街の酒場にて
酒場は毎日のように酔っ払いで溢れている。
そんな酒場の中にまだ酒を飲むには早すぎる子供たちが一人の大人とテーブルを囲んでいた。
「いや~、助かった! すまないな、こんな見ず知らずの人に子供たちが奢ってくれるなんて。ここは素晴らしい街だ」
笑いながらその人物はガツガツと飯を食っている。
テーブルには普通の人が食べる五倍の器が並んでいる。
「え、奢るなんて言ったっけ?」
「僕、お金無いよ兄さん」
「え、じゃぁ・・・」
二人から視線を受け取ったルーアンは驚いて
「え、なんで私なのよ? 私もこんなに払えるわけないでしょ~」
「なに? じゃあこの飯代はいったい誰が払うんだ?」
おかわりを持ってきた恰幅の良い店主が恐ろしい顔で尋ねてきた。
「えっ、え~と、ど、どうしよう?」
ルーアンがオロオロしながら二人に聞いてきた。
「う~ん、こんままじゃ一ヶ月くらいタダ働きかな」
こんな時でも笑顔なフーシェ。
「いや、奴隷にされちゃうかも!」
顔を青ざめて言うフーシェ。
「え、え、え、嫌だよ。どうしよう?」
もはや半泣きで慌て出すルーアン。
「さぁ、それが嫌ならとっとと親でも呼んで・・・!」
店主が慌てたルーアンに漬け込んで脅かしていると急にバン!と誰かが机を思い切り叩いた。
酒場の中の空気が一瞬で変わり、酔っぱらいまでもが黙り込んだ。
叩いたのはこの原因を作り出した人物だ。
人物は顔の周りを布で覆い、マントを肩にかけていて、性別はよくわからない。
酒場の店主は驚いて
「ど、どうしたんだよ?」
その言葉に静かに答える人物
「あ? どうしただ? てめぇ、人が黙って飯を食ってれば女を脅し始めて泣かせるたぁ、どこの極悪人だ? え?」
「へ?」
酒場の者全員が人物の放つ殺気で声も出せなかった。
「い、いや俺はその、ちょっと脅かしただけで別に・・・」
今度は店主がルーアンのように慌て始めた。
殺気を放った人物は静かにため息をついて
「いい度胸だ、表にでろ」
いつのまにか人物の手には獲物を狩るナイフが握られていた。
危険を察知したルーアンがあいだに入り込み
「や、やめてください、私はもう大丈夫ですから」
その言葉を聞いても人物はナイフを収めず
「しかし、お嬢さんこの野蛮人は女であるあなたを泣かせたんだ。同じ女である私が一番あなたの心の悲鳴がわか
る」
ルーアンはその言葉に驚いて
「え、女の人なんですか?」
フーシェもシラーも驚いた顔をしていた。
その言葉に女性は目を丸くして顔の周りの布を外した。
「命の恩人に顔も見せず名乗らないとは一生の不覚! 私はベルリネット・ボクサー。どうかベルリネッタとお呼びください」
女性は20代位の顔立ちで今時の女性と違い化粧もしていなかったが酔っ払いたちが目を見張るほどの美しさだっ
た。
店主も目を丸くして少し頬を赤らめていた。
が、後ろから投げられたフライパンが後頭部に直撃し気絶した。
おそらく彼の奥さんが投げたのだろう。
そんなことには目もくれないベルリネッタはルーアンに手を差し伸べてしゃがみこみ、言った。
「あなたの涙を見てしまったらここは私が金を出さなければ!」
さも当たり前のことに胸を張るベルリネッタ。
「普通に当たり前のことだよね」
シラーにこっそり囁いたフーシェ。
「うっ、や、やかましい!」
急なツッコミに慌てるベルリネッタ。
「でもベルリネッタさん、お金はあるの?」
ルーアンは再び不安な顔をした。
ベルリネッタは再び笑顔でルーアンに語りかけた。
「大丈夫です。今思い出したのですが、昼間に街でこんなものを拾ったので。価値はそこそこにあるでしょう」
そう言ってベルリネッタが懐から出したのは昼間にグロリアがチンピラたちに投げた純金の腕輪だった。




