第348話「特別任務と束の間の休息」
#第348話「特別任務と束の間の休息」
(レン視点です)
俺たちは定期報告のため、ハンター協会ビルの高層階にある朝倉さんのオフィスを訪れていた。いつものように透子さん、エリナさん、黒澤さんもいる。
六階層の攻略に入ってからというもの、進行速度は明らかに落ちている。その理由は大きく二つあった。
まず一つは、訓練に割く時間を大幅に増やしたこと。そしてもう一つは、安全第一を徹底し、敵モンスターが十五体以下の状況でしか戦闘に挑んでいないことだ。時折、二十体規模で対応することもあるが、その場合はやはり厳しい戦いを強いられる。
現状で厄介なのが六階層のボス格モンスターであるミノタウロス。特に厄介なのが咆哮だ。
あの咆哮を受けて混乱状態に陥ると、途端に戦況は悪化する。現在は対策として、あえて咆哮を受ける訓練を行い、耐性を身につけることを優先していた。
耐性ができれば、戦闘にも多少の余裕が生まれるはずだ。
俺自身も何度か咆哮を受けて混乱したが、あれは本当に危険だ。頭の中に悪いイメージばかりが浮かぶ。
例えば「絶対にミノタウロスの攻撃を受けてしまう。俺だけでなくみんなもやられる」と思い込んでしまう。逃げ出したい衝動に駆られ、恐怖に縛られて一歩を踏み出すことすら困難になる。戦闘中にこんな状況になったら勝てるはずもない。
そんな時、ひよりやルナの平手打ちが容赦なく飛んでくる。
そして俺は正気に戻る。痛みで我に返るというわけだが、これが意外とすっきりする。……変な方向に目覚めそうで少し怖い。違う意味で注意が必要かもしれない。
でも恐慌状態に陥った時は、普通に声掛けしてくれるだけでもいいはずなのだが俺だけには厳しい。まさか二人に恨まれているということはないよね?
ともあれ、現状ではレベル7到達はまだ先になりそうだと報告した。本当に報告する内容が少なくて困る。
それでも俺は現状を報告した。
「ミノタウロスの咆哮が特に厳しくてレベル7はかなり先になりそうです。期待に応えられず、すみません」
「そりゃそうでしょう。そんな簡単に追いつかれたら、たまったものではないわ」
エリナさんは軽く笑いながらそう言った。少し悔しいが、まったくもってその通りだ。苦笑いするしかない。
すると、これまで黙って話を聞いていた朝倉さんが口を開いた。
「いや、今までの通りで全然問題ない。まだ初挑戦から間もない。遅いわけでもない。私は順調だと思っている。この調子で頼む」
「分かりました」
朝倉さんはいつも安全重視で順調だと言ってくれる。その言葉に安心はするけど、そこで満足してはいけないのだろう。
そして朝倉さんは別の案件を伝えてきた。
「実は一つ、依頼があるんだが受けてくれないか? 高泉首相と大泉防衛大臣についてなんだがな、今でもたまにダンジョンに潜っているんだ」
「少し聞きました。確か俺たちと同じレベル6で凄いですよね。それで依頼とは?」
「ああ、二人が君たちと、一度ダンジョンに潜りたいと言ってきてな」
高泉首相と大泉防衛大臣は不定期にプライベートでダンジョンに潜っているらしい。ストレス発散も兼ねているとのこと。そして、その際に、一度だけ同行してほしいというものだった。
俺たちもダンジョン攻略との兼ね合いがあるため頻繁だと困るが、今回は一回限りの予定らしい。しかも、二人がダンジョンに潜るのは最近は忙しくて半年に一度程度とのことだ。それぐらいならば毎回であっても問題はないだろう。いや、緊張するのでそれはそれで勘弁してもらいたいかな。
ともかく一回だけというならば特に問題はない。二人ともレベル6の実力者であり、なんなら共に討伐を行うことも可能だ。
六階層ともなると透子さんのような初心者を連れて行くのはまだ厳しい。自分の身を守れない人間を同行させるのは避けたいのだ。でも、高レベルハンターならば話は別だ。ベテランのレベル6なら、ほぼ危険性はないと言っていい。
そう考えていると朝倉さんが話を続けた。
「場所は神奈川県湘南エリアにある葉山ダンジョンだ。葉山公園の付近に出現したダンジョンで、当日は夕方に潜る予定になっている」
朝倉さんの説明を受け、俺たちは顔を見合わせた。
「みんな、どう思う」
「別にいいんじゃないか? たまに別のダンジョンに潜るのは気分転換になるしな。勉強にもなるかもしれない」とルナは前向きだ。
「湘南エリアだから前泊して午前中から昼過ぎまで観光して夕方から潜るのもありかもね」とひよりも前向きだ。
確かに夕方からのダンジョン攻略となれば、それまでの時間は自由だ。前日の夜に入って、昼過ぎまでは湘南や鎌倉周辺を観光しようという話になった。
――お泊まり旅行みたいなものだな。
小さい頃に何度か旅行した記憶はあるが、それ以来だからかなり久しぶりだ。ダンジョンの仕事が主目的ではあるものの、どこか楽しみな気持ちも湧いてくる。
そのため俺は朝倉さんに返事をした。
「という感じなので特に問題はありません。その依頼を受けたいと思います。日程が分かったら早めに連絡してもらえると助かります。前泊からの予定を立てます」
「ありがとう。助かるよ。正直言うと、首相や防衛大臣のご機嫌も取らないとハンター協会としても大変なんだ」
「本音が駄々洩れですね」
そう俺が言うとみんなが笑った。
新たな任務ではあるけど、束の間の休息も楽しめそうだ。高泉首相と大泉防衛大臣がどの程度の実力なのか?それを見るのも楽しみだ。
その両方を胸に、俺たちは葉山ダンジョンへ向かう準備を進めることになった。
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