皇帝から『あいつには接触するな、見つけて追うな』ってきつく言われているの」


(……私を、暗殺者にぶつけるつもりはない……?)


 その言葉を聞いて、私はハッと息を呑んだ。私の中で一周目の記憶が一気に繋がり始める。


(待って。一国の皇帝が、たかが一人の暗殺者に対して自国の隠密に『接触するな』と命じるほど警戒しているなんて。……それに、一周目の死の直前にシャドウが吐き捨てていた言葉。親が呪いで死んだせいで関係が壊れた『殺し合いが嫌いな兄』……!)

(数日前、私が作戦計画書に書いた推測の通りだったんだわ。シャドウのお兄様は……アセレリア帝国のグレンド皇帝自身なんだ!)

(そうよ……。あいつは一周目のあの階段で、『自分の名前が嫌いなんだ』と深く暗い怨念を込めて吐き捨てていた。親が付けた名前すら捨てるほどに、実の兄である皇帝との関係が完全に壊れ果てていたのね……)

(それに、あいつは『強硬派の策略家連中が無理やり開戦の火種を作るために自分を雇った。平和主義の皇帝は知らない』とも言っていたわ)

(作戦計画書を書いたあの日、私は『皇帝が本当に何も察知していないなんてあるの?』と疑っていたけれど……やっぱり、私の推測通りだったんだわ)

(皇帝陛下がリフレットさんに『あいつには接触するな』と厳命しているのなら、あいつの危険性を誰よりも痛いほど理解していたはず。……何も知らなかったんじゃない。あいつには物理攻撃が効かないから、戦わせずにあえて見逃すしかなかったんだ!)

(シャドウの闇……あの幻級魔法の『影』は、物理攻撃を飲み込み、反射すら無効化する。実の兄である皇帝陛下にさえ、弟を止めるすべはなかったんだわ。……だからこそ、皇帝陛下は伝承にある『光魔法使い』を探していた)

(あいつを殺すためじゃない。あいつの深い闇を唯一『照らして払う』ことができる光で、暴走する弟を止めるために……!)

(……待って。だとしたら……一周目のあの時。もし皇帝陛下やリフレットさんが、シャドウがこの王国に潜入していることに気づいていたとしても……)

(唯一の対抗手段である『光(私)』を見つけていなかったあの時の彼らには、暴走するシャドウを止める手段が物理的に存在しなかったんだわ……!)

(だからこそ、あいつは誰にも止められることなく好き勝手に暗躍し、お姉様の心を壊し、アメリアさんを殺せた。……私が『なり損ない』の烙印を押され、光の力を隠したまま、無力でいたせいで……!)


 胸の奥が、冷たい怒りと、名もなき悲しみで震える。


(なんて皮肉なのかしら。……兄は、弟を止めるための『光』を探し続け、見つけた後でもなお『子供を道具にはしたくない』と私を遠ざけようとしている。……それなのに、弟の方はその兄をさげすみ、誰からも愛されない孤独の中で、他人の家族の絆を壊して回っているなんて)

(シャドウ……。あなたがどれほど悲惨な過去を背負っていようと、お兄様との絆がどれほど無残に壊れていようと……私には関係のないことよ。あなたが私の大切なお姉様を壊し、アメリアさんを殺したという事実は、二周目のこの世界でも決して消えはしない)


 私は、私を背中に庇ってくれているお姉様の温もりを確かめるように、そのドレスの裾をぎゅっと握りしめた。


(あなたの『空っぽな孤独』を埋めるために、私のお姉様を『人形』になんてさせない。……たとえ皇帝陛下があいつを救いたいと願っていたとしても、私だけは絶対に、あなたを許さないわ)


 私は目の前のリフレットさんを見つめた。

 魔法の質だけで人間の価値を測り、使えなければ切り捨てる策略家やレオニス王子とは全く違う意志を持つ皇帝。その腹心を通じて、ようやく輪郭が見え始めた存在。でも、本人はまだ遠い――手の届かない場所にいる。


(……あんなにも立派なお兄様なのに、どうして実の弟であるあの悪魔シャドウとの絆を失い、家族が完全に壊れてしまったの?)


(……いつか、グレンド皇帝陛下に会える日が来たら。彼に問いただすべきことは、もう『どうして野放しにしていたのか』じゃないわ)


(一周目の最期にシャドウが憎悪と共に吐き捨てていた、兄弟の絆を壊した親の『呪い』と『代償』の真実。……今度はそれを、私が全部聞き出してやる)


(あいつを救うためじゃない。……今度こそ、あいつを完膚なきまでに叩き潰し、お姉様とアメリアさんの未来を完全に買い戻すための『武器』にするために!)

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