古本屋 ゴデックスにて
ラヴェンナにある一軒の古本屋。
入り口の上に掛けられている看板は比較的新しいが何故か傾いている。
古本屋の女店主のルーチェは鼻歌を歌いながら上機嫌に眼鏡を磨いていた。
それは普段は決してかける事のないお気に入りの眼鏡だ。
普段店の中でかけているのは使い古しの少し曲がっているものだが、これは両親が店の開店祝いにくれたものだ。
結局最後には店の開店を祝ってくれた両親、今でも時々会ってはいるが店の調子を聞かれると毎度答えづらくなる。
ルーチェは眼鏡のレンズを綺麗に拭いてゆっくりとかけた。
そして鏡の前へ行って自分の今の格好を恐る恐ると見た。
髪型はいつものボサボサの長い髪を櫛で梳かして、服装は一番新しい服を着ていた。
「あの時より、ちょっとはまともに・・・見えるかな・・・?」
ルーチェはそわそわしながら呟いた。
「あ、あの本をちゃんと用意しないと」
ルーチェは慌てて走り出し、自分から本の山に突っ込んだ。
「いたーーい!」
彼女は叫びながら本の山に埋もれた。
・・・30分後
よろよろと本の山から這い上がったルーチェは今度はゆっくりと歩いて店の奥へと進んだ。
彼女が30分前にはいた鏡の前の机にはやはり本がたくさん積んであったが、その上には一枚の手紙があった。
それは今朝カウンターで起きたルーチェの手元にあった謎の本に挟んであったものだ。
ルーチェへ
昨晩は、急に押しかけたご無礼お許し下さい。
しかし、あなたのお店は非常にすばらしい。
昨晩は気の利いた自己紹介もできずに申し訳ありませんでした、私はシルフィ・ダットサン。
本職は役者でたまたま昨日からこの街に来ているものです。
ここだけの話、作家志望でもあるのです。
図書館の館長のファウスト先生とも古い付き合いがありまして、あなたも本を書いているとお聞きになりました。
よろしければ、本日お会いになることはできませんでしょうか。
あなたとは本の話で多く語り合うことができそうです。
本日は図書館でファウスト先生と私の知り合いの何名かでパーティーをやるのですがルーチェ、あなたもいかがでしょうか。
場所は館長室、時間は正午からです。
できることなら来て欲しい、私は待っています。
追伸
ファウスト先生から聞きました。あなたの家には代々伝わる一冊の本があると。
よろしければ、今回のパーティーで私に読ませてはいただけないでしょうか。
「あった、あった~!」
ルーチェは一人喜びながら一冊の本を持って出てきた。
それは表紙、背表紙にも何も書かれていない、黄緑がかった本だ。
「読むって言っていたけど、ファウスト先生から聞かなかったのかしら?」
ルーチェは昨晩の手紙を見て首を傾げた。
「この本にはなんにも書かれていないのに」




