大型船 スカイライン 船室にて
真っ暗になった港町。
船内でも乗組員たちはここに来るまでほとんど眠っている。
そんな船内でも船尾の部屋にはあかりが灯っていた。
部屋の中には円卓があり、数人が座っていた。
それぞれの男たちの前にはグラスが置かれており、赤ワインが注がれていた。
座っている男は、CERNの研究者セドリック。
彼の右隣は空席で、その隣にはなぜか尨犬が座っていたが、そわそわして落ち着きがなく目の前のグラスもすぐにひっくり返してしまった。
誰もその様子に無表情で、さも当たり前な雰囲気だった。
セドリックに至っては鼻歌を歌いながら尨犬を観察していた
他には海賊の被るような帽子を被った男たちが六人いた。
おそらく各船の船長だろう。
普通の人間が入ったら間違いなく、緊張して逃げ出す空気の中で一人が立ち上がり、さも平然と語りだした。
「さて皆さん、一日お疲れ様でした。船長たちはまだマシだったかな?」
その明るい言葉に海賊帽を被った男たちはセドリックを睨みつけた。
メガネを拭いていた船長は拭き終わりメガネをかけると
「何を言ってるんだ、船では食料がかなりなくなっていたんだ。しかも量が尋常じゃない、半分近くはやられてる。おそらくは密航者がいたんだろう。」
すると周りの男たちもセドリックを睨み付けるように視線を上げた。
セドリックは困ったように肩をすくめて
「それは、そちらの責任でしょう? 私達は密航者を手引きする程暇人じゃありませんよ」
今度はパイプをふかしてた船長が
「よく言うな。あんたが動物やら何やらを運びこもうとして乗組員と揉めてるうちに入られたんじゃないか?」
セドリックはその言葉に対して子供のように
「だって、僕の大切な友達を乗せてくれないなんて酷いじゃないですか。ヤギとかブタは入れてたくせに。」
船長は苛立たしく
「あれは食用に積み込んだまでだ。あんたの大切な友達を我々の胃袋で保管してもいいなら話は別だが、パリンッ、!?……」
船長がセドリックに対して皮肉を飛ばしていたら急にワインを入れていたグラスが割れた。
それも全員のが一斉に。
尨犬は「キャンッ」と言って椅子から飛び降りてそのまま外へ出ていった。
セドリックと│尨犬以外誰もワインに手をつけていなかったのでそこらじゅうにワインが飛び散った。
船長たちは今の出来事に目を丸くしてワインで汚れたテーブルを見つめていた。
「いやぁ、すいませんね船長。」
明るく話しだしたセドリックを船長たちは一斉に見上げた。
そこには相変わらずの笑顔でいる赤毛の男がいる。
「グラスの割れた音で何を言ったかわからなかった。もう一度言ってくれます?」
船長たちは全員感じ取っていた。
いまここで同じことを言ったらどうなるかを。
仮にも彼らは「CERN」の研究者である男を乗せた船の船長だ。
彼について何も知らないわけではない。
彼は「人間以外のもの」には恐ろしく丁寧だ。
彼の研究分野である「自然環境」。
彼の研究の最終目標は「環境」である。
彼の最大の言い分はこうだ
「環境が第一ですよ。我々人間が環境を変えるのではない。環境が人間を変えるべきだ。」
彼は過去に自然が多く栄えた自然を今また取り戻そうとしている。
そのためには、人間が栄えている島でさえ木々で埋め尽くした。
「今までは人間が好き勝手環境を破壊して動植物に迷惑をかけたんだ。今度はこちらが彼らの我が儘を聞きましょうよ。」
早い話が、彼は
「人間は消えて地球そのものを動植物だけの星にしよう」ということだ。
もちろんそんなことは出来ないだろうと考えている人はいるが、船長たちはこの男ならやりかねないと心中で思った。
「どうしました船長?」
船長は無表情を装いつつ冷や汗をかいていた。
すると外から声が聞こえた。
「あら、どうしたのあなたたち?」
「フー! ニャーゴ!」
そうして入ってきたグロリア。
「どうしたのかしら、あのネコたち。」
逃げていった猫を見送りながら入ってきたグロリア。
「って、こっちもどうしたのよ。グラスがみんな割れてるじゃない。」
目を丸くするグロリア。
船長たちは相変わらずテーブルを見つめていた。
「やぁグロリア、遅かったね。今度はどのくらい遠くにいたんだい?」
セドリックは今しがたのことは忘れたように話しかけた。
グロリアは少しムッとして
「なによ、私のことなんてネコに探させて兄さんは船でのんびりしてるなんて、不条理よ」
セドリックは後ろの棚からグロリアのグラスを取り出しながら
「人間がはびこる世の中なんてそんなものさ」
と諦めたように言った。
「そうそう、さっきネコが逃げていったけど何かあったの?」
カシャン!
再びグラスが割れる音がして、今度のセドリックの顔は真っ青だった。
「なんてことだ。ネコが逃げちゃったなんて。僕のせいだ、謝らないと!」
そう言ってセドリックは部屋から大急ぎで出ていった。
残されたグロリアと船長の間にはまだ居心地の悪い空気が漂った。
グロリアは棚へ歩いて行き新たなグラスを取り出した。
船長たちはこの隙に帰ってしまおうと考え始めた矢先に。
「皆さん私に一つ貸しが出来たわね」
グロリアはグラスにワインを注ぎながら切り出した。
「おおかた、兄の前で動物のことでも穢したんでしょうけど覚えておきなさい、あなたがたの命なんて兄の中では塵以下なんですから」
そう言ってワインを一気に飲み干すグロリア。
「兄はもう今のことはすっかり忘れたでしょうけど、次はないわよ。」
船長たちは皆青ざめた表情で部屋から出ていった。
一人だけになったグロリア。
暫くすると、再び部屋に入って来た尨犬。
「あぁ、来たのね」
尨犬に静かに話しかけるグロリア。
「そろそろ貴方の計画、聞かせてもらいましょうか」




