図書館にて
セドリックとグロリアが館長室に入る少し前。
1人の人物が図書館内で探し物をしていた。
「くそっ、なんでこの図書館には救急道具がないんだよ!」
いつも顔に巻いている布などかなぐり捨てて部屋のドアを勢いよくしめて廊下に出た人物、女性の顔立ちをしているが、口調は男のように荒々しかった。
「ホントにここは本しか無いんだな!ケガした人間に対する思いやりは欠片も無いのか?」
図書館の三階をズンズンと進んでいるラッシュは悪態を吐いて次の部屋に入った。
そこはこの図書館の第三書庫だった。
またしても本の山を見たラッシュの堪忍袋の緒はついに切れた。
「あーもう!くそったれ!本なんてもう見飽きた!」
そう言ってラッシュはすぐに書庫から出て扉を蹴飛ばして閉めた。
「ったく、あの子がもしかしたら破傷風になって、それで足を切断しなくちゃならない事になったらどうするんだよ!」
次の部屋に入ろうとして扉を開けようとすると、三階の一番奥から叫び声が聞こえてラッシュの動きは止まった。
「あ~もう!結局どこにもないじゃない!一体どこにあるのよ館長室は!」
そう言ってドアをガチャガチャするような音の後、
「も~!」
と言った声の後に勢いよくドアが吹っ飛ばされた。
「おいおい、何なんだよ」
いきなり叫び声が聞こえた上に一番奥の部屋のドアが吹っ飛ばされて廊下に転がった様子を見たラッシュは目の前の部屋に入って隠れた。
そしてドアに耳をつけて廊下の音を聞いた。
すると今度は別の声が聞こえた。
「ねぇ、グロリア。多分部屋から出る時はドアを引くべきだったと思うんだけどな」
蹴飛ばされたドアを見てセドリックはグロリアに声をかけた。
「私はちゃんと引いたわよ。このドアが壊れてたのよ」
グロリアは素知らぬ顔で壊れたドアを踏みつけて階段へと戻って行く。
その後を追いかけるセドリックは。
「いやいやいや、グロリアは押してたよね?とにかく落ち着いて。笑った方が楽しいしそんな自暴自棄になってると自然から見放されちゃうよ」
ようやくグロリアは止まって、手を腰に当ててセドリックの方を向いた。
「しょうがないでしょう!あるはずの館長室がないんだもの、一体どこに隠したってのよ!」
まぁまぁ、セドリックは笑ってグロリアの頭を撫でた。
「そんなに怒らないで、逆に僕がちょっと悲しくなってきちゃうよ」
そう聞くとグロリアは黙って下を向いた。
セドリックは安心したようにグロリアの頭をポンポンと優しく叩いて言った。
「ありがとう、落ち着いた?」
グロリアは頭の手を振り払って
「子供扱いしないで」
と拗ねた子供の様に言った。
そして2人は再び、今度は並んで歩き始めた。
「僕の考えだと人間には喜怒哀楽があるけど、自然には喜しか無いと思うんだ。大昔は航海に女性の乗組員が乗り込むと海の神が怒るなんて言われていたけど、僕に言わせたらそれは普段来ることの無い女性が来た事への喜びじゃないかって思うんだよね。だって海は僕らの、いや全ての生き物の親なんだからね。子供が会いに来て怒る親なんていないだろう?ただ、自然は僕らと喜びの表現の仕方が違うだけなのさ」
グロリアはまた始まったかというようなウンザリした顔で、
「そんな長い講義は館長室でたっぷりしてちょうだい」
と言った。
「ごめんごめん、じゃぁ次は二階に行ってみようか」
そう言って階段を下る音がしたのでラッシュは扉を少し開けて廊下を確認した。
そして誰もいない事を確認すると廊下に出た。
「ふ~、怖い怖い。ドアを蹴破るなんて凄いな、誰だあれ?」
そう言ってラッシュは首を傾げたが、自分の目的を思い出して考えこんだ。
「と、とりあえずベルリネッタとあの子が無事か様子を見てみよう」
そう言ってラッシュも二階へ戻った。
二階へ降りて通りの様子一通り見ると、あの声の2人はいなかったのでようやく館長室を見つけられたのかとラッシュは思った。
そして自分の泊まっている部屋へ静かに戻ってラッシュはルーアンの様子を見た。
部屋を出る前に比べると呼吸は落ち着いているが、足は先程と変わらず痛々しかった。
「痛いだろうな、ベルリネッタは頑張っていてくれてるんだろうな。俺もなんとかしないと!」
しかし、包帯1つない状態でルーアンのボロボロの足を治すなどラッシュにはわからなかった。
「う~ん、なんか無かったかな?」
そう言ってラッシュはわずかな荷物の入った、いつも持ち歩いている布の袋を漁った。
「ホントに無いな~。こんな物あの船から盗ってくるんじゃなかった」
ラッシュはスカイライン号から盗んできた何冊かの本を見てがっかりした。
そしてその本を袋から出してベッドの隣の机に置き再び救急道具を探しに行こうとして扉に向かった。
把手に手をかけるとドサッという音が聞こえてラッシュは振り向いた。
ちゃんと置かなかったのかラッシュが机に置いたはずの本が一冊、床に落ちていた。
「ふぅ」
ラッシュはため息を吐きながらもその本を拾い上げた。
そしてなんとなく表紙を見ると目を疑った。
その本のタイトルは「救急道具が無くとも怪我を治す隠された方法」だった。
ラッシュはつい
「マジか?!」
と言ってしまった。
しかし、よくよく考えてみると先程机に置いた時はこんな本は見なかった。
そもそもこんな本を盗んできたのか?と自分で思った。
「でも良かった!これであの子は足を切らなくてもすむぞ!」
ラッシュは必死になって本をめくり用意すべきものを見た。
「用意するものは・・・、長い布、革表紙の本10冊、羽ペン、インク、血液。・・・なんじゃこりゃ?」
ラッシュはこんな物で足が治るなんて思えなかったが今は他に方法がないので、この本の言うとおりにすることにした。
「よし!まずは本なら上の階にいくらでもあったからそれを使おう。インクと羽ペンはこの部屋にあるし、布か・・・」
ラッシュは自分の着ているマントを見て迷わずそれを脱いだ。
「よし、これで大丈夫!本を持ってこないと!」
そう言ってラッシュは持っていた本を置いて廊下に出た。
ラッシュが本を置いていなくなり、暫くすると本には書かれていたはずのタイトルが消えて、何も書かれていない本になってしまった。




