第336話「飲まれない心」
#第336話「飲まれない心」
今日は六階層の初挑戦だった。苦労はしたけど何とか攻略を進めた。ただ、どこか全体的に空気が重い気がする。個人的にはまずまずだと思ったけど、みんなは厳しいと感じたのかな?
課題が多かったのは事実だけど初戦なのだから当然とも言える。それでも、みんなの表情は晴れない。
ここは何とか雰囲気を変えたいところだ。俺は今日の六階層攻略について言及した。
「ミノタウロスの突進対策は、うまくいった方じゃないかな?」
俺がそう言うと、返ってきたのは微妙な沈黙だった。
やや難しい顔。
ああ――みんな、怖かったんだろうな。そこは俺も同じだ。当たらないと思っていても、あの巨体が目の前をかすめるだけで心が揺れる。
その時、ひよりが静かに口を開いた。
「私は……きつかった。突進がきて、当たらないとは思ったけど必要以上に距離を取っちゃった。それで気持ち的に、ちょっと飲まれてしまったと思う。それがその後の咆哮での混乱に繋がったのかも」
「なるほど。確かに俺も突進はかなり怖かったよ。あれだけでも飲まれかけるよな。仕方ないと思うよ。当面は安全重視で距離を多くとるのも悪くない」
精神が揺れれば緊張し、動きが悪くなる。そして咆哮の影響も強くなるのかもしれない。でもそれはそれでいいと思う。
「でも、現時点で咆哮を受けて混乱するのは悪いことじゃないと思う。徐々に慣れるらしいし、今みたいに比較的余裕があるうちに経験しておいた方がいい」
そう言うと、ロアが不安そうな顔で手を挙げた。
「僕も……咆哮で混乱しそうになりました」
声が震えている。
「それは仕方がないよ。俺だって飲まれそうになったしね」
そう伝えたが、ロアは首を横に振った。そして泣きそうな顔をしている。
「僕は気持ちが弱いから……だから混乱するのかもしれません。恐怖に勝てないのはレンさんへの忠誠も、みんなより弱いのかも……ごめんなさい」
そこまで言うか。ロアは、かなり思いつめているみたいだな。
俺は少しだけ真面目な声で言った。
「それは違う」
断言したら、自然と全員の視線が俺に集まった。
「怖いのは誰だって同じだ。俺だって同じだ。そこに忠誠が強いかどうかなんて関係ない」
「ちゃんと怖いと感じられるのは大事なことだ。むしろ、怖さを無視して突っ込む方が危ない。無鉄砲に突っ込んで怪我する方が俺は嫌だよ。だからこそ、その怖いという気持ちも大事にして欲しい」
ロアは目を瞬いた。怖さをちゃんと感じて欲しい、それが大切とか変な話だけどこれは本音だからね。
「ロアが頑張っているのは、ちゃんと分かってる。だから気にしなくていい。怖さを感じるのは武器であり大切な感覚だと思って、このまま続けてくれればいい。その慎重さは何よりも大切だからな」
そして他の使役モンスターにも視線を向けた。ロアと同じことをみんなに伝えたいと思ったからだ。
「みんなも咆哮で混乱するのは仕方がないと思ったらいいよ。だからこそ、お互いに助け合えばいい。俺だって、いつか混乱するかもしれない。その時は助けてくれ」
そう言って俺はみんなに頭を下げた。数秒の沈黙のあと、全員が頷いた。少し空気が軽くなったような気がする。
その様子を見て、ルナがふっと笑った。
「いいリーダーになったな」
「そんなつもりはないけど……そう見えるなら嬉しいかも」
照れくさい。だが、悪い気はしない。みんなが俺の言葉で少しでも楽になれたのならば本当に嬉しいことだ。
「それと」
ルナが続けた。
「防御態勢に入った後の対応はスムーズで良かったんじゃないかな。そこで無理に削らず、他のミノタウロスを倒し切る今回のやり方は正解だと思う。しばらくは無理せずこの調子でいこう」
数を減らしてから一斉攻撃。
単純だが、効果的だった。時間はかかるけど安全重視の動きだ。時間短縮の攻略を見つけるまではこの体制でいけばいい。
ルナが更に続けた。
「俺たちは少人数じゃない。八人いるチームだ。ミノタウロスは最大でも五体、その優位を活かせばいい。慣れてくれば敵が五体でもいけるだろう。それまでは我慢していこう」
その通りだ。
一人なら厳しい相手でも、連携すれば突破口はある。そしてまだ初戦だ。慣れてきたら他にも何らかの弱点も見つけられるかもしれない。
今は準備段階だと思えばいいだろう。最初から無理する必要もない。
その後も反省点と課題を洗い出した。突進対策の位置取りや精神的耐性。咆哮への慣れ。攻撃力の底上げ。
やることは多い。かなり大変だ。もともとレベル7への道は厳しいとは思ってはいたけど本当に遠い。
だが、焦らない。
歩みは遅くてもいい。当面は慣れることに重点を置く。そして徐々に強くなればいい。まずは飲まれない心を作ることからだ。
それが六階層攻略の第一歩だと思う。
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