図書館 館長室にて
パァン!!
セドリックが笑いながら打った弾はファウストの頭を撃ち抜いた。
ファウストは撃たれた勢いで椅子の背もたれに仰け反った。
グロリアはそれを無表情で見ていた。
「先生、あっけないですねぇ」
セドリックはつまらなそうに言うと銃を床に放り投げ、ファウストに近づこうとした。
しかし、床に音をたてて落ちるものだと思ったその銃には思いもよらぬことが起きた。
ポチャン・・・。
セドリックとグロリアは表情は変えずに銃の落ちた床を見た。
そこには銃は無かったが水の波紋が床に広がった。
セドリックは踏み出そうとした足を引っ込めて笑った。
「グロリア、どう思う」
グロリアはセドリックの質問には答えずポケットから広口瓶と透明な薄い手袋を取り出した。
「あ、あれ、グロリア?」
セドリックはグロリアのやろうとする事に気づいて慌てた。
グロリアはやはり無視して手袋を嵌めて、瓶から親指の先程度の白い塊を出した。
「グロリア~?ちょっとそれは大きすぎないかな?それ、僕にも被害来そうで怖いよ」
「大丈夫、死なない程度よ」
そう言ってグロリアは塊を銃を落とした場所の近くに投げた。
「え、近くない?!」
もっと遠くに投げてくれると期待したセドリックは驚いた。
白い塊は水のような床にプカプカ浮き、シューと音を出しながら白い煙を出した。
「ちょっ、ちょっと?」
セドリックは耳を塞いで目を強く閉じた。
バンッ!!
と白い塊はと爆発した。
小規模ではあったが近くにいたセドリックはグロリアに嫌な顔を見せた。
「ひどいじゃないかグロリア」
グロリアは瓶と手袋をポケットに戻して平然と言った。
「ただの水ね」
「確認するのにここまでやる必要があったのかい?」
「ただの水でよかったじゃない。世の中には塩基性が強すぎて触れるものすべてが石になる湖があるくらいだもの」
「それは特例じゃないか。さて・・・」
再び前に向き直ったセドリックはファウストのいる机に目を向けた。
「面白いですね。先生にこんなユーモアがあるとは思いませんでしたよ」
そこには撃たれたたはずのファウストが素知らぬ顔でいた。
「この部屋にいるのはワシだけではない。ご要望にお答えして塩基性を強めることもできるがどうする?」
セドリックはさして驚きもせず
「それはちょっと遠慮したいですねぇ。・・・アン先生ですか、これをしたのは?」
「えぇ、そうです。久しぶりですね」
先程まではいなかったはずのアンがファウストの座っていた椅子の後ろに立っていた。
アンはグロリアの方を向いて
「グロリアさん、性格の方は相変わらず短気で変わっていないわね。もっと慎重に調べるやり方はしないの?」
グロリアはアンを今までにないくらい悪意を込めて睨んでいた。
「うるさいわね、アンタは。敬語使いながら人を見下すような言い方は変わってないのね。田舎に逃げて少しはマシになったかと思ったら」
「目上の人にはもっと敬意を払いなさい」
アンは無表情に返した。
「さて、あなたたちはもう一歩動いたらどうなるか想像はつくかしら?海水浴に行きたいなら一歩踏み出していいですよ」
「アンタにはユーモアのセンスはないわよ」
「待ってよグロリア。このままやり合っても今の僕たちじゃ結構不利だよ」
セドリックは止めようと入ったがグロリアはその言葉を無視した。
「アンタなんてまた実験に失敗して島を1つ滅ぼせばいいのよ。なんなら手伝うわよ?今度は何をする?」
その言葉にアンは俯いた。
「正直ショックです。あなたは私を嫌っていたことは知っていたけど、どうしてそこまで・・・」
「あら、知ったかぶりはやめて頂戴。私は別にアンタの事嫌ってなんかいないわよ」
その言葉にアンは驚いた様子を見せた。
「憎んでいたのよ!!」
グロリアは吐き捨てるかのように言った。
「なによあんな実験、何が子供の夢を叶えるよ!そこの老いぼれと同じ考えなんかして。童話の巨大な豆の木なんて再現しようとして・・・アンタなんていつまでも夢ばかり見ていた女なのよ!もっと見るべき現実があったじゃない!!」
アンを責めているグロリアが何故か泣きそうになりながら叫んでいた。
グロリアが息を吸い込んで再び何か言おうとしたが、言う前に1人の手が彼女の頭に手を置いた。
セドリックはいつの間にかグロリアの前まで来ていて彼女の頭に手を置きながら顔を彼女の横に近づけた。
「えっ、どうして・・・?」
セドリックが難なくグロリアの近くまで移動していた事に驚いたアンは床を見た。
床には凍った足跡がいくつかあり、グロリアのもとまで続いていた。
「やはりお前もか・・・」
ファウストはその床を見ながらアンにようやく聞こえる位の声で呟いた。
セドリックはグロリアの耳元で囁くように言った。
「落ち着いてグロリア、僕らは変わったんだ。あと少しだよ。だからもう少し我慢して」
グロリアは黙って頷いて顔を俯かせた。
「さてと」
セドリックはアンとファウストに向き直った。
「いろいろあり本題が話せずにいたんですが、ようやく話せそうですね」
セドリックは、かすかに波打っている床を見て、それからアンを見た。
「驚きましたねアン先生。あなたも『カプリスの書』を使ったんですか」
それに答えたのはファウストで
「ほう、あの本にはそんな名前があったのか。ワシの場合は名前がなかったな」
「この名前をつけたのは僕ですよ。カプリスは気まぐれといういみですからね、まさにピッタリだ」
暫く沈黙が続いた。
セドリックは誰も口を開かないので、再び話し始めた。
「あなたたちの場合は精霊ですか?それとも神かな?」
「お前の場合はどうなんだ?不発に終わったわけではあるまい」
「えぇ、僕もこの世界にはいないものを呼んでしまいましたよ。ですが、結果的にはそれが最初の一歩となった。そして、もうすぐゴールにたどり着くんですよ」
「何を吹き込まれたかは知らんが・・・、セドリック」
ここでファウストは始めてセドリックと名前で呼んだ。
彼は静かに立ち上がって言った。
「わかっているだろう。ワシらも、命をかけた目的があることを」
ファウストの机に置かれたフラスコが金色に、アンの指に嵌めた指輪も青く輝き始めた。




