第8話 れっつ!プリ活!
東京駅はプリ活の聖地だ。
プリ活とはなんぞや。造語なのかどうかは知らない。それは彩とフレンドさん達との間で、いつの間にかはじまっていた遊び。
誰かが美味しいプリンを食べては、SNSに写真をあげる、すると真似して誰かが別のプリンをあげる。今や彩のタイムラインはプリンであふれていた。
そしてとうとう「プリ活行きましょう!」と、にたまごさんからお誘いがかかったのだ。
「メイさん!お久しぶりです!」
平日だろうと土日だろうと、東京駅の八重洲口はいつでも人で溢れている。めまぐるしい人の往来の中で、その人は明るい笑顔で、茶色い長い髪をなびかせ、真っ直ぐに彩の元へ小走りに駆け寄ってきた。
にたまごさんは、可愛らしい女性だった。二十代後半だろうか。特段正確な年齢の話をしたことはないが、何年もおしゃべりしていれば、なんとなく伝わってくる。ゲームでの無双ぶりなんて嘘かのような、おっとりとした女性だった。
「今日は少し涼しくてよかったですねぇ」
不思議なことに、時折にたまごさんは彩を誘ってくれる。ゲームのイベントのチケットが取れたとか、コラボカフェに行きましょう、とか。明るいキャラクターでたくさんお友達がいるだろうに、わざわざ名指しで誘ってくれる。
「では、いざ参りましょう」
にたまごさんはスマホ片手に人ごみをかき分けていく。一軒目のその店は、八重洲口からすぐの場所であった。
お目当ては、とうもろこしのプリンである。メニューにはプリンの他にもタルトやらスコーンやら、サンドイッチもそれはそれは美味しそうであるが、プリン。そう、二人はプリンを食べにきたのだ。誘惑に首を振って、二人はとうもろこしのプリンを注文した。
出てきたプリンは、銀の背の高いボールの上に鎮座している。その上に白いクリームととうもろこし。さくらんぼではなく、黄色い焼きとうもろこしが夏らしくて愛らしい。
「このクリーム……ポタージュみたいな味がする」
にたまごさんが、感嘆の声をあげる。
プリンの上のクリームを一口口に入れると、確かにほのかにとうもろこしの味が広がり、それはさながらポタージュだ。
では、プリンとクリームを一緒に頂きましょう。
まず飛び込んできたのは、カラメルのほろ苦い甘さ。次にプリンの濃厚な卵、そしてそれらをクリームの柔らかさが包み込んでゆく。まるで優しい恋人から山ほどの贈り物をもらったかのような幸福が、口の中いっぱいに広がる。
「良き、プリンでした」
おしゃべりもそぞろに、お互いプリンを堪能し、二人はスプーンを置いた。
二軒目は、東京駅構内。レトロなプリンが食べられる喫茶店があるとのこと。
東京駅の構内は、何年住んでいても魔境だ。二人はゲームの攻略さながらに東京駅を進む。雑踏の中、声を張り上げなければ話ができなかった。
「あった!」
駅の改札の手前に、お目当ての喫茶店を見つけた。
が、意外とプリンもお腹にたまる。お腹の苦しみに不安を覚えていた彩だが、にたまごさんの顔も少しかげっている。
「半分こ、にします?」
彩は思わず、笑って提案する。
「いいですね」
にたまごさんも、ほっとしたかのような顔で、お互い笑い合った。
今度のプリンは固めのクラシックなプリン。四角い形で出てきた。真ん中をナイフで切って、二人でシェアする。
カウンターに座って隣同士。なんだか恋人のようなその距離でプリンをつつく女二人。カラメルは大人の味のような苦味。
「おいしい」
ラテをすすりながら、少し苦しくなったはずのお腹に、ぷるんぷるんと、プリンは自然におりていく。
カウンターの向こうに駅の改札が見える。忙しなく通り過ぎる無数の人影。のんびりプリンを分けあう二人だけ、別次元にいるようだ。
「あ、これお土産」
にたまごさんは、思い出したかのように袋を渡す。中には大阪のお菓子がつまっていた。
「私はこれを」
私はあんこを差し出す。
「あ!あんこ好きです!!」
「次回はあんこプリンのお店も行きましょう」
「あんこプリン!?」
甘いは正義だ。甘いは人を幸せにする。少なくても、今日の私たち二人は。
店を出ると、流石にもうお腹は苦しかった。というか、甘さが苦しい。幸せな苦悩。
と、そこに飛び込む文字。
「にゃんこプリン!?」
猫の形のプリンの写真が、また別のカフェの前に掲げられている。なんというビジュアル。
二人は顔を見合わす。
「第二回もやりましょう」




