アンとルーアンの家にて
「ふぁ~あ、お姉ちゃんおはよ~」
寝ぼけ眼のルーアンがベッドから起きて食卓のテーブルについた。
「おはようルーアン。昨日はあんな時間に帰ってきたから疲れたでしょ。大丈夫?」
アンは既に起きていて朝食の準備をしていた。
「ん~、大丈夫~。・・・スヤスヤ」
大丈夫と言いつつルーアンはテーブルに突っ伏して二度寝に入った。
アンは少し呆れてルーアンを揺すって起こした。
「ほ~ら、二度寝しないの。港でお魚もらってきて」
ルーアンの朝の日課は港で漁をしている人たちから魚を貰いに行くことだ。
二人が今の家に住み始めた時にたまたま通りかかった若い漁師がアンに一目惚れして魚を大量におすそ分けしたことが始まりだ。それからは港の漁師たちには美人が引っ越してきたと噂が広まりルーアンも明るい少女なので2人して港の人気者であった。
ルーアンが港に来ると多くの漁師が船から港に魚をあげていた。
彼女は大きな籠を持って漁師の近くへ行った。
そんな彼女の姿を見つけた漁師の一人が
「おぉルーアン。今日はでかいのが釣れたから持ってけ~」
「ば~か、お前あんなか弱い子にそんなでかいの持たせんなよ」
「なんだとてめぇ!」
ルーアンが来たことでそれまで作業していた連中も加わり一斉に騒ぎ出した。
そんな中コソコソとルーアンに近づく一人の青年がいた。
「なぁ、ルーアン。ちょっといいか?」
「あ、シーマお兄ちゃん」
シーマはここの港街の最年少の漁師でアンに最初に一目惚れした人物だ。
「あのさルーアン。確かアンさんはエビ好きだったよな、これ持ってって渡してくれ!」
そう言ってシーマはひと箱もあるエビをルーアンに押し付けた。
いきなり渡したルーアンは重さによろめきながら
「う~、重いよお兄ちゃん。持って~」
「おぉ、悪い悪い」
シーマは慌てて箱をルーアンから受け取った。
「たまにはお兄ちゃんが自分で持っていけば?お姉ちゃんだっていつも喜んでるよ」
「え?い、いや俺が渡すなんてそんな・・・」
「お姉ちゃんのこと好きなんでしょ?じゃぁ自分から渡さないと!」
ルーアンは箱を抱えてるシーマの服を引っ張った。
「ちょっ、待てよルーアン。まだ心の準備ってやつが・・・」
「そんなことしてたらお姉ちゃんは他の人に取られちゃうよ!さぁ早く!」
「取られる!?そ、それは困るぞ行こう!」
そう言って二人はアンのもとへ向かおうとすると、後ろから驚いた声と変な唸り声が聞こえた。
「なんだぁ!?」
2人が振り向くとそこにはまさに『変なもの』があった。
シーマが最初に見たときは荷車に箱が乗っかたように見え、ルーアンはてっきり馬車だと思い馬はどこにいるのかと探した。
それはシーマの想像通り黒光り箱型が荷車に乗っかったようだった。しかし、荷車を動かすべき人なり馬はいなかった。代わりに箱型のスペースには人間が3人乗っていた。それはルーアンたちが見慣れている木の車輪ではなく黒い車輪が四つついており、車輪の後ろには細長いパイプのようなものが見えそこから真っ黒い煙を出していた。
それは大型船スカイラインから勢いよく出てきて港の漁師たちを驚かした。そして黒い煙と唸り声を出しながら走りルーアンたちの前を通りすぎて街へ入った。
シーマとルーアンは黒い煙にむせながらそれを見送った。
走り去る時に箱型の窓が開いていたのでルーアンはそれが通り過ぎる時に中にいる人物を見た。
座席は二列になっていて紺色の服で身を固めた人物で顔はよくわからなかった。
二列目は赤い髪の長い女性と同じく赤髪の男性がいた。
ルーアンはなぜか2人をどこかで見たことがあるような感じがした。
男の方は昨日市場であったので覚えているが、女性の方はどこで見たか思い出せない。
ルーアンは『変なもの』が去った道をじっと見て思い出そうとしていた。
確かあれは・・・ずっと前・・・アンお姉ちゃんに会う前・・・。
あと少しで思い出せそうな時にシーマの咳き込む声でルーアンは我に返った。
「ゲホッ、ゲホッ。なんだあの箱型荷車は?変な煙撒き散らしやがって、エビが台無しだ!大丈夫かルーアン?」
ルーアンは気を取り直して答えた。
「うん、私は大丈夫。それにエビも大丈夫よ、早く行こう」
そう言って2人はうちへ向かって歩いていった。
あと少しで家に着くという時にシーマは歩くのをやめた。
ルーアンは首をかしげて聞いた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
シーマは決意を固めた表情でルーアンを見た。
「ルーアン、前から気になってたんだけどさ・・・。アンさんってその・・・指にアレしてるよな?」
「アレ?」
シーマは言った途端にそっぽを向いた。
「あぁ、俺はなんて小さな男なんだ!当たり前じゃないか、あんな美人さんに気づかない男なんていないもんな」
「なんのこと言ってるのお兄ちゃん?」
ルーアンはさっぱりわからないという顔をしている。
シーマは顔を真っ赤にしながら向き直った。
「わからないのか?アレだよ、人差し指にはめてる・・・指輪だよ!」
「あぁ、指輪のことなんだ。・・・フフッ。アハハハハ!そんなこと心配してたのお兄ちゃん?おっかし~!」
ルーアンはお腹を抱えて笑い始めたのでシーマはますます顔が赤くなった。
「おいおい、笑うなよルーアン。俺は大真面目なんだぞ!・・・で、あれはやっぱり故郷に恋人がいるっていうやつか?」
ようやく収まったルーアンは涙目で笑いながら
「ううん、違うよ。あれはお姉ちゃんがこの街に来る前に大事なお友達から貰った指輪なんだって」
シーマはイマイチ納得出来ないという表情でさらに聞いた。
「その友達ってのは男友達じゃないのか?」
「ううん、気にしすぎだよ。その友達は自由気ままな女の子でお姉ちゃんの命の恩人なんだって」
「え、アンさんが命の危機にあったことがあるってのか?」
シーマはしゃがんでルーアンに顔を近づけてきた。
ルーアンは一歩後ずさりして
「そこまでは私も知らない。でも今元気なんだからそんなことはいいんじゃない?」
「ま、まぁそうだな。俺の釣ったエビでもっと元気になってもらおう!」
「その粋だよ。頑張って~!」
家の前についた時シーマはかぶっていた帽子を取って深呼吸した。
「じゃあ、いい?」
「お、おう!」
返事を聞いてルーアンが扉を開けて中に入った。
「ただいま、お姉ちゃん!今日はシーマお兄ちゃんがね~・・・あれ?」
ルーアンの後にシーマが入ってきたが、ルーアンは完全に硬直したように固まっていた。
「おい、どうしたルーアン?」
「お姉ちゃん?」
「え?」
ルーアンは急いで中に入って家の中を見回した。
家の中にはアンの姿は無く静まりかえっていた。
「お姉ちゃん?お姉ちゃんどこ!?」
ルーアンは見るからに慌てていた。
「どっかに出かけに行ったのか?」
シーマが聞くとルーアンはシーマを睨みつけて叫んだ。
「違うもん!お姉ちゃんが私に何も言わないで出てくはずがないもん!」
シーマはいつの間にかルーアンが涙目になっているのを見た。
「お、おう悪かった。悪かったって」
「・・・一緒だ」
「え?」
ルーアンは持っていた籠を落として震え始めた。
「どうしよう。お父さんとお母さんがいなくなった時と同じだ。今度はお姉ちゃんが・・・お姉ちゃん!」
そう言うとルーアンはひとつの事を思い出した。
あの赤毛の女性とどこであったのか、全て思い出した。




