図書館 第二書庫にて
図書館の館長室にセドリックとグロリアが入る30分前。
館長室の隣、ちょうどファウストの後ろに位置する第二書庫。
部屋には多くの本棚が並べられていて、床にも本がところどころ置かれていた。
そんな中、静かに部屋に入ってきた人物がいた。
その人物は器用に本の間をすり抜けて一番奥にある壁のちょうど中心に位置する棚の前で立ち止まった。
すると目の前の棚の本を次々と抜き出していった。
そして、全ての本を取り出して棚は仕切り板だけになった。
本を全部抜き取る作業を1人でやったせいかその人物は息使いが荒かった。
最期に仕切り板を外そうとしたがいくら引っ張っても外せなかった。
おかしい。
その人物は不思議に思った。
今まではこの仕切り板はすんなり外せたはずだ。
少しの間、考え込んでいると不意に後ろから肩に手を置かれた。
驚いた人物は素早く振り向いたが、動揺して自分で床に置いた本に足を取られて転んでしまった。
「ちょっと遅かったね、この本棚の板は外せないよ」
その声に転んだ人物は顔を上げた。
「・・・、兄さん。どうしてここが?」
「う〜ん、なんとなくかな?一日ぶりだねシラー」
フーシェは笑いながらシラーに手を伸ばした。
しかし、シラーはその手を掴まず俯いた。
「なんでここにいるか・・・聞かないの?」
フーシェは手を降ろして、目の前の空の本棚を見た。
「僕たちが始めてイタズラをした所だよね。ちょうどこの壁の向こうにはファウスト先生がいつもいる机だもんね」
「兄さんが細工しなかったら今ごろ先生とセドリックさん達の話が聞けたのにな」
シラーも本棚を見上げた。
「シラー、僕に隠し事なんてダメだよ」
フーシェはシラーの目の前に腰を降ろした。
シラーは前髪を目の前に集めて目を合わせないようにした。
「ズルいよ、兄さんは。いつも何も知らなそうで、結局全部お見通しなんだから」
フーシェは黙ってシラーを見つめた。
シラーも嫌々目を合わせてため息をついた。
「わかったよ。全部話すよ」
そう言ってシラーは語りだした。
昨晩スカイライン号でCERNの科学者達と話したことを。
「お願いです!僕をエクステリアまで連れていって下さい!」
ネコと2人の科学者の前で頭を下げたシラー。
その姿を見てセドリックとグロリアはお互い顔を見合わせた。
セドリックの連れてきたネコたちはそんなことなど関係ないかのように丸くなったり座ってじっと人間を見ていたりした。
グロリアは相変わらずわけがわからないという顔をしてセドリックを見た。
セドリックはグロリアに苦笑いをしてからシラーに向き直った。
「いきなりどうしたんだい?お兄さんとケンカでもしたのかい?」
セドリックは冗談交じりに言ったが、シラーの真剣な表情を見て黙った。
「お願いします」
セドリックは黙って立ち上がり、シラーに自分の座っていた椅子を渡した。
シラーがそれを見て戸惑っていると
「どうぞ」と笑ってセドリックは言った。
シラーは頭を下げて椅子を受け取り、腰掛けた。
そして前を向くと、セドリックとグロリアの2人から見下ろされる形になり、シラーは一瞬ひるんだ。
それに気がついたセドリックは慌てて
「あぁ、ゴメンね。別に君を脅すために勧めたんだけど、逆に緊張しちゃったかな?」
シラーはそれでも珍しく声を強気にして
「大丈夫です」
と答えた。
「シラー、どうして君はエクステリアに行きたいんだい?そもそも僕たちがホントにCERNの科学者だと君は信じているのかい?」
シラーは少し目線を下げて
「あなた達がそのCERNと書かれた白衣を着ているだけじゃ、正直僕は信用しきれませんでした。だけどセドリックさんと少し話してみて自分の目で確かめたいと思いました。この船の倉庫にある機械、おそらく移動に使うものでしょうか、あれを見て僕は完全に信用ができます」
科学者の2人は黙って聞いていたが内心驚いていた。
こんな地図にも示されていない田舎の島にCERNの科学者の作った機械の正体を難なく見抜くとは思いもしなかった。
「よくあの機械の正体がわかったね。まぁ車輪が付いてるから簡単だったかな?」
「はい、それと素材が新種の高速度鋼のバナジウム鋼が使われていましたから。これもCERNの発明でしたよね?」
またも黙ってしまった2人。
確かにかなりの高温下での耐軟化性の低さを補い、より高速での金属材料の加工を可能にすべき開発された鋼である新種のバナジウム鋼。
これはエクステリアでは多いに有名ではあったがまだ世界には発表してはいないものだった。
「驚いたなシラー。なんで君がそんなこと知ってるんだい?まるでエクステリアにいたみたいじゃないか」
そして、今まで黙っていたグロリアも口を開いた。
「兄さんの知り合いだからまた変人かと思ったら、別の意味での変人を連れてきたのね。正直に話しなさい。その気になれば私が無理矢理あなたの口から聞くこともできるんだからね」
セドリックは「ダメだよ、グロリア」と窘めた。
シラーはこのように追求されるのは見越していた。
しかし、自分がCERNの科学者から少しだけでも特別視されたことに少し喜びを感じていた。
「この街の図書館の館長、ファウスト先生も同じものを考えていました。先生には実際に現物を作ることはできないけれど自分の考えは残しているんです。僕はそれを見ただけです」
セドリックはこの説明で納得したようだが、グロリアは表情を緩めなかった。
「まだよ。あなたたち子供が何人かがあの老いぼれ達から何か学んでいるのは知っていたけど、それでもまだ子供よ。そんなのがあの自動車の仕組みを理解したっていうの?ありえないわ」
その言葉にシラーは少し嫌な顔をした。
「確かに、一緒に自動車の設計図を見た兄さんはなんのことか全くわからないって言っていました。だけど僕は・・・なんでかわからないけれど理解できたんです。・・・ただ、なんとなく」
グロリアはしばらく目をパチクリさせていた。
「あ、あなた今いくつ?」
「え?15ですけど」
グロリアが再び口を開こうとしたがその前にセドリックが急に笑い始めた。
「あっ、はっはっは!スゴイやシラー!君は一種の天才ってやつじゃないのかな?」
シラーが茫然としているとセドリックはシラーね両肩を掴み、しゃがんでシラーと同じ目線の位置まで来た。
「いいよ、君をエクステリアまで連れて行ってあげるよ」
「本当ですか!?」
「ちょっと兄さん!」
2人の声が重なった。
「ただし!」
そんな2人の声を打ち消すかのようにセドリックは声を張り上げた。
「シラー、最後に教えてよ。君はエクステリアに来て何がしたいんだい?」
「何がしたい・・・?」
シラーは自分でも気づかず繰り返していた。
「そう、君はこれから学ぶであろう膨大な知識を何に使いたいんだい?」
セドリックの後ろではグロリアが不満気に腕を組んでいた。
「僕は・・・
パァン!!
急に乾いた音が聞こえ、シラーの話は中断された。
シラーは後ろを、フーシェら立ち上がって空っぽの本棚を見た。
間違いなく、館長室から聞こえた音だ。
しかもそれは2人がよく知っている音、銃が発砲された音だ。
「先生!!」
フーシェとシラーは同時に叫んだ。




