裏町 酒場にて
朝から酒場に来るような奴はロクな奴じゃない。
それはこの酒場のマスターの口癖だった。
だが、今日はその口癖を一度も言っていなかった。
カウンター席には昨夜と同じように多くの若者達が陣取っていた。
今は誰も酒を飲んでおらず、ガツガツとマスターの作った朝食を食べていた。
マスターはそんな若者達を見ながら、グラスを磨いていた。
「どうだガキ共、善い事をした後の飯は格別だろう」
「ぷっは~、うまい!おかわり!」
一番に食べ終えた者が食器をマスターにつきつけた。
「バカ野郎、もうねぇよ。お前ら人数が多いんだよ、そんなにタダ飯くれてたらこの店が潰れちまうよ」
「ちぇ~」
そう言って突きつけた食器は再び机の上に戻された。
「一杯貰えただけでもありがたいと思え。それで、ちゃんとやってきたんだろうなお前ら」
ほとんどの者が食べ終わった後にマスターは聞いた。
「おおよ、抜かりなく50回やってきたぜ!」
「ハッ、俺なんて60回やってきぜ!」
「お前・・・途中で数え間違えたのか?」
「ちげぇよ!それより褒めろよ、見直せよ・・・崇めろよ」
「おいおい、調子に乗りすぎだぞ、どうせ大した事しなかったくせに」
「見くびるなよお前、俺はしみったれた顔したおっさん集団にギャグをかまして笑わせたんだぞ」
「おぉ、知らなかったぜ。お前ギャグ得意なのかよ?」
「いや、最初は冷たい目で睨まれた」
「俺なんてお婆さんの買い物袋ひったくって代わりに買い物してきたんだぞ」
「・・・頼まれたのか、それ?」
「いや、大変そうに見えたから」
「それじゃダメだろ!」
「だって俺口下手だし。あ、でもちゃんとお礼言ってくれたから結果オーライ」
「甘いなお前ら、俺は泣いている子供にお菓子をやって泣き止ませたぜ」
「お前・・・金無いのにどうやって?」
「まさか盗んだ?」
「いや、俺はお前がみんなに隠れて働いていた事を・・・知らないな」
「金はどっから出たんだよ?」
「道端に落ちてた金使った」
「バッカ!先に俺に言えよ!有効活用したのによ!」
「お前はどうせ賭けにでも使うんだろ」
「いや、皆には黙ってたけど、俺には病気持ちの婆ちゃんが・・・」
「ハァ?!聞き捨てならねぇぞオイ!なんで黙ってたんだよ!」
「ゴメン、嘘」
「嘘かよ!お前もう喋んな!」
ガヤガヤしだした若者達を見てマスターはため息を着いた。
「まったく、てめぇらは毎度毎度賑やかだな」
そしてふと気がついた。
カウンターの一番隅でまだ1人がまだ朝食の載った皿をボーッとしながら見ていた。
マスターは近づいて話しかけた。
「どうした?飯が口に合わなかったか?」
しかし、それでも若者はボーッとしていた。
隣の仲間が
「こいつさっきからこんな調子なんですよ。お~い、カマロ、大丈夫か?」
揺り動かされてようやく少し喋りだした。
「あ、あぁ・・・ど、どうしようみんな。俺・・・俺・・・」
その言葉に若者たち全員がカマロの周りに集まった。
「おいおい、どうしたんだよ。変なもんでも食ったか?」
「お前、俺にケンカ売ってんのか?」
「じょ、冗談だよマスター」
「ボーッとしてるな、何かあったのか?」
「まさか、お前とうとう犯罪を?!」
「お、おいおい、俺たちはどうすれば?」
「決まってんだろ!まずは黙ってこいつの話を聞こうぜ」
「おう、さぁ話せ!」
カマロは仲間のみんなの方をゆっくり向きながら話した。
「俺・・・、好きな人が出来た・・・」
すぐさまその言葉に全員反応した。
「ハァ?!誰?」
「紹介しろよ!」
「俺の姉ちゃんじゃねぇよな?止めとけ泣くことになるぞ!」
「恋の病ってやつか・・・、くそっ、なりてぇ!」
「どうやって知り合ったんだよ?まさかお前!みんなが朝頑張ってる中で・・・!」
「そこまで飢えてたのか」
「まるで獣だな」
「最低だな」
「バカ野郎!こいつの純心さをお前らは知らねぇのか!」
「いや・・・そうなの?」
「俺もよくわかんねぇけどよ」
「で、誰なんだよ。言え!」
カマロはそんな言葉が半分も聞こえて無い様子で答えた。
「昨日会った・・・赤い髪の眼鏡をかけた白衣の女の人・・・」
その言葉で何人かが悲鳴をあげた。
「なんだよー!あの怖い女かよ!」
「俺、顔面蹴られた事しか覚えてないや」
「でも金持ちかもな~、黄金の腕輪暮れたし」
「お前、愛より金が大事なのか?!」
「い、いや、そんなこと・・・。わかんねぇよ!お前はどうなんだよ!」
「俺だってわかんねぇよ!・・・だから聞いてんじゃねぇか」
「少なくともカマロは愛を取ったみたいだな。お前らの負けだ、俺そもそもその女知らねぇし」
「あぁ、あの女には5人くらいしか会ってないもんな」
「で、どうなんだ?美人か?」
「わからん!俺は恐ろしさしか覚えてない!」
「なんだよカマロ、一目惚れってやつか?でも一度しか会ってない人にそこまで・・・」
カマロはゆっくりと首を振って
「いや、二度会ったんだ。今朝マスターに言われて外にいた時に見た。・・・なんか凄いのに乗ってたんだ、綺麗だったな・・・」
「はぁ?凄いのってなんだよ?ってお前二度も見たのかよ!・・・これって運命?」
「それお前の言うべきセリフじゃねぇだろ」
「どこ行ったんだその人は?」
「わからない。ただ、森のある上の方に登って行った」
「森って、あそこは街の人間でも行かないとこだろ」
「あっちって何があったっけ?」
「う~ん・・・あ、変な屋敷があったんじゃねぇか?」
「変な屋敷?あぁ、あの不気味な図書館か」
「そんなとこに行くなんてよっぽどのもの好きだな。でもあの人はこの辺の人間って感じじゃなかったからな」
全員で暫く黙って考えていた。
マスターはこんなに静かになっていることに驚きながら自分でもついつい気にして考えていた。
やがて一人が意を決して言った。
「おいみんな!こうなったら方法は一つじゃねぇか?」
「そうだな!俺もそう思ってた!」
「俺も!」
「俺だって今思った!」
「笑止千万だ!・・・ねぇ使い方あってる?」
「準備はいいぞ!」
そう言って全員カマロを引っ張って酒場を出た。
カマロは何がかわからないといった顔で皆を見た。
マスターも首を傾げて見ていた。
表に出た若者達は一斉に、
「「「「「探すぞ!!」」」」」
と言って全員で走り去って行った。
静かになった酒場の店内でマスターは若者達の食器を片付けながら
「いい奴らじゃねぇか」
と笑った。




