第341話「綱渡りの決断」
#第341話「綱渡りの決断」
C国に高泉首相の誘拐を提案したQ国では、その後すぐに緊急の内部会議が開かれていた。
重苦しい空気の中、参謀が静かに口を開いた。
「……よろしいのですか、大統領。あんな軽はずみなことを言って。一国の首相を誘拐する。簡単な話ではありません。しかも日本はそれなりに大国です。我が国の関与が知られたら更に世界的に孤立します」
大統領は椅子にもたれ、しばらく天井を見つめた後、ゆっくりと答えた。
「ああ、分かっている。しかし今はC国の援助が必要だ。苦しい状況で打てる手は限られている。何としてでもC国を味方に付けなければいけない。」
Q国は焦っていた。
長年の独裁体制と国民弾圧、そしてテロ組織など裏組織との関与が続いている。
その結果、国際社会からは事実上孤立している。国際協調した制裁は緩まず、輸入も制限され一部資源は不足し始めていた。
どこでもいい。味方が欲しい。そんな状況だ。
その中で比較的フラットに接してくれるC国は、ありがたい存在だった。C国経由ならば、物資の輸入も比較的スムーズに進む。
世界各国はあの手この手でQ国に制裁を課し批判しているが、現実にはQ国を孤立させる方が危険という視点もある。何が正しいのか、混沌とした国際情勢では判断が難しいところだ。
基本的には世界各国は綺麗ごとで動く。その方が後々のリスクはないからだ。しかし現実は非情。綺麗ごとで動いて悲惨な結果になることは多い。そのために各国の与党政治家は綺麗ごとをいいつつも大きな問題に発展しないように裏で暗躍する。
適当な綺麗ごとだけを言って稼いでいる評論家や野党政治家と同じではいられないのが政権を担う側の政治家のつらいところである。
現実問題としてQ国としてもC国を全面的に信頼しているわけではない。現実には逆で、全く信用していないと言っていいだろう。
あくまでも、現時点で互いにメリットがあるから繋がっているに過ぎない。
参謀は眉をひそめた。
「仮に誘拐に失敗し我が国の関与が疑われれば、C国は我が国を簡単に切り捨てるでしょう。更に厳しい状況になります」
「分かっている」
大統領は即答した。
「だが、今の我が国にとってはありがたいのだ。敵対国に囲まれている状況で、C国は貴重な存在。利用できるなら利用する。しかし利用するだけではC国も離れていく。今は何としてでも繋ぎ止めなければいけない。今回はその一手を打つタイミングだ」
当然、首相の誘拐ともなれば、世界を揺るがす大問題になる。もしQ国の関与が露見すれば、これまで以上の制裁は避けられない。C国も距離を置くだろう。
それでも今はC国を繋ぎとめるために動くべきというのが大統領の判断だった。更なる援助を引き出す必要があるのだ。
しかし参謀には、うまくいく未来が見えなかった。暴走にも思えた。すると大統領は静かに言った。
「例のテロ組織連中を、また動かそう」
参謀は顔をしかめた。確かに例のテロ活動家たちは良い働きをしている。しかし、そのテロ組織との関与が疑われることも、世界から孤立している原因の1つになっているのだ。これ以上、関係を強くするのは得策ではないと思われた。
しかも何度か依頼に成功したテロ組織はつけあがっている。成功報酬として求めてくる要求も過大になってきている。
「あの連中を信用して大丈夫ですか? 最近は付け上がっていますが」
「だからこそだ」
大統領は薄く笑った。
「成功しても、失敗しても……状況によっては組織ごと潰せばいい」
参謀は一瞬言葉を失い、やがて小さく息を吐いた。
「……なるほど。最近目立ってきていますから、合法的に叩く理由にもなりますね」
「ああ。一応は動いているということでC国のメンツも立つ。そして成功しても失敗しても、我が国との繋がりが露見し問題に発展しそうであれば組織ごと消えてもらう」
「つまり、切り離せる構造を作った上で依頼する、と」
「そうだ。テロ組織との繋がりは、いつでも消せるようにしておけ。そして、いつでも潰す方向に動けるように攻撃の準備も忘れるな」
「承知しました。しかし報酬は相当な額になりますよ。成功報酬はもちろんのこと依頼するだけでも大変な負担になります」
大統領は肩をすくめた。
「最近はドローンでダンジョン氾濫も抑え込めている。国内の不満分子もドローンの性能を見て沈静化している。逆に不要な旧来の武器がだぶつき始めた。余っている武器を適当に融通すればいい。今のあいつらは金より武器だろう」
参謀は苦笑した。ほぼ大統領の考えを理解した。現時点で一番駄目なのは動かないことだと判断しているのだろう。このままではじり貧になるので、それも理解できる。
まずは動いて、どのような結果になっても自国にプラスになる方向に誘導するつもりなのだ。
考えていることは分かる。ただし、うまくいく保証は全くない。どちらの結果が出ようとも簡単な話ではない。
「……我が国はいつも綱渡りですね」
「仕方がない」
大統領は低く呟いた。
「弱いところを見せれば、相手は付け上がる。それは国が相手でも組織が相手でも同じ。綱渡りでもやるべきことをやらねば、あっという間に我が体制は終わる。それだけは避けなければいけない」
その目には、焦燥と覚悟が混ざっていた。水面下で動き始めた計画は、止まる気配はない。確実に日本へと動き始めていた。
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