ルーアンの夢の中にて
ルーアンが両親に抱きついて泣いている時に、その光景を離れているところから見ている人物がいた。
「うっ、うっ、辛かったのね」
ベルリネッタは涙を流しながら家族の光景を眺めていた。
「伝わってくるわ、この子のとてつもなく嬉しい気持ちが。ずっと会いたかったのね」
ベルリネッタは自分の両親を思い浮かべた。
私が今、両親にあってもこの子みたいに涙は流せないわ。
両親にはもちろん感謝している。
私を医者にさせようといくつもの教育を与えていた両親。
私自身も医者になりたいと思っていたのかもしれない。
いつからだろう、大人を誰も信用できなくなったのは・・・。
ベルリネッタはしばらくその光景を眺めて考えた。
「このままじゃこの子を夢から覚ますのは酷ってものよね。だけどずっと寝続けるわけにはいかないし、ラッシュはどう思う?・・・ねぇ?」
ベルリネッタは聞いてから気づいた、いつも一緒にいるラッシュがいないことに。
「あ、いないんだった。うん、これは私だけでなんとかしないと」
再び考えはじめると、ベルリネッタの中に今度はルーアンの不安な感情が流れてきた。
「なに?」
ベルリネッタがルーアンの家族の方をすぐさま見た。
そこには2人の客が来ていた。
「なぁ、兄さん頼むよ。一生のお願いだ」
1人の男がルーアンの父に必死に頭を下げていた。
「ダメだ、いくら弟の頼みでも聞けることと聞けないことがある。もう何度目だこの話は」
「そんな事言わないでくれよ、兄さんの職業は高利貸しだろ金ならあるはずだ」
母親はルーアンを連れて部屋の奥へと下がった。
「勘弁してくれ、娘がいるんだぞ。それにお前も無職からいきなり酒場を開きたいなんて、しかも荒っぽい裏町にだぞ。そんな奴にくれてやる金は無い帰ってくれ」
「あら、じゃあ娘さんにはどこかに行っていただきましょうか?」
男の後ろから出てきたのは1人の女性だった。
「誰だあんたは?」
女性は長い赤髪で眼鏡をかけていた。
「私はグロリア。話し合いをしたいから娘さんには外に出ていてもらいましょうか」
「何を勝手なことを言ってるんだあんたは」
ルーアンの父が一歩前に出たが、客の男も前に出た。
「頼むよ、兄さん。最後の話し合いだ。これで断ったら諦めるから」
ルーアンの父はため息をついて承諾した。
そしてルーアンに近づいてしゃがみこんだ。
「ゴメンなルーアン、ちょっとでいいから外で遊んで来てくれないか?」
その言葉を聞くとベルリネッタの視界は大きく歪んだ。
ベルリネッタ自身も強烈な不安に襲われた。
ベルリネッタは口を抑えながら思った。
なんなのこれは?
あの女を見た時から強い恐怖を感じ取ったけど、今の言葉でこの子の感情が壊れそうなくらい不安定になったわ。これはトラウマ?
ルーアンは首を振りながらまたもや涙を流していた。
「い、嫌っ・・・いなくならないでっ・・・ハァッハァッ・・・」
ルーアンは息苦しそうにしたが、この一言は力を振り絞って言った。
そしてふらついて倒れた。
その瞬間、ルーアンの夢は大きく変わり、ゴチャゴチャになっていた。
上を見るとラヴェンナの図書館が空のように広がっていて、先程までいた父親たちはいなくなりグロリアの顔が歪んで何人も出てきて笑っていた。
ルーアンの周りには誰もいなくなり、真っ黒な場所になりルーアンは倒れた。
「いけないっ、過呼吸になりかけてる!」
ベルリネッタは急いでルーアンに駆け寄ってルーアンを抱き上げた。
ルーアンは目をつぶって苦しんでいた。
「息が吐けないんだわ。えっと、こういう時は天突を突いて息を吐き出させないと」
ベルリネッタは床に座って、ルーアンの頭を膝に乗せ顔を上に上げた。
2人の周りにはグロリアの顔がいくつも近づいてきて、2人に向かって高笑いをした。
「あんたちょっと黙ってなさいよ!!」
ベルリネッタは一喝してルーアンの喉元付近の場所を親指と人差し指で押した。
「エホッ、エホッ・・・」
ルーアンは勢いよく咳き込んだが、息を吐き出すことが出来た。
「良かった、大丈夫ですか?」
ルーアンは咳き込みながらベルリネッタを見上げた。
「ハァ、ハァ。ベルリネッタさん?どうしているの?ここはどこ?」
ルーアンは首をかしげながらも起き上がろうとしたが、それをベルリネッタは抑えた。
「まだ休んでください、あと目もつぶって」
ルーアンの目が覚めて周りの景色は徐々に普通に戻っていった。
上には青い空が広がり、周りは徐々に草原になっていった。
目をつぶりながらルーアンは聞いた。
「ベルリネッタさん、ここはどこ?」
ベルリネッタは答えに迷った。
どうしよう、あんなパニックになって走ってた事を思い出させたらまた同じことに・・・。
ベルリネッタは考えて1つの結論を出した。
「ルーアンさん、目を開けてください」
ルーアンは目を開けて起き上がった。
「どうしたの?」
「ルーアンさん、ここはあなたの夢の中なの」
「え?夢の中?じゃあ、あなたも夢なの?」
「あ、私は違うの。え~と・・・もう、話がまとまんないよ~」
ベルリネッタは頭を抱えて助けてラッシュ~とベルリネッタは思った。
「ご、ごめんなさい、大丈夫?」
ルーアンは心配そうに聞いた。
その声を聞いてベルリネッタは思った。
この子なら・・・私の話をきっと信じてくれる。
ベルリネッタは静かに手を頭から離して、その手でルーアンの手を握った
「ルーアンさん、ごめんなさい。あなたの質問に答える前に私の話を・・・今まで誰も信じてくれなかった私の話を聞いてくれますか?」
ベルリネッタはすがるようにルーアンに聞いた。
「うん、いいわ。話して!」
ルーアンは即答だった。
ベルリネッタが少し驚いているとルーアンは続けた。
「ベルリネッタさんは優しい人だし、もう友達だもん!」
ベルリネッタは何も言えなかった。
「だけど、話す前に約束してね」
「約束?」
ルーアンはベルリネッタの手を強く握り返して言った。
「私のことはルーアンって呼び捨てにして、あと敬語もダメだからね」
ベルリネッタに明るい笑顔を見せたルーアン。
それはベルリネッタが何年ぶりかに見た、ずっと待ち望んでいたものだった。
顔を俯かせたベルリネッタは
「ありがとう、本当にありがとう・・・」
と何度もルーアンに言った。




