第335話「六階層、初戦」
#第335話「六階層、初戦」
今日からいよいよ六階層の攻略が始まる。まずは午前中の半日はルナによる攻撃力強化の指導からスタートした。
とはいっても、最初の数日はこれまでの鍛錬と大きく変わるわけではないようだ。基本の再確認――素振りだ。
「全身を使って斬る。それが基本だ」
ルナの厳しい声が響いた。
正しい姿勢。下半身から動き、腰を回し、肩、腕、そして最後に剣へと力を伝える。これまでに何度も繰り返してきた動作の再確認。
「手振りは厳禁だ。それじゃ威力が乗らない。疲れてくると足が出なくなるので注意!」
疲れてくると、下半身に力が入らず、どうしても腕だけで振りがちになる。だがそれでは斬撃は軽くなり、しかも余計に腕周りに疲労が溜まる。
下半身から全身で斬る。何度も何度も繰り返した。
以前はこの訓練だけでもきつかったが、今は違う。
多少疲れていても問題ない。確実に力が乗るようになった。それによって討伐も楽になっている。
基本を忘れないこと。それが一番の上達の近道なのだろう。安全マージンを取るためにもしっかりと問題がないかチェックしていきたい。
「他にも威力を上げる方法はあるけど、しばらくは基本を集中的にそして徹底的にやる」
ルナがそう言ってきた。まあ当初の予定通りだから特に言うこともない。そして、まだ初日だ。焦る必要はない。今後の楽しみにしておこう。
そして午後……ついに六階層へ足を踏み入れた。空気が違うような気がする。なんとも重い。そして張り詰めている。
緊張のせいかもしれないが、それだけではない気がする。
六階層はミノタウロスというボス格の敵が厳しい。大きくパワーがあるだけでなく三つの特徴がある。
……が、六階層が難しい理由はもう一つある。
とにかく敵の数が多いのだ。一度に十五から二十五体。ボス格のミノタウロスだけでも三体以上になるのだ。
五階層とはいろいろな意味で難易度が異なる。それを念頭に置いてやらないと大変なことになるだろう。
そのため、今日は敵が少ない、十五体出現の群れだけを相手にすることにした。
基本フォーメーションは2-3-3になる。すなわちミノタウロス一体につき最低二人が対応する形だ。
俺は今日はルフとクーと組むことになった。
まずはミノタウロスを警戒しつつ、周囲の雑魚敵を一掃する。レベル6ともなれば、五階層のボスだったオークはもうそれほど脅威ではない。
だがミノタウロスはそうもいかない。かなり危険な敵だ。二人~三人で対応しても厳しい。
そして……予備動作も感じないままに突然、突進が来た。
正面は外していたはずだった。問題はないはず。それでも、目の前を一気にかすめていく巨体は怖い。
その動きは早く、見てから動いては避けきれない可能性がある。常に突進は頭に入れて対峙する必要があるだろう。
そして、あれだけスピードがあるとなれば威力も相当だ。正面からぶち当たられたら大ダメージ必至だろう。
そして、自分がわずかに“飲まれかけている”ことも自覚した。
突進だけでもミノタウロスにかなりの脅威を感じている。この精神状態で咆哮を受けたら、危ないな。
そう直感して頭を切り替えた。どんな状況でも飲まれないようにしないといけない。
そうして何とか雑魚敵を倒し切り、残るはミノタウロス三体までこぎつけた。その後は斜めからの攻撃を意識しダメージを与えていたその時。
ミノタウロスの一体の動きが一瞬止まった。
そして次の瞬間……。
ミノタウロスが大きな口を開けて何かを叫んだ。
とんでもない轟音、音圧でそれだけでもダメージを受けたのかと錯覚した。鼓膜を震わせる叫びだ。
軽く耳栓はしている。それでもきつい。
視界の端で、ひよりの動きが鈍るのが見えた。
「ひより!」
声をかけ、ミノタウロスから距離を取り、肩を揺さぶる。数秒。
「ごめん……もう大丈夫」
目の焦点が戻った。よかった。そうして再び前を向く。再びミノタウロス三体を2-3-3のフォーメーションで削っていく。
やがて一体が防御の姿勢を取った。あれがミノタウロスの守り、耐久を意識した時の構えか。
そこで予め打ち合わせしていた通りにフォーメーションを変更。俺がその防御姿勢に入ったミノタウロスを監視しつつ軽く攻撃。
他の二体を四人と三人に分かれて削った。
選択と集中、そして連携しての攻撃。ようやく三体のうち二体を倒した。最後は残る一体を全員で一斉攻撃。
守りを固める暇を与えず、押し切った。三人~四人で一斉攻撃すれば防御姿勢を取る前に一気に倒せるのかも。ただし三人だとぎりぎりかもしれない。やはり攻撃力の強化は必要だろう。
ともかく最初の討伐がようやく終わった。まだ最初の討伐だというのに、時間も体力も大きく削られたように思う。これはきつい。
これがミノタウロス、そして六階層の戦いだ。このペースでやっていたらいつまでたってもレベル7に達することはできないだろう。
やはり簡単ではない。それだけは間違いのない事実だ。
だが、俺達は確実に前へ進む。
訓練と実戦を重ね、慣れ、乗り越えていくしかないだろう。
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