第6話 パンが食べられないなら、さくらんぼを食べればいいじゃない
「パンが食べられないなら、さくらんぼを食べればいいじゃない?」
その段ボールをあけた途端、明るい声でそんな言葉が聞こえた気がした。
彩はかれこれ五年ほどSNSを続けている。ゲームが趣味の夫に付き合って始めたSNS。
アカウント名は「メイ」。五月生まれだから。
「メイさん!送りたいものあるんですけど、受け取りいつが都合いいですか?」
それは「てまり」さんからの、突然のDM。彩は慌てる。最近はあまりゲームもできていなかった。
「じゃぁ私の本名出ちゃうけど、受け取ってくださいね!」
一体急に、何を送ってくれようとしているのだろう。
まだ二回しかお会いしたことのないてまりさんの、お日様のような笑顔が思い浮かんだ。
五日後に届いたのは、予想していたより大きな段ボール。下の子なら丸まって入れば収まるだろう。
「嘘……」
突然の大きな贈り物。玄関で乱舞する子どもたちをよそに、彩の心は恐縮でいっぱいだった。騒ぐ子どもたちを制しながら、丁寧に段ボールをあける。
その中には、優しさが詰まっていた。
一番最初に飛び込んできたのは、さくらんぼ。
そうか、てまりさんは山形の人だった。しっかりとした箱の中に、さくらんぼはぎっしりと詰まっている。「さくらんぼなんて、一体いくらなんだろう?」喜びと同時に、金銭的な心配が彩の頭をよぎる。箱を開けると、なんと全て双子のさくらんぼだった。思わず彩は、子どもたちと一緒に「可愛いっ」と声を上げた。
さくらんぼの他は、たくさんのお菓子が詰まっていた。米沢牛ポテトチップス。おせんべい。「つや姫」と書かれたチョコレート。酎ハイ。おつまみ。
山形名産と一目でわかるものと、名産かどうかよくわからないものが混ざっていた。
思い思いのお菓子を手に、子どもたちは大はしゃぎだ。
「少しでも、食べられるものがあれば」
大急ぎでお礼のDMをすると、てまりさんからそう返ってきた。
今日はもう遅いから、少しだけね、と、さくらんぼを数個だけ洗い、子どもたちと食べる。甘酸っぱいさくらんぼは、一瞬で口に広がる。双子のさくらんぼ。それは見ようによっては、ハートの形に見えた。
ハートに想いを馳せていると、おせんべいも!と、せがまれる。仕方ないと、おせんべいも袋を開けた。頬張ればぱりぽりと、軽快な音が響き渡る。醤油の味が、甘くとろけていた口の中を、きゅっと引き締める。
「なんだかんだ考えてたら、結局たくさんになっちゃって!ご家族で食べてください!」
一晩じゃ食べきれないほどの「おいしい」。どうしてこの人は、本名すら知らないこの人は、こんなにも親身であろうとしてくれるのだろう。並べられたさくらんぼとお菓子の山を前に、彩は不思議を見る。
あとで、夫が帰ってきたら、酎ハイを一口飲もうか。
そういえば、来週は別のフレンドの「にたまご」さんが、オフ会をしようと言ってくれている。




