古本屋 ゴデックスにて
「はぁ・・・」
もう外も真っ暗になっちゃった。
今日も誰もお客が来なかったわ。
ランプの仄かな明かりに照らされながらため息をついた女性、古本屋の女店主は先ほどまで読んでいた本を閉じて店じまいを始めた。
古本屋の中は高い本の山だらけで、本棚はひとつも見当たらなかった。
「あ〜、今日も誰も来なかったわ〜!まったく古本屋なんて儲からないのは百も承知だったけど、ここまで酷いなんて〜」
女性は自分の顔には不釣り合いに大きいメガネを上げて愚痴をこぼした。
「まったく、誰もこないから独り言は多くなるし、お金は減るのに埃は増えちゃってもう!よっこらしょ!」
彼女はカウンターの下から何十冊もの本を一気に持ち上げた。彼女の華奢な体では持ち上げられないような数の本を持ってふらついていた。
「あ、ちょっと、危な〜い!」
ドサァ!
あまりにも多くの本を持ちすぎて転んでしまった。ついでに周りの本の山も崩してしまった。
本に埋れた彼女は何とか起き上がり、綺麗な銀髪には埃がたくさんついていた。
「も〜!なんでこうなるのよ〜!お客が来ないから行けないのよ!そうよ、なんで来ないのよ!私のやり方が行けないの!?そうよ・・・きっとそうなのよ・・・私なんかが作った店なんて誰も来ないわよね・・・」
一気にネガティブになった彼女は体育座りでブツブツ独り言を始めた。
「そうよ、最初は親とか親戚には止められたのに子供の頃に読んだ本で、古本屋に魔法の本を売りにきた悪魔がいたからそれに憧れて古本屋を立ち上げたのに誰も来ないじゃない」
彼女は手元にあった本を取ってペラペラめくり始めた。
「そうよ、この本よ。このお店の名前だってその悪魔が売った本の名前にしたのに誰も気づいてくれないし。あ〜、もう!こんなに素晴らしい本がたくさんあるのに何で誰も気づかないのよ!」
彼女は立ち上がり服の埃を払った。
「グスン、早く片付けてもう寝ちゃおう」
若干涙目になり周りの本を片付けていると不意に
コンコン
すぐさま彼女は扉に顔を向けた。
「こんな時間に誰かしら、お客?、それともイタズラ?」
コンコン
再び扉を叩く音が聞こえた。
「は、は~い、ちょっと待ってくださ・・・キャァ!」
扉に向かおうとしたが本につまずいて転んでしまった。
ヨロヨロと彼女は立ち上がり、扉を開けた。
「は~い、どなたですか?」
目の前が真っ暗だったので一瞬彼女は誰もいないと思った。
「夜分に申し訳ございません。本を一冊売りたいのですが」
暗闇から急に男の声が聞こえたので彼女は戸惑った。
「えっ、え~と?」
彼女が目を凝らすとそこには真っ黒なマントを着て同じく真っ黒な帽子を被った人物がいた。
彼女はその人物を見つけると
「あ、すいませんっ、気づかなくて。と、とりあえず中へどうぞ」
「ありがとうございます」
真っ黒な男は一礼して古本屋の中へ入った。
中のランプの明かりに照らされた人物の姿は不気味だった。
わ~、なんか悪魔みたいな人
彼女がそんな事を思っていると、男は再び頭を下げた。
「こんな夜分に押しかけてしまい申し訳ありません。この店の名前が私の愛読書に出てくる本の名前と同じでつい扉を叩いてしまいまして」
女店主はそれを聞くと途端に顔を輝かせて持っていた本を掲げた。
「それってこの本ですよね!あなたもこの本が好きなんですか?」
男は帽子を取り、そこからハンサムな顔をのぞかせた。
「はい!この本です。子供の頃に両親が初めて買ってくれた本でして」
「わ~、嬉しい!あ、私ルーチェっていうんです。この街には本が好きな人はあんまりいなくてこの本だってこんな雑に使われてしまう始末なんです」
彼女はうつむきながら手にあるボロボロの本を見た。
男は笑顔で
「あなたは本に対する熱意が人一倍おありのようだ。まぁだから私もここに来たんですけどね」
「え?それってどういう意味ですか?あ、まだあなたの・・・お名前を・・・」
彼女の視界が段々薄れてきた。
あれ、私どうしたんだろう・・・なんか凄い眠く・・・。
そう思いながら彼女は倒れ込んだ。
男は彼女が落ちる寸前に受け止めほくそ笑んだ。
「名乗る程の者ではありませんよ。まぁ、強いて言うならあなたの待ち望んでいた悪魔ですね」
そう言って男は店を出ていった。
店に残されたルーチェはカウンターに突っ伏して熟睡していた。
彼女の手元にはさっき持っていた本ともう一冊別の本が置かれていた。




